アルトの大きな成功?とティアナの小さな失敗

「んもぉー、アルトしゃーん。飲みが足りてないですよぉー…ほらぁーアルトさんももう一丁ぉ!いっしょにぃー!…んぐっ…んぐっ…んぐっ…グビッ……っぷはぁ!!」

 

ここは酒場のカウンター席。

つい先程まで俺は、ティアナと二人きりで楽しく酒を酌み交わしていた。

ちなみにアーシャとエリナはよく分からないが、宿で先に休憩している。

 

場面は少し遡る。

 

「アルトさん!私!お酒飲んでも良いらしいんですよ!教会の聖職者ってバンバンお酒飲んでるらしいじゃないですか!くぅ、何故今まで知らなかったんでしょう…アルトさん、今すぐ酒場に行きましょう!解禁祝いです!付き合ってください!アーシャとエリナは宿に捨て置いて大丈夫ですから!」

 

“付き合ってください”

彼女にそんな意図は無いと分かっていたが、俺はその言葉に心を大きく動かされた。

 

ティアナと初めての、二人きりで食事。

彼女にとっては何気ない事なのかも知れない。

それでも、俺の胸は歓喜による昂りが止まらなかった

のだが…

 

「酒もってこぉーい!この店ある酒ぇみな持ってこぉーい!ヒック!」

 

「ちょティアナ、飲み過ぎだって!」

 

「いいじゃないれすかぁーアルトしゃん。ヒック…飲み会なんてねぇ、アタシゃあねぇ、前世のサラリーマン以来なんでしゅよぉー。それもねぇ、気心の知れたぁ、男同士のサシ飲みでごじゃいましゅのよぉ?もうねぇ、これが飲まずにいらましゅか!?ヒック…このビールもねぇ、昔飲んだ味しょのまんまぁ!!懐かしいナァ!いやぁーカンドーですヨ!カンドー!あっひゃっひゃっひゃ」

 

ティアナは泥酔していて、もはや何を言っているのか俺には分からない。

輩が使うような大きな木製のエールジョッキを片手に、俺に対して肩を組み面倒くさい絡み方をしている。

俺は普段の慎ましいティアナとのギャップに、大きく動揺していた。

 

「だ、だからティアナ、少し落ち着いて…ホラ、お水飲んで…」

 

「おみじゅいりゃない!!ヒック…あたしゃ今までお酒を我慢してたんでしゅよ!アルトしゃんもアーシャもエリナも!みんな飲んでるのに、アタシだけ麦茶ですよ!?麦茶!?もうねぇ、どんだけアタシが苦労してたか分かりましゅかぁ!えぇ!?でも聖職者だって飲んでも良いらしいじゃないれしゅか!盲点でしたヨ!そりゃあ、もう飲むしかぁないでしょうよぉー、えぇ?」

 

どうやら彼女は、飲酒が解禁された事をとても喜びたかったようだ。

それにしても、正直ウザい。

 

「アルトしゃんはいけずでごじゃいましゅねぇ…せっかく今日は女共がいないんでしゅよぉ?ヤロウ同士、下ネタ恋バナぶちかましましょうよぉー」

 

俺とティアナが飲んでいる酒の量は、大して違わない。

むしろ酒は、俺の方が多く飲んでいる。

ティアナは弱すぎたんだ、酒に。

 

「ちょ、ティアナ…流石にまずいって」

 

「ゲッヘッヘッ…ヒック!アルトしゃん、良いソープランド紹介しましゅよぉ?アタシ行きつけのソープなんれしゅよぉ…どうれしゅかぁ?そこでドーテー卒業しちゃいましょーよぉー。兄弟になりましょーよぉー」

 

ソープランドってなんだろう?

ティアナがよく行くってことは、礼拝堂か何かかな…

 

 

「オ、オイ…勇者様よぉ…これが本当に、あの聖女ティアナ様か?」

 

たまらずカウンター越しの店主が心配して声を掛けてきた。

 

「残念ながらね。店主も分かるでしょ…彼女がティアナだって。俺達みんな、ここで何度も食事をしているんだ」

 

面倒な酔っ払いに慣れた店主も、ティアナの様変わりには驚きを隠せないようだ。

 

「しっかし、ひでぇ悪酔いしてるな、聖女様。酒をまるでわかってないガキの飲み方だ……なぁ勇者様、一つアンタさんに提案があるんだが」

 

店主が何か、助け舟を出してくれるようだ。

俺は程々困り果てていたので、本当にありがたい。

 

「なーに大将と話してるんでしゅかぁ!あ、アタシにヒミツで猥談でしゅね!?ずるい!混ぜて!」

 

「ん、どうした?店主…ちょ、だから、ティアナ…ウザい…ヤメ…」

 

