#022 格好と勝利

「いない!?」


 櫓を確認してもコウヘーさんらしい影は居ない。櫓の柵は立て籠もれないよう、あえて隙間だらけになっており(いちおう何割かは防いでくれるが)運が悪いとアッサリ隙間を抜かれてしまう。


「私の陣地を狙っているのか…………あるいはカウンター狙いか」


 今回の勝負、勝ち負けこそ決まっていないが、経験者の私がここまで主導権を握られてしまったのだ。実質的な敗北と言わざるを得ないだろう。


「だからって、素直に負けて…………いられないのよね!!」


 遮蔽物から飛び出し、見えた影人形を撃ち抜き、そのまま次の遮蔽物に飛び込む。考えてみれば私は経験者として、"格好"を気にして…………いや、"常勝"に執着していた。リスクを承知で攻める、ハングリーさを失っていたのだ。


「やはり、ダミーか。それじゃあ…………陣狙い?」


 今のところ本人は居ない。最初の予想は『影の中に本人が潜んで、距離をつめている』だったが、そこまで好戦的では無かったようだ。


「……いや、それはないか」


 私の陣狙いなら、私の大まかな位置が割れた時点で走り出し、すでに占領勝利しているだろう。


「やっぱり、待っているのか」


 本名は神楽公平だったか…………彼の性格や考えが読めない。一見リアリストで、合理的に勝ちを目指すタイプに見えるが、本質的には勤勉で、もっと先の『大きな勝利』を見ている、そんなタイプに思える。


「こうなったら、もう!」


 隠れるのは止め、真っすぐ敵陣へ向かう。王国の人たちに戦力外を突き付けられているものの、私には『ミリオタの端くれ』としてのプライドがある。そして何より……。


 大きな懸念を抱えている。私の予想が正しければこの戦い、地球に帰れるとかそれ以前の問題が待ち構えている。薄々気づいている人は何人か居るだろうが、たぶん、最悪の可能性を想定して本気で動いているのは"コウヘー"だけ、なんだと思う。


「待たせたわね」

「思ったほどは、待っていないさ」


 覚悟を決めたら、コウヘーはアッサリ見つかった。いや、最初から堂々と、自陣で私を待ち構えていたのだ。


「早打ち勝負ってことで、いいのかしら?」

「ご自由に」

「まったく、とことんセオリーを無視してくれるわね」

「それは…………サバゲーなんて分からんからな」

「まぁ、そうよね。ハァ~~~~」


 今年1番のクソデカ溜息がでた。


「「…………」」

「ッ!」


 長い沈黙ののち、先に動いたのは私。ここまで来たら小細工は無し。素直にショートバレルで最速の一撃を打ち込む。


「やはり魔法って、初動は遅いよな」

「……ほんと、連射とか、終わっているのよね」


 私の放った<ウインドショット>は、コウヘーに当たる寸前、<ファイアボム>の爆風に巻き込まれて消滅した。遅延術式につづいて、今度は"即起爆"。防御魔法は禁止したが、攻撃同士の相殺は禁止していなかった。


「まだやるか?」

「降参。私の負けでいいわ」

「そうか」


 こうなると、このまま距離をつめられて終わり。私の攻撃は届かないし、逆に私は爆風に巻き込まれてしまう。せめて<カモフラージュ>を見せていなければ、あるいは足で勝っていれば悪あがきも出来ただろうが…………そもそも彼は、(魔法に頼らず)高速魔法を身体能力で避ける運動神経をもっている。


「それで提案なんだけど……」

「ん??」

「協力、させてくれない? 魔法銃は約束通りあげるし、メンテナンスや、カスタムもするわ」

「まぁ、ギブアンドテイクなら」

「フッ、よく言うわ」


 結果は私の"完敗"。今思えば、コウヘーの狙いは最初からコレだったのだろう。単純な勝負の勝ち負けではなく、精神的な勝利。消去法ではなく、本当に私が納得してコウヘーに協力するよう、あえて正面から全力で叩き潰しに来たのだ。


 ほんと、ムカつく。


「コウヘー」

「呼び捨てか」

「これくらい許しなさいよね。いちおう、パートナーみたいなもんなんだし」

「勝手にしろ」




 こうして私は…………清々しく、負けた。

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