#015 派閥と前線部隊
「コウヘーさん、ちょっといい?」
誰だコイツ??
フィーアさんの指導を終え、食堂に向かう途中。雑多な召喚女勇者Aに声をかけられた。
「えっと……」
「あぁ、私はエイミ。それで一緒に食事でも……」
本当にAだった。たしかコイツ、戦力外を中心としたグループのリーダー格だ。準戦力を含む連中を纏めているのがモモヨで、アイツラは地球への帰還を目指しており(べつに戦えないヤツラを差別するとかは無いようだが)非戦闘員には料理や経済活動、つまり『別の何かで協力してね』ってスタンスになる。
「興味ない」
「ちょちょちょっ! 待って! べつに非難するとかそういうのじゃないから。コウヘーさんにも有益な話になるはずよ!!」
「興味は、ない」
コイツは逆に『大人しく従っていいものか?』って派閥になる。その考えには俺も賛同しなくもないのだが、問題は『じゃあどうする?』ってところ。これがA班程度に戦えるのなら話も変わってくるが、現状ではただ駄々をこねているのと変わらない、無能を通り越してお荷物集団だ。
「ま、まぁ、勝手にご一緒させてもらうけど」
「…………」
勝手についてきて、一方的に話し始めるエイミ。
「言っておくけど私たち、軍に逆らうとか、そういうことを考えているわけじゃないからね」
「………………」
わざと見張りの兵士に聞こえる音量で話すエイミ。交渉はしているようだが、現在、魔族領への侵攻にかかわらない経済活動は全面禁止。いちおう、料理の話は『前線に出たのちならOK』となっているので、ようするに侵攻に絡める形なら、いくらか許容されるのだろう。
「コウヘーさんだって、軍の支援だけで満足に戦えるとは思っていないでしょ? それに、戦いが終わった後の身の振りとかもあるし」
「御託はいい。恩を売り込みたいなら、まずは売れるものを見せろ」
まずは試験をクリアして前線に出て、さらには実際に戦っている者に何らかの形で貢献しなくてはならない。しかしそれだけならモモヨのグループでいいわけで…………そこからの方針に何か『大きな相違点』があり、派閥をわけているのだ。
「えっと、家を作れる子と…………あとは機械! 魔道具とかも加工できる子もいるわ!!」
くそっ。聞いたら、ちょっと欲しくなってしまった。この先、戦地で野宿する機会は増えるだろうし、メカニカルな武器もあるので改造やメンテナンスが出来る人材はあって困らない。
とはいえ、お荷物を抱えてまで欲しい人材かと言えば、そうでもない。いちおう最低限の技能者は(軍の息のかかった者になってしまうが)用意して貰えるので、普通に戦っている段階なら不要。
問題は軍を抜けた後。魔族領でサバイバル生活をするか、それとも王国領に隠れ潜むのか、はたまた別の選択肢を選ぶのか。そのあたりは前線に出てから臨機応変に対応する予定で…………コイツラがその生活について来られるとは思えない。
「面白いとは思うが、そいつらは"最前線"についてこられるのか?」
「それは……」
勇者が投入されるであろうラインは幾つか存在する。国境を守る防衛ライン。相手の領地・拠点に切り込む最前線に、それらを中継する補給部隊。そして戦力外が配置されるのは防衛ラインであり、そこでは雑多な兵士とともに活動して、たぶん、自由行動もほとんど許されないだろう。
「俺は最前線で戦うつもりだ。最低でも補給部隊に入れるだけの実力が無いと、協力もクソもないぞ」
「…………」
「まぁ、せいぜい頑張ってくれ。ほかに何か"意図"があるにしても、最低限の実力は必要だ」
こうして俺は、ひとまずエイコの申し出を断った。
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