#007 実用と基礎

「素晴らしい! 半日で斬撃を飛ばせるようになるとは!!」

「凄いですね、魔力って」

「さすがはトーヤだぜ、俺なんてまだ……」

「案ずる事はありません。斬撃を飛ばすのは放出魔法のようなもの。ちゃんと適性に合った部分を伸ばしていけば……。……」


 敷かれたレールを順調に疾走していく2人。勇者として呼ばれただけあって、才能があるのは事実らしいのだが…………レールの先にあるのは栄光ではなく破滅。結局私たちは、次期国王の名声を広めるために呼ばれた道化師にすぎないのだ。


「モモヨさん、集中が切れていますよ」

「あぁ、はい」


 そもそも魔力って何だよ!? 2人は少年漫画の気や念のようなものと言っていたけど、そもそも私はワン〇くらいしか知らないし。


「原理や細かい加減を考える必要はありません。そういった調整は最初から術式に組み込まれているので…………状況に応じて適切な呪文を選び、詠唱に専念してください。それが魔法使いの役割であり、貢献につながります」

「は、はい」


 魔法は多種多様らしいのだが、私たちに基礎や原理を学ぶ時間は無い。そのため、あらかじめ術式が刻まれた武器や魔導書を用いて『とにかく発動させる』事に専念する。慣れてくればそれらに頼らずとも発動できるらしいのだが、最低限の操作だけで術を行使できるこれらの武器は実戦でも有用で、極めるにこした事はないそうだ。


「そうです、その調子! モモヨはスジがいいですね。流石は勇者だ」

「そうです、か?」

「えぇ。これだって普通は使えるようになるまで数年。魔法学校の初等部を卒業できるくらいの難易度なんです。それを半日で習得しているのですから!」

「そ、そうですか」


 煽てられて悪い気はしないが、本来の私は煽てる側。矢面にたって汗や血を流すのはまっぴらごめん。そのため攻撃には参加せず、一歩引いた(安全な)位置に控えて回復や強化を担当する。


 なんの間違えかS班に入れられてしまったが、結局やる事は後方支援。男どもを上手く煽てて、楽して勝ち組だ。





「なるほど、循環と放出ですか」

「はい、いちおう燃費が良いのは循環系である身体強化で戦うスタイルですが、それだって魔力を力に変える過程でドンドン消費します」


 他の戦力外やつらの面倒を一般兵士に丸投げして、俺はフィーアさんと1対1で魔力の何たるかを教わる。


 戦士が物理法則を無視したスーパーアクションを可能にするのも、魔法使いが手からビーム(のようなもの)を発するのも、根源は同じ魔力であり、それをどう活用するかの違いらしい。まぁ俺の場合は外部のエネルギーを操作する術が適正対象なのだが…………それはそれ。何事も基礎は重要で、最悪、応用問題なんてその場で公式を自作すれば済む。長い目で見れば、いちいちすべての応用問題を覚えなくてもいい分、基礎を重視する方が早いまである。


「それじゃあ、放った魔力を即座に回収して、無限というか、無尽蔵に魔力を使い続ける事は可能ですか?」

「それは…………伝説級の魔獣、ヒュドラなら可能かもですが、ちょっと現実的では無いですね」

「そうなんですか?」

「はい、魔術を行使するのに大量の魔力を変換圧縮する必要があるのと、それこそ、攻撃魔法の中にいるくらい高い魔力濃度の環境じゃないと」

「あぁ、能力的に可能でも、供給も必要なのか」

「そうですね」


 ようするにヒュドラを無敵たらしめているのはスペアの頸と回復速度だけでなく、環境と魔法を使わせる状況にあるのだ。だから切断面を焼く以外にも、魔法を全く使わず消耗させたり、魔力の薄い環境に引きづり出したりすれば倒せるわけだ。


「それじゃあ……。……!?」




 こうして俺は戦力外という立場を利用して、しっかり基礎を整えていった。

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