#042 対人戦の駆け引きと呪い

「悪いが、貴様にはここで死んでもらう」

「いいのか? 有能な勇者を殺しても」

「うむ、惜しいには惜しいが…………小細工が得意な者は、扱いに困るからな」

「たしかに、納得だ」

「「…………」」


 まったく、この国の人権意識は本当に終わっているが、合理的で理解も出来る。出会い方が違えば…………いや、見方を変えても腹の内に貯め込んだドス黒いつみが無くなるわけではない。今、この国に必要なのは、傷口を作り、膿を吐き出す機会なのだ。


「やれっ」

「「ハッ!!」」

「くそっ!」

「ハハハっ! どうした? 動きが悪いぞ」


 トカゲ男のダメージが、まだ残っている。とはいえ、相性自体はいい相手だ。これなら……。


「フン!」

「魔法は! 使わせん」

「けち臭いな、まったく」


 杖を弾かれてしまったが、問題無い。近距離の対人戦において、魔法は不利であり、頼る気はない。


「そこだ!!」

「おっと」

「暗器か、小賢しい」


 背後からの一撃をナックルナイフで受ける。防御用としての側面が強い武器だが、いちおう、二刀流であり、二対一ならこちらの方が適している。


「不本意だが、勇者(皮肉)の戦いってのを、見せてやる」


 体に闇の衣を纏う。いわゆる身体強化魔法の一種だが、これは身体強化にあまり貢献しない。しないが……。


「小癪な……」

「フン!!」

「クッ! しかし、この程度」


 細かい動きを魔力の衣で隠す事で、対人戦の繊細な駆け引きが有利にはたらくのだ。


「この程度で済むかな?」

「ぐっ、毒の類か。しかし!」

「あぁ」


 バックステップでさがり、懐から回復薬を取り出す。すかさずもう一人がカバーに入るので、追撃はできない。地球では応急処置にも時間がかかるが、魔法があるこの世界では、そういったところも戦術に織り込まなくてはならない。


「ふん! まだ、修行不足だな。腕を出せ!」


 傍観していた騎士が出てきて割って入る。先ほどのは毒ではなく、呪い。2人は勘違いしてくれたが、さすがに騎士は騙せなかったようだ。


「え? あ、ハぃ!」

「フン!!」

「……ぐぁぁぁ、な、なにを!???」


 呪いを受けた左腕が切り飛ばされる。あのままいけば全身に呪いが回っていたところだが、間に合わず。しかし片腕を失ったのなら、成果としては充分だ。


「相手が呪いの勇者だと忘れたか。止血しておけ。腕は、ソイツを殺してから繋げればよい」

「クゥ…………は、はい」


 魔法のベールで傷口が塞がれる。回復薬を使う手もあるが、下手に治療すると腕を繋ぎ直すさいに支障がでるので、あえて直さず現状を維持するのだ。


「しかたない、すこし、手本を見せてやる」

「なんだ? もう、保護者様の登場か??」

「なに、本気はださんから安心しろ」

「さいですか」


 軽口を叩いてみたが、かなりキツイ。この騎士の動きはフィーアさんよりも上。そこにお供が加わるのだ、防戦一方。(防具の隙間をぬって)掠り傷1つ、つけるのもままならない。


 そうなると、奥の手を使わざるを得ないのだが、問題はどちらにつかうかだが……。


「それなら!!」

「ぐふっ! 毒、いや、呪い針か。小癪な……」


 選んだのは部下の方。出来れば騎士につかいたいところだが、1発きりの奥の手を防がれた場合、盤面が詰んでしまう。


「どうする? 今度は胴体だ。切り落とすわけにもいかないだろう??」

「大丈夫だ、問題無い」

「ま、待ってください!!」

「ふん!!」

「おっと、大胆だな」


 騎士が部下であり、教え子の心臓を躊躇なく貫く。つづけて首を切り落とし、完全に殺してしまう。あれは、魔法をもってしても治療不可能だ。


「死体は、利用させん。まぁ…………死霊術程度に、後れを取るつもりは無いがな」


 空気が一変する。ようやく本気モードってところか。


「死体くらい、貸してくれても…………っ、それが、アンタの本気か」


 騎士の姿が二重にブレて見える。魔力で作った分身ってところか。


「……この技を見たからには、生かしては帰せん」

「はなから、殺す気だろ!」


 降り注ぐ音速の斬撃。やはり、あの分身にも実体と言うか、斬撃に重みを感じる。剣士系の技に斬撃を飛ばすものがあるが、それを飛ばさずに追従させて連続攻撃とともに、攻撃後の隙を潰しているのだ。


「予想以上だ。しかし!!」

「ぐっ!! 1体までじゃ、無かったのか」

「さよう。よくぞ、そこまで出させたな。褒めてやる」


 左腕をバッサリいかれて、意識が遠のく。これがゲームなら、死ななければ全部かすり傷みたいなものだが…………しかしこれは現実。激痛と、腕の損失。そして放置すれば出血死が待っている。


「まったく、もうすこし…………スマートに、やりたかったん、だがなっ!!」

「ほぉ、良い覚悟だ」




 半端に残った左腕を切断し、魔法で傷口を完全に塞いでしまう。繋ぎ合わせることを考えながら戦って、勝てる相手では、ないからだ。

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