#008 権力と利権
「それではフィーア、余剰(戦力外)の様子はどうだね」
指令室と呼ぶべきか、騎士をはじめとして今回の作戦を指揮する主要人物が集まり、現状を確認する。
「それが…………見込みのある者もいますが、実戦レベルまで到達する者は……」
「気に病む必要は無い。キミの仕事は、鑑定に漏れた逸材が居ないか判断する事。居ないというならそれでいい」
「いえ、1人。勇者コウヘーは! 充分、戦力としてカウントできるかと」
「「…………」」
指令室が静まりかえる。フィーアも騎士であり貴族なのだが、その位は最下位であり、この中でいえば見習いや雑用係といって差し支えない立場にある。
「呪術適性の勇者だな。彼はグレゴルド様の名声を彩るのに相応しくない」
「お言葉ですが、彼の実力は本物です。矢面に立たせずとも、使い方によっ……」
「騎士フィーア!」
「ハッ!」
「己の分をわきまえたまえ」
「ハッ! 出過ぎたマネをしました」
深く頭を下げるフィーア。階級が絶対であるこの国や騎士団の中では、(下位の者が)許可なく自身の考えを発現する事すら許されない。
「騎士団の質も落ちたものだな。他でもない、余の、そしてこの国の未来がかかっているのだぞ?」
「お見苦しいところを見せてしまいました、グレゴルド様。直ちにこの者を処分し……」
「よいよい、たしかに雑用を任せるには相応しいのだろう。感謝せよ、余が寛容だったから良かったものの…………兄上なら打ち首も有りえたぞ」
「ハッ! グレゴルド様に最大限の感謝と忠誠を!!」
実のところ、ハナからフィーアを処分する意思は無かった。これは所作と言うか、権力者はこのように権力と忠誠心を誇示する必要がある。それは傍から見れば無駄に思えるものかもしれないが、それでもこの国はこうして廻っているのだ。
「うむ。余剰は予定通り処分しろ。方法は任せる」
「ハッ!」
*
食堂で夕食を頬張る勇者たち。
「なぁ、メシ、不味くないか?」
「だな。宴の食事は美味かったのに。これが普段のレベルってことか」
「つかさ、魔族領に行ったら、もっと不味くなるんだろうな」
「ああ、レーション的な」
「これなら自分で作った方が…………そうだ! おい、"みんな"! 料理の得意なヤツは居ないか!??」
みんなとは、主に2軍以下の面々に向けた言葉。英気を養うのに食事は不可欠であり、戦地へ行けば更なる質の低下が予想される。そんな中で地球の食事を再現できる者が居れば、彼らにかかるストレスはいくらか軽減できるだろう。
「えっと、私、少しは……」
「私も! つか、これより不味く作るって、逆に難しくない?」
「決まりだな!」
くわえて2軍以下の処遇もまた、気がかりの1つだった。口には出さないが、"全員"無事帰還するのが困難なことは察しがついている。それなら別のところで活躍できれば、無理に戦場に立たなくてもすむし、肩身の狭い思いをしなくても済む。
「てか! 食事じゃなくても良い。商売や歌(芸能)、戦闘以外で活躍できることは、いくらでもあるはずだ!!」
「…………」
沸き立つ面々を尻目に、冷めた表情で退室しようとする姿があった。
*
「ねぇ! コウヘー君は、どう思う!?」
「ゲッ」
巻き込まれる前に退散しようと思ったら、ビッチに行くてを阻まれてしまった。
「ゲってなによ~。もお~、つれないんだから~」
「…………」
言葉とは裏腹に、笑顔を絶やさないビッチ。こうやって良い娘ちゃんぶって
「ねぇねぇ、良いアイディアだと思わない?」
「思わないな。そもそも、その気があるならとっくに声をかけているだろう」
たとえば商売の才能がある
俺が王子の立場なら、次期国王を決める重要なこの場にそんなノイズは持ち込ませない。というか、その辺りはまず間違いなく取り決めが交わされているだろう。
「それはそうかもだけど……」
「まぁ、好きにすればいい。俺は戦闘で勤めを果たすつもりだから」
「モモちゃん、そんなヤツほっておいて、みんなで相談しましょ」
「そうそう。あんなヤツ……。……!」
ハッキリ言って『地球に帰れる』などのお花畑な希望を持っている時点で問題外。議論を交わす価値さえ感じない。
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