#034 癇癪と決別
「うぅ、本当に、2人は……」
「待ってくれよ! それじゃあなにか!? 建物の中に、すでに殺し屋が侵入しているって事か!!」
「そうなるな。そして賊の狙いは"勇者"、つまり俺たちを殺す事だ」
「「!!!?」」
食堂に再度集まり、状況を確認する。装備の回収班は、集団行動が功を奏したのか無事帰還。農民の反乱は、食料を与え、倉庫を使わせているのでひとまず落ち着いている。
「ちょっと、なんで私たちが!?」
「いや、魔族からしたら、侵略者なんだし」
「わけわかんない! 私は被害者なの! 望んでもいないのに勝手に連れてこられてッ!!」
数人がヒステリーを起こし始めた。非常に煩い。死んでほしい。
「今はそんなこと言ってる場合か! とにかく、バリケードでもなんでも作って、明日まで持ちこたえよう!!」
「そんな事したって無駄よ! 集まったところを焼き殺すつもりかも!!」
「いや、ここは石造りだし、そんなこと」
「……! ……!!」
話が通じない。これは理解できないのではなく、感情を発散しているだけ。これが恋愛なら、理屈抜きでとりあえず賛同してやるのが良いのだろうが…………これは恋愛では無いし、こういったお荷物を間引く事こそが目的なのだ。
「と、とりあえず、バリケードでも作ってみる? いちおう、家具とか、使えそうなものはあるし」
「いや、どうだろうな。火は無理でも、閉じ込めたところで毒殺って可能性もある」
「やっぱり! 殺されるのよ!!」
「もう終わりだ、おしまいだ……」
非常に不本意だが、こういった状況になると、やはり『トーヤはリーダー向きなんだ』ってのが実感できる。俺としてはフォローするのもバカらしいので放置したいところだが…………何か行動を起こさないと相手の思うつぼ。(可能性は低いと思うが)本当に毒殺が目的なら、俺もこのバカと共倒れだ。
「よし!! それじゃあ、こうしよう!」
「「!???」」
「バリケードを作って防衛する班と、立て籠もらずに相手を追い立てる班に分かれる」
「ちょ、そんな、危険よ!」
「守りに徹した場合、相手をフリーにしてしまう」
「そ、それは……」
「他にもアイディアがあれば、そうすればいい。なにより、バリケードなんて築いたら、それこそ戦闘要員なんて不要だろ?」
「いや、そんなことは……」
俺の心は、驚くほど穏やかだ。数えきれない怨念を見て、心が壊れただけなのかもしれないが…………過程などはこのさいどうでもいい。恐怖や不安はなく、かといって過度な興奮状態にあるわけでもない。ただ『時が来た』というだけなのだ。
「まぁ、なんだ。やはりお前たちとは、根本的にソリが合わない。こんな状況で、方針さえ一向に決まらないでは、お話にならないだろ?」
「「…………」」
「てことで、俺は勝手にやらせてもらう。それで俺が死んでも、ついて来なかったヤツラを恨む気は無いし…………ここに残って死んだとしても、俺は悲しまないから、安心してくれ」
「「なっ!?」」
「ちょっと、そんな言い方!!」
非難の嵐を背に、ちょっと清々しい気分で食堂を出る。
「「…………」」
「別に、気をつかわなくても」
「そういう訳じゃ」
「いちおう、賛成だし」
「そうか」
結局ついてきたのは、エイミとミヤコだけだった。ミヤコはともかく、戦闘員たりえるエイミを失えば、ヤツラの生存確率は一段と低下しただろう。
「たぶん意味は無いだろうけど、気配は消してついて来い。俺はいいから」
「でも!」
「相手は獣人だ。おまえの<カモフラージュ>じゃ、臭いまで消せないだろ」
<カモフラージュ>の隠蔽効果は制約だらけ。いわゆる光学迷彩なので、臭いなどは消せないし、俺も近ければオーラで看破できる。そのかわり利点もあって、触れていれば仲間にも効果が適応されるのと、範囲魔法特有の燃費の悪さや、魔法発動そのものの気配を読み取られる心配がない。
「それは……」
「あと、これはカッコつけってわけじゃないが……」
「「??」」
「もし何かあっても、絶対に! 加勢するな」
「それは!」
「約束できないなら、足手まといだから、ついて来なくていい。ハッキリ言わせてもらうが、俺はお前たちの"戦力"は何も期待していない。むしろ邪魔だ」
「ぐっ……」
「ヤバいと思っても、絶対に加勢するな。そして…………そのまま逃げろ」
「「…………」」
あと、攻撃にうつると隠蔽状態が解除されてしまうのも致命的だ。
「あぁ…………あと、言い忘れていたけど」
「「??」」
「俺も、賊と戦うつもりは無いから」
こうして俺は、2人を連れて施設からの"脱出"を試みる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます