#049 力関係とゾンビ合体

・補足情報:潜在能力や力関係について。


 この世界は魔法適正や多彩な人系種族がおり、地球で言うところの『多少の優劣はあれど、基本的には同じ人間であり、生まれながらにして平等』理論は成立していません。たとえば身体能力に優れる種族の血や遺伝があれば、(大枠の分類として)同じ種族であっても明確な能力差がうまれます。


 それが男女の場合、身体能力は基本的に男性が優れており、肉体も発達しやすいので地球と同じく男性有利ですが、魔力で身体能力を強化できる関係で極めると、優劣の差は非常に小さくなります。作中では、雑多な兵士は基本的に全員男で、女性は(身体能力的に)弱者であるものの、騎士レベルになると女性も男性顔負けの活躍が目立ちます。


 召喚勇者や貴族などの、潜在能力や訓練後の力関係については、

平民<平民の兵士=貴族<召喚勇者<王族<訓練を受けた貴族(騎士)<雑多な魔族<覚醒後の召喚勇者<武将クラスの魔族

 となっており、ドライとトカゲ男ではトカゲ男の方が強いものの、ドライの取り巻き込みならドライが勝ちます。覚醒クラスに強い召喚勇者はコウヘーとトーヤのみで、トーヤとラミアや狼男の力関係は『1対1なら勝てるかもしれないけど、集団で見れば不利』程度となります。


 実は強い王族ですが、これは天然勇者の末裔だからであり、訓練すれば覚醒召喚勇者をこえられる可能性を秘めているものの、失うと国が立ち行かなくなるので、基本的に護身程度の訓練しかつんでいないものと考えてください。


 兵士の実力。雑多な兵士の単純な能力は、大雑把に召喚勇者や騎士の10分の1程度で、逆にいえば10人集まれば同じレベルの力仕事ができます。しかし基本能力が低すぎると範囲攻撃で一掃される危険性が高まり、実戦闘では10倍の差がつくと相手になりません。しかしながら薙ぎ払うのにも魔力を消費するため『雑兵を突撃させて格上魔族を消耗させ、主力で叩く』といった戦術は有効になります。





「憎イ、殺シテヤルゥ」

「ヨクモ…………ヨクモ、許サナイ」

「おい! ゾンビどもの制御はどうなっている!?」


 勇者の試練にして、実は反乱分子や魔族を足止めする肉壁となるはずだったゾンビが、制御に抗って仮設陣に群がる。


「そんな!? 触媒を破壊されたとはいえ、なぜ、ここまで制御できない!???」

「この無能が! もしやお前…………他派閥の回し者だったか!!?」

「そんな、私は!!」

「言い訳など聞く耳持たぬ! 止められないなら魔法使いとして戦うか、さもなくば肉壁になって死ね!!」

「そんな、私は…………ウギャアぁぁぁ!!!?」


 雇われていた死霊術師が離反の疑いをかけられ、無謀にも前線へと突き出されていく。しかし彼らは離反などしておらず、術もある程度効果が出ていた。ゾンビを抑えられなくなったのはコウヘーの支配力が上回ったからであり、術師が死んだことでゾンビのタガが外れていく。


 これは指揮官の無知と焦りが生み出した事故ともいえるものであったが、この国ではそういった事故がたびたびおこる。なぜなら王国は階級社会であり、指揮官などは能力よりも血筋が重視される。この世界は地球よりも血筋による優劣が出やすい環境であり、合理的なシステムなのだが、王子も含めて、過剰に甘やかせば天才も手の付けられない馬鹿にアッサリ落ちてしまう。


「たかがゾンビだ! 臆することはない! 薙ぎ払え!!」

「「ハァッ!!」」


 稼いだ時間で詠唱も終わり、広範囲魔法がゾンビの群れを引き裂いていく。


「おい、何だあれは! ゾンビどもが…………合体していくぞ!!??」

「魔法班、何やってるの! 次弾を放て!!」

「は、はい!!」

「そ、そんな!? 表面を削るだけで、効果がありません!!」


 コウヘーが作り出すゾンビはゾンビにあらず。呪いの本体は思念であり、1つ1つは弱い残留思念にすぎないが、集結すると同系の思念と混じり合って強い魔力障害(怪奇現象)を引き起こす。


「ダメです! 突破されます!!」

「て、撤退を!!」

「ダメだ!! 殿下の御前だぞ! 撤退は許さん! 背を向けたものはその場で処刑する! 最後まで魔法を打ち込み、王国の礎となるのだ!!!!」

「そ、そんな」


 合体した事で歩みは遅くなったが、いっそう手が付けられなくなった。魔法兵のみならず歩兵も突撃するものの、分厚い腐肉の壁に阻まれ、剣の攻撃は意味をなさない。


「「うあぁぁああ!!」」

「くそっ、ここまでか!?」


 対応にあたった兵士たちを蹴散らし、巨大なアンデッドが最終防衛線に、腐敗した手をかける。


「無駄だ。たかがアンデッドごときに、王国の壁は越えさせん!!」

「「おぉぉぉ!!」」


 アンデッドの攻撃が、魔法障壁に跳ね返される。この障壁は物理と魔法を完全に遮断する最高位の防御魔法であり、王子を動かせなかったのはこの魔法を機能させるためであった。


「所詮は、脳しょうあたままで腐ったゾンビだ! 囲んで削り倒せ!!」

「「おぉぉぉぉ!!!!」」




 予想外の強敵に動揺もしたが、それでも王子を守る精鋭部隊。相応の対策と戦力は揃っていた。

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