#008 権力と利権

「それではフィーア、余剰(戦力外)の様子はどうだね」


 指令室と呼ぶべきか、騎士をはじめとして今回の作戦を指揮する主要人物が集まり、現状を確認する。


「それが…………見込みのある者もいますが、実戦レベルまで到達する者は……」

「気に病む必要は無い。キミの仕事は、鑑定に漏れた逸材が居ないか判断する事。居ないというならそれでいい」

「いえ、1人。勇者コウヘーは! 充分、戦力としてカウントできるかと」

「「…………」」


 指令室が静まりかえる。フィーアも騎士であり貴族なのだが、その位は最下位であり、この中でいえば見習いや雑用係といって差し支えない立場にある。


「呪術適性の勇者だな。彼はグレゴルド様の名声を彩るのに相応しくない」

「お言葉ですが、彼の実力は本物です。矢面に立たせずとも、使い方によっ……」

「騎士フィーア!」

「ハッ!」

「己の分をわきまえたまえ」

「ハッ! 出過ぎたマネをしました」


 深く頭を下げるフィーア。階級が絶対であるこの国や騎士団の中では、(下位の者が)許可なく自身の考えを発現する事すら許されない。


「騎士団の質も落ちたものだな。他でもない、余の、そしてこの国の未来がかかっているのだぞ?」

「お見苦しいところを見せてしまいました、グレゴルド様。直ちにこの者を処分し……」

「よいよい、たしかに雑用を任せるには相応しいのだろう。感謝せよ、余が寛容だったから良かったものの…………兄上なら打ち首も有りえたぞ」

「ハッ! グレゴルド様に最大限の感謝と忠誠を!!」


 実のところ、ハナからフィーアを処分する意思は無かった。これは所作と言うか、権力者はこのように権力と忠誠心を誇示する必要がある。それは傍から見れば無駄に思えるものかもしれないが、それでもこの国はこうして廻っているのだ。


「うむ。余剰は予定通り処分しろ。方法は任せる」

「ハッ!」





 食堂で夕食を頬張る勇者たち。


「なぁ、メシ、不味くないか?」

「だな。宴の食事は美味かったのに。これが普段のレベルってことか」

「つかさ、魔族領に行ったら、もっと不味くなるんだろうな」

「ああ、レーション的な」

「これなら自分で作った方が…………そうだ! おい、"みんな"! 料理の得意なヤツは居ないか!??」


 みんなとは、主に2軍以下の面々に向けた言葉。英気を養うのに食事は不可欠であり、戦地へ行けば更なる質の低下が予想される。そんな中で地球の食事を再現できる者が居れば、彼らにかかるストレスはいくらか軽減できるだろう。


「えっと、私、少しは……」

「私も! つか、これより不味く作るって、逆に難しくない?」

「決まりだな!」


 くわえて2軍以下の処遇もまた、気がかりの1つだった。口には出さないが、"全員"無事帰還するのが困難なことは察しがついている。それなら別のところで活躍できれば、無理に戦場に立たなくてもすむし、肩身の狭い思いをしなくても済む。


「てか! 食事じゃなくても良い。商売や歌(芸能)、戦闘以外で活躍できることは、いくらでもあるはずだ!!」

「…………」


 沸き立つ面々を尻目に、冷めた表情で退室しようとする姿があった。





「ねぇ! コウヘー君は、どう思う!?」

「ゲッ」


 巻き込まれる前に退散しようと思ったら、ビッチに行くてを阻まれてしまった。


「ゲってなによ~。もお~、つれないんだから~」

「…………」


 言葉とは裏腹に、笑顔を絶やさないビッチ。こうやって良い娘ちゃんぶって群れグループの女王様であろうとする。どこに行っても必ず居るタイプだ。


「ねぇねぇ、良いアイディアだと思わない?」

「思わないな。そもそも、その気があるならとっくに声をかけているだろう」


 たとえば商売の才能がある勇者ヤツがいて『地球の便利グッズを販売して大儲けする』条件が整っていたとしよう。しかし数十年に1度とは言え、異世界から人材を召喚できる世界がその考えに思い至らないわけが無いし…………なにより権力者にとって『新たな利権の出現』が喜ばしい事とは限らない。まぁ、それで損をするヤツに恨まれ、足を引っ張られるのは確実だろうな。


 俺が王子の立場なら、次期国王を決める重要なこの場にそんなノイズは持ち込ませない。というか、その辺りはまず間違いなく取り決めが交わされているだろう。


「それはそうかもだけど……」

「まぁ、好きにすればいい。俺は戦闘で勤めを果たすつもりだから」

「モモちゃん、そんなヤツほっておいて、みんなで相談しましょ」

「そうそう。あんなヤツ……。……!」




 ハッキリ言って『地球に帰れる』などのお花畑な希望を持っている時点で問題外。議論を交わす価値さえ感じない。

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