店主と話してる俺の横には、相変わらず訳のわからないことを叫ぶ美女が絡んでいる。

 

「ウチの二階が空いてる、聖女様をそこに連れて行ってやってくれ…勿論、タダでいい。さすがにそのままじゃ帰れねぇだろ…この店もこの街も、アンタ達に世話になりっぱなしだ、好きに使ってくれて良い」

 

「すまない店主。はぁ…今晩は帰れそうも無いな…ほら、ティアナ。二階借りれたから、行くよ」

 

「ヤダ!ヤーダー!飲み足りなぁーい!ダメぇ?」

 

ティアナは上目遣いで俺に訴えかける。

 

「…っく!ダメダメ!そんな目で見つめても、もうお終いだよ!ほらほら、立った立った」

 

「が、頑張れよ…勇者様」

 

俺は子供のように嫌がるティアナを羽交締めにして、酒場の二階へ連行した。

 

 

 

この酒場の二階にはベッドがある。

大抵の酒場には簡素ながらも、宿泊できる施設が併設されているものだ。

俺達パーティは少し高めの宿屋に期間契約で部屋を借りている。

だから、普段は酒場併設の宿を利用する事は無いのだが。

 

話を戻す。

ひとまず俺は、何とか泥酔したティアナを二階のベッドまで運んでくることが出来た。

ティアナをベッドに腰掛けさせると、やっと俺は一息つくことが出来た。

 

「暑い!あつぅーい!脱ぐ!」

 

ティアナは急に衣服を脱ぎ始めた。

 

「なっ!?ちょ!?えぇ!?ティ、ティアナ!」

 

気が付いたらティアナは、すぽーんと身に纏っていたカソックや肌着を器用に脱ぎ捨ててしまった。

そこには一糸纏わぬ、女神のようなティアナの肢体が露わになっていた。

美しかった。

非の打ち所がない、理想的な異性の肉体だった。

更には、酒で火照ったティアナの身体は、淫靡な雰囲気が漏れ出している。

 

彼女の肢体を見た俺は、酔いが一気に醒めた。

しかしそれとは引き換えに、俺の下腹部には重苦しい熱が瞬く間に帯びてくるのを感じた。

 

「ふぃー…あ、イケメンやろうのアルトしゃんだぁー…やぁーん、ヒック…アルトしゃんがいっぱいいるぞぉ!イケメーンたくさーん。だっこしてー、だっこだっこ」

 

あろうことか全裸のティアナは、俺に抱擁を要求してきた。

どう見ても彼女は我を失っている。

 

「ティ、ティアナ、いい加減しっかりしろ!酒の飲み過ぎだ!」

 

そんな言葉を掛けながらも、俺は彼女の全身を隈なく舐めるように見つめていた。

 

「もー…飲みしゅぎなわけないよぉー。いいじょーアルトしゃんが来ないならぁ!おれからイクぞぉ!」

 

ティアナは俺を強引に抱き寄せて、諸共ベッドに倒れ込んだ。

凄まじい膂力だった。

 

「あっ…アルトしゃん…あー…ヒック…むっふっふっ……」

 

ティアナは泥酔しながらも、何かに気が付いたようだ。

俺の下腹部を見つめながら、イタズラ小僧めいたニヤついた笑みを浮かべ始めた。

 

「アルトしゃんもぉ…血気盛んなオトシゴロでしゅねぇー…ソコ、元気じゃないれしゅかぁ。よかったれしゅねぇアルトしゃん、ヒック…イーディーかとおもってましたよぉ…」

 

俺は我慢の限界だった。

女性に囲まれて、自慰をする事もできず。

悶々と日々を過ごしてきたが…

もう無理だったんだ。

 

今まで耐えてきた真っ黒な欲望が、堰を切ったように雪崩れ込んできた。

 

「ティ、ティアナ!!お、俺はーーー!!!」

 

 

やってしまった。

 

俺は初めてだった。

だから力任せにティアナを抱いた。

俺自身もティアナの肢体に溺れて、我を忘れていた。

 

自失茫然の彼女を何度も抱いた。

今まで溜め込んでいたモノを、幾度も彼女の中に放った。

 

ティアナは処女だった。

俺は聖女の純潔を奪ってしまった。

 

お互い、酒を飲んで酔っていたとは言え。

取り返しのつかないことをしてしまった。

俺はティアナが酔いから目覚める前に、急いで彼女を見綺麗にして出来る限り衣服を整えた。

 

 

世が明ける頃、彼女は目覚めた。

 

 

