#050 平等と絶対障壁
俺が勇者として、協調性や思いやりに欠けているのは理解している。とはいえ、前世も含めて悪に落ちたつもりは無い。善でも無ければ悪でもない。ただ、粛々と事を成し、
「まったく、驚かせよって。もっと! <絶対障壁>を大きくできなかったのか!!?」
「申し訳ございません、この人数では」
「ふん、まぁよい。魔法兵は障壁の維持を優先させろ! じきに夜明けだ! 最悪、応援と合流して物量で押しつぶせばよい」
「ハッ!」
王国の考えも理解できる。領土や武力を伸ばしていかなければ、やがて魔族や他国に侵略されてしまう。俺も性善説や、人類皆兄弟、話し合いで何でも解決できる、なんてお花畑な思想は持ち合わせていない。召喚勇者からしてみればいい迷惑だが、武を競い合う世界ってのも、それはそれで理があり、ロマンがある。
「グレゴルド様! 我々も合流します!!」
「おぉ、呪いの勇者はどうなった!?」
「それが…………ヤツは
「なにっ!?」
「おそらく、
王国を強く恨む気持ちは、怨念の記憶に擦り込まれた部分が大きい。魔族に虐げられた者たちの怨念に触れていたら、向かった先は逆だっただろう。
「やはり禁忌の勇者は…………いや! そもそも、(召喚)勇者などという錆びた風習に頼るべきでは無かったのだ! そうだ! 過去の幻想にすがるのをやめ、自分たちの足で歩むときが来たのだ!!」
「グレゴルド様、建国の伝承に異を唱えるのは……」
「えぇい黙れ!! 次期国王はこの、グレゴルドがなる! 王となれば、元老院議員の老害や、父上に縛られる事もない! ようは勝てばいいのだ! この戦いに勝利し、国王となれば……」
「…………」
しかしながら、それはそれ、これはこれ。別に魔族や亜人に肩入れしているつもりは無い。今回は、虐げられた亜人の言い分を聞き入れ『王国に相応の裁きをくだすべき』と判断したのみ。亜人や魔族に悪い部分があれば、またその時に判断し、裁けばいい。
「何か来ます! 足の速い、中型のゾンビが!!」
「なんだ、何を……」
巨大アンデッドが振り返り、その視線の先に遅れて現れた1体のゾンビ。それはほかのゾンビとは明らかに違う機敏な動きをしていた。
「おい、何かするぞ!?」
「あのゾンビ、連携している? まさか、意思を持っているのか??」
「リッチやロードの可能性もある! まずはアレを狙え!!」
「「ハッ!」」
しかしゾンビは、兵士を無視して巨大アンデッドに駆け寄り、そのまま……。
「なっ!? 踏み台にして、飛んだ!???」
「不味い! アレを止めろ! 撃ち落とすのだ!!」
巨大アンデッドを踏み台にして<絶対障壁>の上部へと飛びうつる。障壁は半球体であり、激しく押し返されるが、上に乗ってしまえば重力で力が均衡する場所にとどまれる。
「し、しかし、攻撃すると障壁も……」
「障壁に当たっても構わん! 何としてでも止めるのだ!!」
「大変です! 大型が! 大型が障壁に!!」
巨大アンデッドの形が変化し、障壁に覆いかぶさっていく。兵士たちは弓や魔法で応戦するが、幾らかは障壁の反発作用でそれてしまう。
「危険です! このままでは、障壁が!!」
「おい! 何をしている! 早く薙ぎ払え!!」
<絶対障壁>には弱点があった。たしかに物理攻撃や魔法攻撃を完全に遮断するが、断続的な圧力を受けると、急激に魔力消費が増大して術者の魔力を瞬く間に枯渇させてしまう。くわえて……。
「ダメです! お逃げください! このままでは!!」
障壁は内側から外部への攻撃も遮断してしまうので、出入りの際は障壁に出入り口を作る必要がある。出入り口を開けるのは可能だが、それをしてはアンデッドが降り注ぎ、中にいる王子たちが下敷きになってしまう。
「くそっ! この無能どもが!! こうなったら……」
王子が腰に下げた国宝の剣を抜く。今、この場で剣を抜く必要はまったく無いのだが、そこは気合というか、決意を固めるために必要な儀式となる。
「全員でグレゴルド様を援護するのだ! 命を賭してでも、殿下をお守りしろ!!」
「「オォォォ!!」」
普段の様子から察するのは難しいが、グレゴルドは王族として高い潜在能力と、国内最高の剣士から剣術の指南を受けていた。そこに国宝の装備が加われば、その力は覚醒した召喚勇者に引けを取らないものとなる。
「い、いいか! 全力で守れョ! 引きながら戦うんだからな!!」
「はい、承知しております」
ともあれ、王子に武人としての覚悟は、備わっていないが。
「ま、魔力が、あまり、長くは……」
「合図をしたら解除しろ! その後は(魔力の)回復に専念するのだ! また障壁は必要となる!!」
「は、はい!!」
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