#014 採点基準と呪術の基礎

「納得できないわ、こんな結果」

「なんで1番がコウヘーなんだよ!!」


 食堂に張り出された実技試験の結果。そこには圧倒的な力を見せたトーヤをおさえ、最上段を獲得するコウヘーの名があった。


「え~、コウヘー君も、良かったと思うけどな。それに…………ほら、魔法使いだと、採点基準とかも違うんじゃない?」

「いや、実技なんだから前衛有利でイイじゃないか!」

「そうよね、基準点さえクリアできていればいいわけだし」


 モモヨのフォローも虚しく、コウヘーにヘイトが集まる。たしかに不満の引き金となっているのは『不明瞭な採点基準』だが、問題の根底にあるのは『待遇改善活動に全く協力しないコウヘーへの不満』と、勇者と持ち上げつつも結局は自分たちの事を『ただの兵器としか思っていない王国への不満』が溢れたものだった。


「みんな、落ち着いて」

「トーヤ、お前も何か言ってくれよ!」

「まぁまぁ、落ち着いて。これは試験だよ?」

「いや、そのくらい……」

「テストって、最後の応用問題だけパーフェクトでも意味無いよね」

「え? あ、あぁ……」

「試験の真の目的って(ウルフ討伐ではなく)"パーティーに貢献できるか"を見るものだったんじゃないかな?」


 そう、参加者の中で『実際の運用を想定した動き』を見せたのはコウヘーだけだった。


「それに、あまり意味は無くても…………やっぱり出来る事は一通り見せた方が、試験官も採点しやすいよね?」

「あぁ~、たしかに、トーヤは大きいのを1発見せただけ。採点方法が加点式だと不利になるか」

「チッ! それならそうと言ってくれればいいのに!!」


 まだまだ不満の声はあがるものの、その表情からはひとまずの"納得"が読み取れた。


「言われなくても考えてやれって事なんでしょうね。ここは、学校じゃないんだし」

「「…………」」


 しかし実のところ、この試験にそこまで厳密な採点基準は存在しない。審査官の匙加減が大きな比重を占めており、そして…………コウヘーが評価されたのは隊長であるレイオスの一押しによるもの。そしてその理由は『ウルフを殺すのに躊躇が無かったから』であった。





「まったく、いい迷惑だ」


 俺は食堂に張り出された結果を見た瞬間、食事をかき込んで足早にその場を去った。


 いちおう『ほどほどに評価されるよう狙っていた』が、まさか最優良までいくとは。とはいえ、あれで『戦力が再評価されて1軍入り』とまでは行かないだろう。せいぜい2軍止まり、待遇がよくなったら嬉しいなってところだ。


「まぁいい。見られては…………いないな」


 牢屋の中から見張りの様子を確認する。禁忌魔法の適性者とは言え、俺は勇者であり一般兵士よりも階級は上。そこはあるていど配慮して『離れた場所から背を向けての監視』となっている。


「それじゃあノルマを回収させて、もらいますね」


 髪を切って作った小さな藁人形…………いや、髪人形か。これを魔法で動かし、通気口へと送り込む。


 独学で研究をすすめた結果、呪術の特性をある程度把握できた。まず俺は、触媒無しで怨念をある程度操作できるものの、髪や血を触媒にする事で細かい支持を追加できる。そして同じく呪う対象に由来する触媒を用意する事で、人が持っている抵抗(魔法的な防御も含む)をある程度無視できる。


 そして怨念には、保存の法則と個性があり、前者は要するに『呪いは有限』という事だ。兵士に植え付けた軽い怨念は、しばらく効果を発揮した後に効力(存在)を失った。


 そして後者は、怨念ごとに対象や効率が変化すると言うもの。牢屋にあった呪いの対象は"兵士全般"であり、無関係な勇者や雑多な小間使いは呪えない。くわえて(触媒を用いても)相手を苦しめるような命令は通るものの、無関係な命令、とくに対象を助けるような命令は受け付けない。


「まったく、どれだけ殺してきたのか……」


 しばらくして戻った人形を回収する。これは自立して行動できないので、俺が魔法で遠隔操作する必要があり、その間俺の行動は大きく制限されるほか、操作可能範囲も限定される。


 そして人形を使って回収したのは、お隣にある『拷問室に残った怨念』。もしかしたら取調室かもしれないが、名前などどうでもいい。とにかくそこに大量の怨念があり、こいつらが俺の安眠を妨害していたのだ。


「しばらく、"ここ"で眠ってくれ」


 そして回収した怨念を、人形ごと脇差に融合させる。これによって怨念は俺の制御下に加わり、ホラー映画垂れ流し状態から解放されるわけだ。


「あとは…………どうするか」


 この施設には、まだ怨念を貯め込んでいる場所がある。そこはまだ俺の魔法射程範囲外なのもあって手つかずだが…………ここまで来ると"情"というか『この国を恨む同志』くらいには思えていた。




 こうして俺は、脇差に大量の怨念を取り込み、妖刀や魔剣と呼べる状態まで育てていた。

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