#016 政治体制と王族

「グッ! ……ついに、一本取られてしまいましたね」

「いえ、たまたまです。それに、剣ならまだ勝てないかと」


 私は今日も、コウヘーの指導に専念する。いちおう彼は魔法使いであり、木杖を使っているが…………敵わなくなるのも時間の問題。私も腕には自信があったのだが、さすがは勇者といったところか。


「謙遜ですね。コウヘーの立ち回りは杖や剣だからというものではない」

「そう、ですか」


 いや、コウヘーの才能は別物。単純な打撃力や速さでは私が勝っているものの、打ち合ってみると五分かそれ以上の強さを感じる。それはまるで『達人との手合わせ』。目先の能力では語れない、言うなればことわりの強さだろうか。


「本当に、惜しい」

「??」


 魔物との戦いは、(技能重視の対人戦と違い)単純な火力が重視される。そういった意味では、たしかにトーヤたちの方が向いているのだろう。しかし技能が有用な魔物も多く、何より立ち回りが信頼できる。


「いえ、少し休憩しましょう」

「はい」


 少なくとも…………間引くほどでは無いはずだ。


「そういえば、近いうちに姫様や教会の方々が祝福を授けに来てくださいます」

「祝福ですか?」

「王選は、王国で1番権威ある儀式と言えます。各陣営、習わしにのっとって……」

「ようするに、監査ですか」

「ま、まぁ……」


 ガスト大正義王国(当時はただのガスト王国だったが)は、初代国王と勇者ガストが魔族と戦いの末に勝ち取った土地であり、人族の国として独立したのが始まりとなる。


 現在の王選は、『王位継承者が前線におもむく』事は無くなったが、それでも"総指揮官"として戦地に出向き、お抱えの兵や商人も交えて勇者の活動を支える。そして継承権を持たない王族や司祭が、その儀式を検視するのだ。(形式的な側面が強く、四六時中監視するわけではない)


「そういえば、教会の人も、会ったことがないですね」

「あぁ、いちおう、敵対と言うほどでは無いのですが…………軍と教会、あと文官は、それぞれ不介入の掟があって」

「もしかして、大正義がついたのって、王を象徴にして三竦みの政治体制を敷いてからですか?」

「そうですね」


 王選の儀は、軍の力を借りざるをえないが、本来、王族はどの勢力にも肩入れしない、それぞれを監督する立場にある。それまでの王国は軍事国家であり、暴動も頻発していたそうだが…………国民を助ける教会、魔物を退ける軍、規律をつくり税(お金)を循環させる文官、そして頂点からすべてを監督する王族。それぞれの権力を分かつことで、ようやく今の状態に落ち着いた。


「なるほど……」

「ちなみに私! 姫様の側仕えをしていた事もあるんですよ! 将来は、姫様お抱えになるかも……」

「(グレゴルド)王子様の派閥じゃなかったんですか?」

「いちおうそうですが、その……」

「姫様も、どの後継者寄りとか、あるんですね」

「はい」


 当たり前だが王族の中でも序列があり、次期国王が決まれば、それまで派閥についていた王族の権威もあがる。


「つまりそのお姫様は、あの王子様が次期国王になれると思ったと?」

「えっと、それは…………いちおう、そういう事にしておいてください」


 姫様は末の子で、押し出される形で第四王子の派閥に入った。そこに本人の意思は無かったし…………そんな歳でもない。


「いろいろ、あるんですね」

「……はい」




 こうして私は、脱線しつつもコウヘーの指導に専念した。そしてあわよくば…………彼だけでも、助かって欲しい。

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