#002 勇者召喚と王位継承試練

「目覚めよ、定めを受けた勇者たち!」

「「…………」」


 なんの冗談だろうか? 目が覚めるとそこは石造りの建築物に、甲冑やローブを纏う者たちと、それらに囲まれるバカそうな成金。……いや、誠に遺憾ながら、アイツがトップ。それこそ将軍とか王族的な立場なのだろう。そっち系の作品はあまり明るくないが、それでもそうとしか例えようがないほどにベタな状況だ。


「えっと、ここは??」

「あれ? 俺、たしか……」


 見れば俺と同じ状況と思える男女もいる。映画の撮影か、あるいは一般人を巻き込んだドッキリの可能性もあるが、それにしてはリアルすぎるし、何より光る宝石や肌に感じる形容しがたいエネルギーを言い表すのに…………"魔法"以外の言葉が見つからない。


「任せた」

「ハッ! 畏まりました。それでは"殿下"に代わり、ご説明します」


 殿下って事は王子様か? というかなぜ言葉が理解できる? 話しているのは日本語では無いのに、何故か理解できている。なんというか『最初から知っていた』ような感覚だ。


 それはさて置き説明によると、どうやらココは魔族領に面する"ガスト大正義王国"という(頭の悪そうな名前の)国で、この国では次期国王を決めるために王位継承者たちがそれぞれ勇者を召喚し、その召喚勇者を魔族領に侵攻させ、その功績をもって次期国王を決めるそうだ。


 頭痛い。


「待ってくれ、なんで俺たちがそんなこと!」

「そうよ、そもそも私、戦いなんて」

「案ずるでない。能力ちからはすでに目覚めているはずだ」

「「はぁ??」」

「勇者は世界を渡るに際し、偉大なる"ギフト"を授かる」


 そして召喚勇者は、それぞれ召喚される際に強力な特殊能力に目覚めるのだとか。しかし物語と違って、都合よく世界を救う力を持って生まれるわけではないらしく、そもそもこれまでの戦いでも魔族とやらを押し留めるのが精いっぱいらしい。


「そんなの知るかよ! いいから帰してくれ!!」

「それは出来ない」

「はぁ!? なんでだよ、呼べるなら……」

「何故なら! 君たちはすでに死んでいるからだ」

「「!!??」」

「身に覚えがあるだろう? 召喚と言っても、世界の壁を自由に行き来出来るわけではない。召喚したのは魂のみで……。……」


 やはりそうか。おぼろげではあるが、俺は頭蓋骨を大きく損傷した。そこから助かるとは思えないし、何より今の体は全盛期と言うか、20歳あたりまで若返っている。たぶん召喚に合わせて遺伝子だか魂の記憶をもとに構成された新たな体なのだろう。


「それじゃあ、俺たちは、もう……」

「しかし! 国のため、そして"グレゴルド"様に尽くせば! 貴族の地位や、それこそ側近として召しつかえる事も可能だ」

「いや、そんなもの……」

「それに、能力を磨き、魂が再度世界を渡るに耐えるほどに鍛えられれば! ……次の勇者召喚の際に、元の世界へと帰す事も可能だ」

「「おぉ……」」


 ようするに、頑張ったら良い生活ができるし、元の世界にも戻れるわけだ。しかし胡散臭いというか、たぶん大半は嘘。能力しだいでは金蔓として良いように使われるかもしれないが…………基本的には『魔族と戦って死ぬ前提の戦力』であり、その後の生活や、それこそもとの世界に"無事に"帰れる保証も無い。


「その為にも、まずは能力適性を見極め……。……」


『……セ。……コロ……』




 そのギフトとやらを意識してからだろうか、俺の耳には声にならない声が届くようになった。

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