「うぅ…頭いってぇ…口の中気持ち悪ぃ…俺ストゼロとか飲んだっけぇ…うぇっ…オゲェ………え?ーーーーーーーーあ、あ、ああああアルトさん!?ど、どどどどどどうしてここにっ!?って此処どこぉ!?えっ!?えっ!?えぇ!?あっ、あと、えっと…ワタシ、髪ボサボサ………あっ、服ヨレヨレ……お口臭い……あっ、ちょっ、ちょ待って、えっと…じょ浄化魔法”クリーン”」

 

ティアナが呪文を唱えると、瞬く間に彼女の姿が昨晩より前の姿に戻っていく。

 

「ティアナ、率直に聞くけど昨日の事を覚えてるか?」

 

「え?えーと…その……すいません、覚えてません」

 

「…はぁ、ティアナはひどく悪酔いしてたんだよ。店主が二階を貸してくれたから良いけど…後でお礼を言わないとね」

 

「す、すすすすすすみません!!お酒を飲めるのが嬉しくて…」

 

「分かってるよ、だから今度から飲む時は程々にね」

 

「しゅ、しゅみましぇん…」

 

しおらしいティアナは、いつも以上に可愛らしかった。

 

俺はその後しばしば、ティアナを二人きりで酒場に誘った。

彼女は必ず誘いに乗った。

ティアナは酒好きなのに、それはとても弱かった。

 

酒場の荒くれ共と、肩を組み騒いで飲めばあっという間に出来上がった。

一部の界隈では、飲んだくれ聖女と親しみを込めて呼ばれるようになった。

 

一度飲酒をすると、ティアナは決まってその後の出来事を覚えていない事実が分かった。

 

俺はそんな彼女の欠点につけ込んだ。

 

ひたすら酒で酔わせては、宿の二階へ連れ込んで彼女を犯した。

ティアナの魅力的な肢体を貪った。

彼女の中は俺で満たされた。

 

ティアナは俺の拙い物で感じてくれた。

俺はそれが嬉しかった。

享楽に狂うティアナを見る事ができるのは俺だけ。

それが俺の優越感を増長した。

だから何度も彼女を抱いた。

 

罪悪感は真っ黒な欲望で塗りつぶされてしまった。

 

彼女は眠りから目覚めると、すぐさま浄化魔法を使用する癖があった。

 

だから俺の隠蔽工作はある程度やれば、彼女自身が全てを綺麗にしてくれた。

 

俺は彼女に全てを打ち明け、責任を取るべきだった。

教会の聖女の純潔を奪う、それはきっと死罪に等しい。

俺は世間から糾弾されるのが、怖いのでは無い。

 

ティアナを落胆させたく無かった。

彼女に嫌われたく無かった。

しかし勇気のない俺は、そんな関係をズブズブと続けるしか無かった。

問題を棚上げして、肉欲を優先したのだ。

 

ときには罪悪感で吐きそうになった。

しかし、それと同時に俺は彼女の肉体を求めた。

ティアナを独占し、支配したつもりになれた。

 

彼女はベッドの中で俺に何をされたのか、一切を覚えていない。

彼女の感情を蔑ろにした、空虚な交り。

俺の愚行をティアナが思い出して責めてくれたら、俺はどれだけ楽になれただろうか。

 

ティアナはそんな俺の行いを、思い出すことは遂には無かった。

むしろ勇者と、仲間と慕ってくれた。

俺の内面は、好意と罪悪感と情欲が、複雑に絡まってしまった。

以前にも増して、彼女を乱暴に抱くようになった。

 

何度も何度も、彼女の奥深くに俺を刻み込んだ。

ティアナが俺の子を孕む姿を想像して、ひどく興奮した俺は彼女を激しく犯した。

 

もう止められない。

ティアナの魅力に抗うことは出来ない。

聖女を汚す背徳感に塗れた、この素晴らしい交接を。

いつの日かお腹を大きくしたティアナを、民衆の面前で陵辱しよう。

もはや俺は勇者などでは無い。

それを隠れ蓑にした、醜い男だ。

 

どんな事をしても、ある程度事後を整えておけばティアナは気が付かない。

しかしそのために、頻繁に酒席に誘うのもアーシャやエリナに怪しまれる。

いや、すでに勘付かれているのかもしれないが。

いっそのこと、アーシャとエリナもやってしまおうか…

いや、さすがにそれは危険が大きすぎる。

やはりティアナを完全に俺のモノにしてからだ。

ふむ、次からはどうやってティアナを酒場に連れ込もう。

 

「ティアナ!今日の任務はお疲れ様!疲れたでしょ?この後さ、二人で一杯…またどうかな?」

 

そして俺は今日も仲間を宿に置いて、ティアナと酒盛りに出向く。

 

いつか彼女が当たる、破滅的な願望を抱きながら。

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