#036 侵入者と地下施設
「それで兄者、次はどいつを殺す?」
「まったく、オマエは話を聞かないな。機密書類などが残っていないか探すぞ」
「そんなの、残っているわけないだろ??」
「それならそれで、相手の思惑を推測できるというものだ」
「ふぅ~~ん」
闇夜をすすむ狼系の獣人。その体は一般的な獣人よりも大きく、何より獣の割合が高い。純血と呼ぶべきか、あるいは更に上の種族なのか……。
「なぁ、非常事態に、こんなところ、守っていてもいいのか?」
「俺たち兵士は、命令に従うのみ。それに、むしろ当たりじゃないか。下の騒動に加わらずに…………ん?」
最上階のフロアを警備する兵士。あまりの退屈さに私語が漏れるが…………そのさなか僅かな違和感を感じ取る。
「どうかしたか?」
「いや、何か動いたような……」
揺らめく灯りが下の階へと続く階段を照らし出す。ここは階段を含めた1本道。槍を持って上階に控える兵士が圧倒的に有利だ。
「感知魔法だってあるんだ、何かあれば反応あるだろう?」
「それもそうなんだが……」
「感知魔法も魔法だ。魔力が視認できれば、いくらでも回避のしようがある」
「そうそう」
「「!!!?」」
「遅いッ!!」
一瞬の出来事であった。階段を覗き込む兵士が、持ち場に戻ろうとするその刹那。獣は感知魔法の隙間をすり抜け、彼らに肉薄する距離へと詰め寄った。
「へへっ、チョロすぎだろ」
「油断するな。問題はここから。人族は卑怯で醜悪。小細工を侮ってはいけない」
「へいへい」
「「…………」」
頸をねじ切られた死体が、しずかに伏していく。
*
「ねぇ、外へ向かうんじゃないの?」
「もちろん、向かうのは外だが、正規ルートは使わない」
エイミとミヤコを連れ、施設の地下へと向かう。
「……抜け道?」
「そうだ。ここは王族も利用するからな。いくつか秘密の通路が存在している」
「ほんとに!? でも、外の騒ぎは落ち着いたんだし、普通に出ればいいんじゃ?」
騒動を起こした農民とやりとりをする兵士もおり、施設内の行き来はできる状態だ。しかし……。
「俺なら、
「それは……」
なにが致命的って、相手が見えていないのが痛すぎる。完全な後手番。目的は勇者の抹殺だろうが、俺ならソレだけでは終わらせない。
「相手も、ここに残っているのが戦力外だってことは分かっているだろう。王子様の誘いに乗って動くのも癪だし、かならず
「えっ、なに? いまの」
「上から、爆発??」
離れたところから重い衝撃音の地響き。石造りの施設が揺れるほどとなれば、相当なものだ。
「急いだほうが良さそうだな。ぐっ……。よし、正解だ」
「ここは?」
行き止まりの通路の石の壁。重厚でビクともしないように見えるが、実は力をかけると開く扉になっている。
「秘密の研究施設や死体処理場があるエリアだ」
「「えっ!?」」
「もちろん、今は使われていないがな」
拷問部屋や処刑場もそうだが、現在は閉鎖中。それに必要な道具も含めて、大半が片づけられている。
「な、なんだ……」
「ねぇ、あれ……」
「あまり、見ない方がいいぞ」
「「ヒッ!!?」」
そう、片づけられている。ここに。禍々しすぎて使い方すら分からないものも多いが、それが拷問器具というのなら、ノコギリなどの見慣れた工具ですら強い恐怖を発する。
「こっちだ」
「何があるの??」
「まぁ、墓地というか死体安置所ってところか」
「「ッ!!」」
静かに唇を噛みしめる2人。
ここの怨念を回収しておきたい気持ちもあるが、ひとまず脱出が優先。お姫様に貰った箱には手紙も入っており、この先に(施設の出入り口を介さず出られる)秘密の搬出口があると記されていた。
「安心しろ。軍人はわざわざ亜人を弔わない。死体を分解してスライムにくわせて、骨は溜まったら搬出する。骨置き場といったほうがいいか?」
「酷い、ひどすぎる……」
「戦争なんだ、今更だろ」
「「…………」」
「先に行け」
「え? なに……」
「ヘケケッ、俺様の気配に気づくとは、やるじゃないか」
どうやら魔族様は、すんなり俺たちを逃がしてくれないようだ。
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