#041 警戒と暗殺者

「驚いた、この場所を知っている者がいたとは」

「それは…………そ、それより! 今、魔族が!! 隣で戦って……」

「「…………」」

「……気をつけて」

「うん、わかってる」


 秘密の脱出口から現れたのは、騎士のドライとその部下3人であった。つまり恩師であり、援軍ともとれる状況だが、その仕草から不穏な雰囲気を感じ取り、エイミたちは思わず後ずさる。


「フッ、勘の良いガキだ」

「殺気、隠せていませんよ」


 戦地に乗り込むとは言え、目の前にいるのは戦力外の女子であり、それに対して剣を抜き、臨戦態勢と言わんばかりに魔力をこめている。それでもコウヘーから裏事情を聞いていなければ騙されたであろうが…………黒幕が王子であり、この襲撃が茶番なら、わざわざ秘密の通路を使って奇襲する必要は無い。


 もしそこに理由があるとすれば、それは証拠隠滅。裏で糸をひいていた先導者を殺すとともに、念のためにそれらと接触した人物と、先導者を殺す前に接触してしまった人物も殺さなくてはならない。なにせ先導者は、農民の中に紛れているのだから。


「隣は、派手にやっているようだな。まったく、思うようにいかないものだ……」

「「…………」」


 愚痴をこぼしながらも、どこか楽し気に引き上がるドライの口元。


「……やれ」

「「ハッ!!」」

「なんのっ!」


 ドライの指示で部下2人が仕掛ける。場所は薄暗くも狭い室内であり、人数差をいかして囲む戦法は使えない。


 一気に距離をつめてくる部下2人に対し、エイミは近くにあった檻を引き寄せて盾にする。相手の武器は細身の長剣であり、盾としては心もとないが、無いよりは遥かにマシだ。


「小賢しい!」

「「キャッ!!」」


 魔力で強化した身体能力をもって、金属の檻ごと2人を吹き飛ばす。衝撃で意識が飛びそうになるが……。


「私たちだって……」

「……うん!」

「「しまっ!!?」」


 檻の隙間から覗く銃口。これは魔法銃ではなく、実弾が装填された散弾銃。部下たちは最低限の鎧を装備しているものの、隠密行動重視で防御の隙間は多い。


「ぐふっ……」

「くっ、小癪な……」

「ハハァ! なかなかヤルじゃないか」


 1人は重傷、もう1人は軽傷といったところか。そしてドライは距離があったのと、部下が展開した魔法障壁で無傷。


「まだまだ!!」

「それなら!!」

「なっ! 俺を、待っ!!」


 重傷の仲間を盾に距離をつめ、そのまま再度エイミたちを吹き飛ばす。


「「ぐふっ!!」」

「ハハッ! なかなか良い見世物だったな」


 散弾銃は単発撃ちで、なんとか第二射を放つも肉壁に阻まれてしまう。そこからまたも吹き飛ばされ、ついに2人は血を流しながら気絶してしまった。


 結果的にドライは部下1人を失ったわけだが、悲しむどころかすこぶる楽しげだ。


「おまえも、良い判断だったぞ」

「ハッ!」


 部下は軍人であると同時に、ドライが育てあげた暗殺者。暗殺者として先の行動は合理的であり、ドライも調教の成果に満足していた。


「まぁ、1人ヤったのなら、上出来か」

「ふっ、コチラとしては、大失態だがな」

「「…………」」




 別室の戦いも終え、両陣営の大将が軽口を吐き捨てて睨み合う。

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