#035 王の決断と闇夜の行軍
「……すでに死傷者もでており、このままでは"陥落"もあり得るかと」
一ノ砦襲撃の知らせは二ノ砦にも伝わり、従者の加入に緩んでいた勇者たちの顔色を青白く塗り替える。
「そんな! タイミングが良すぎる!!」
「それより、皆を助けに行かなくちゃ!!」
「落ち着け! グレゴルド様の御前だぞ!!」
「「!!!?」」
騎士団長レイオスに視線が集まる。すぐにでも一ノ砦に戻りたい気持ちはあるが、道中は灯りの無い未舗装路。馬を走らせるのも危険な状況だ。
「レイオス」
「ハッ!」
「賊の正体と狙いを申してみよ」
「ハッ! 賊の正体は魔族か、それに与する者たち。目的は…………やはり勇者の暗殺。使い魔などで施設の状況を監視し、手薄になったところを攻め込んだのだと思われます」
「「…………」」
タイミングが出来過ぎており、これを計画的犯行でないというのは無理な状況だ。
「我々が主力を連れて戻ったとして、着くのは」
「ハッ! 早くても"明け方"かと。その……」
「お前はそれまで、持ちこたえられると思うか?」
「ハッ! 相手は(占領するのに)充分な戦力を有して攻め込んだ可能性が高く、全滅は無いにしても、何人かは」
「そ、そんな! それじゃあ!?」
「お、俺ならもっと早く!!」
「落ち着け! この場で言い争って何になるか!!」
「「ぐっ……」」
「問題は、それすらも"陽動"の可能性があるところだろう。……。……」
第一目標は、一ノ砦の二軍勇者。今なら騎士も不在なため容易に仕留められる可能性が高い。しかし所詮は二軍。最悪、全滅しても戦況が大きく変わることはないだろう。
問題は第二目標というか、さらに真の目的がある場合。ここで迂闊に兵力を分散すると、一軍勇者や、王子とその側近が各個撃破される可能性もでてくるのだ。
「そんな! それじゃあ夜明けまで待てって言うのかよ!!」
「行かしてください! 今の俺たちなら、魔族にだって!!」
二軍の勇者もそうだが、一ノ砦やそこに務める兵士たちにも少なからず情が移った面々。助けられるのなら、1人でも多く助けたい。
「うむ、ここで戦力を裂くのは愚策だ」
「しかし!!」
「そこで!!」
「「!!!?」」
「勇者を先行させて向かわせろ。騎士も何人かつけてやれ」
「「おぉ!!」」
「しかし、それでは……」
闇夜で馬車に鞭を打つのは危険。一軍勇者は早馬に乗せ、先行して一ノ砦へと向かわせる。
「レイオス、我々も出るぞ! 勇者は会敵しても無視して突き進め。我々は用意できる馬で運べるだけの兵を連れ、後詰めを引き受ける!!」
「「おぉぉぉ!!」」
「し、しかしそれでは、殿下の御身が」
「ここで半端な兵をもって砦に立て籠もれば、それこそ相手の思うつぼだ」
魔族の厄介な点は、飛行能力や高い隠蔽能力を保有する個体が存在する点だ。いくら堅牢な城壁で守りを固めても、空や闇夜を渡り、とつぜん懐に現れる。もちろんそれらを感知する方法はあるが、そういったものは感知に特化しており、力押しに弱い。
「わかりました。それでは、直ちに部隊を編制します!」
こうして勇者と王子たちは、一ノ砦へと引き返す事となった。すべては、精神の未熟な勇者に…………試練を与えるために。
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