第一王子と物乞いの少女2

何故か、俺の前にはヴァニタがいる。

何故か、一糸纏わぬ姿で。

 

「テューにぃなら…いいよ?」

 

まだ幼いとはいえ、その美しさには既に妖艶さを秘めている。

このまま成長すれば、それこそ最高のオンナになるに違いない。

 

「あたしのはじめて……全部、アゲル」

 

ヴァニタが、俺の下腹部に跨った。

やめろ、ヴァニタ…それは駄目だ!

それは犯罪だ!

 

そのままヴァニタの唇が、俺の眼前に迫る。

俺は身動きが取れないまま、ヴァニタにキスをー

 

 

「ハッ!…………………夢、なのか?」

 

とんでもない夢を見てしまった。

それこそ、背徳の極みのような。

 

そういえば最近、女遊びをしていなかった。

性欲を持て余しているのかもしれない。

 

あぁ、手近な女がいたな。

最近出会った幼い少女だが、俺好みにイチから仕上げて………

 

って!いやいや!

あんな幼な子を、そんな目で見るとか駄目だろ!

俺は少女趣味なんて無かったぞ!

 

くそっ!くそっ!

性欲もそうだが、政務も溜まってたのを忘れてた!

 

俺は仕方なく、王宮で執務をする事にした。

俺だって、たまには真面目に仕事をするさ。

父上に怒られるからな。

 

「王子、これ以上は無断の外出をお控え下さい」

 

大方の政務が、片付けられた頃だ。

老年の男が諌めるように、俺に語りかけてきた。

この男は、王宮の事務を司る執事長だ。

 

「なんだ爺や。俺がやるべき政務は、まとめて片付けてるんだ。別に良いだろう?」

 

「そうも行かないのです」

 

「何があった?」

 

「第一王子を狙う不届者がいる、という噂がございます。警護も付けずに外出なさるのは、御身を危険に晒します」

 

「なんだ、そんな事か。所詮は噂に過ぎんのだろう?そもそも他の王位継承者は、みんな進むべき道が既に決まっている。もう世継争いも、起きる事はないだろ」

 

「それでも、万が一がございます。せめて外出なさる時は、護衛をお付け下さい」

 

「あー、はいはい。分かったよ」

 

結局その後も、俺は何度もヴァニタへ会いに出かけた。

いつも警護の兵を撒いて。

 

今考えれば俺はあの時、爺やの箴言をもっと真摯に受け止めるべきだった。

 

 

 

 

ヴァニタは俺の心を照らしてくれた。

彼女の屈託の無い笑顔は、俺に優しさを与えてくれた。

他愛もないヴァニタとの会話が、俺にはかけがいのない時間になった。

 

俺はヴァニタが欲しくなってきた。

孤児であろう、彼女を守るべきだとも思った。

 

そろそろ、ヴァニタの身請けを考えても良いかもな。

孤児を身請けする未婚の王子など、きっと異例だろう。

しかし俺には、外聞などどうでも良い。

そうすれば俺は、彼女を守ることができる。

成長すれば、確実に俺だけの女にできる。

俺の心を照らしてくれた、あの清らかな少女を。

あらゆる女にしてきたように、仕上げてやる。

だがヴァニタは、俺がヤリ捨てた他の女とは違う。

ヴァニタは絶対に捨てない。

俺だけのモノだ。

あの光は俺だけのモノだ。

 

ああ、そうだな。

ヴァニタの成長を待つのも、馬鹿馬鹿しいな。

今から手を付けても良いだろう。

ヴァニタは俺だけの”カタチ”を知っていれば良い。

そのために早いうちから、俺の”カタチ”を憶えさせよう。

大丈夫だ、少しずつ慣らしていけば問題ない。

 

そして成長の暁には、ヴァニタに俺の種を蒔いてやろう。

ヴァニタに、生涯消えない俺の証を仕込んでやる。

 

 

そうだ、そうしよう。

 

俺は逸る気持ちを抑えつつ、彼女がいる区画へ向かった。

 

元気な俺だけのヴァニタ。

今日もいつも通り、そんな彼女に会えるはずだった。

そう思っていた。

 

 

「テューにぃ……あたしね…わるいひとに…まけなかったよ…」

 

路地裏で俺を待っていたのは、血だらけで倒れているボロボロのヴァニタだった。

 

「なっ!?なにがあった!おいっ!ヴァニタ!大丈夫か!?」

 

俺が買い与えた服も、見るも無惨に引き裂かれていた。

 

「さっきね…わるいひとがね…テューにぃころすの…てつだったらね…おかね…くれるって…だからね……」

 

「それで、お前は…」

 

「えへへっ…べーってしたら…たたかれちやった…テューにぃって…ほんとうに…すごいひと…なんだね…」

 

ヴァニタはひどい有り様だった。

関節は所々折れているし、裂傷も激しい。

更には出血も多い、命の危険だ。

 

「バカやろう…バカやろう!」

 

「テューにぃ…わるいひと…まだいるかも…だから…にげたほうが…いいよ…」

 

「うるせぇ!いいから行くぞ!死ぬな!」

 

「テューにぃ……あたし…なんか…めがわるいのかな…みえないよ……テューにぃ……どこぉ……」

 

「クソッ!」

 

俺はボロボロのヴァニタを抱えて、街の表通りに出た。

最早一刻の猶予も無かった。

 

「誰か!誰か!医者か治癒師はいないか!」

 

この場所から、治癒が受けられる教会の施設は遠い。

ヴァニタを抱えていく事も不可能だ。

 

しかし人通りは俺達を一瞥して、通り過ぎていくのみ。

 

もし俺の側に、警護兵が居れば少しは状況が変わったかもしれない。

彼等を撒くいつものクセが、仇になった。

 

それでも俺は諦めきれなかった。

腕の中の少女を救いたかった。

 

「金ならある!誰か!治癒師を連れてきてくれ!」

 

俺は必死に叫んだ。

 

「誰か!頼む!誰でもいい!誰でもいいから、助けてくれ…」

 

俺は自分の無力さに絶望しかけた。

 

その時だった。

 

「第一王子、その子はどうしたのですか!?」

 

俺達に声を掛ける者がいた。

 

「オ、オマ…いや、貴女は…」

 

「説明は後でいいですから!その子を診せて下さい!私の宿が近いから、そこに行きますよ!」

 

教会の長、枢機卿、聖女、そして”治癒魔法”の達人

そう呼ばれる

 

イェンティアナ・ラブカス

 

その人だった。

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