第一王子と物乞いの少女2
何故か、俺の前にはヴァニタがいる。
何故か、一糸纏わぬ姿で。
「テューにぃなら…いいよ?」
まだ幼いとはいえ、その美しさには既に妖艶さを秘めている。
このまま成長すれば、それこそ最高のオンナになるに違いない。
「あたしのはじめて……全部、アゲル」
ヴァニタが、俺の下腹部に跨った。
やめろ、ヴァニタ…それは駄目だ!
それは犯罪だ!
そのままヴァニタの唇が、俺の眼前に迫る。
俺は身動きが取れないまま、ヴァニタにキスをー
・
・
・
「ハッ!…………………夢、なのか?」
とんでもない夢を見てしまった。
それこそ、背徳の極みのような。
そういえば最近、女遊びをしていなかった。
性欲を持て余しているのかもしれない。
あぁ、手近な女がいたな。
最近出会った幼い少女だが、俺好みにイチから仕上げて………
って!いやいや!
あんな幼な子を、そんな目で見るとか駄目だろ!
俺は少女趣味なんて無かったぞ!
くそっ!くそっ!
性欲もそうだが、政務も溜まってたのを忘れてた!
俺は仕方なく、王宮で執務をする事にした。
俺だって、たまには真面目に仕事をするさ。
父上に怒られるからな。
「王子、これ以上は無断の外出をお控え下さい」
大方の政務が、片付けられた頃だ。
老年の男が諌めるように、俺に語りかけてきた。
この男は、王宮の事務を司る執事長だ。
「なんだ爺や。俺がやるべき政務は、まとめて片付けてるんだ。別に良いだろう?」
「そうも行かないのです」
「何があった?」
「第一王子を狙う不届者がいる、という噂がございます。警護も付けずに外出なさるのは、御身を危険に晒します」
「なんだ、そんな事か。所詮は噂に過ぎんのだろう?そもそも他の王位継承者は、みんな進むべき道が既に決まっている。もう世継争いも、起きる事はないだろ」
「それでも、万が一がございます。せめて外出なさる時は、護衛をお付け下さい」
「あー、はいはい。分かったよ」
結局その後も、俺は何度もヴァニタへ会いに出かけた。
いつも警護の兵を撒いて。
今考えれば俺はあの時、爺やの箴言をもっと真摯に受け止めるべきだった。
♢
ヴァニタは俺の心を照らしてくれた。
彼女の屈託の無い笑顔は、俺に優しさを与えてくれた。
他愛もないヴァニタとの会話が、俺にはかけがいのない時間になった。
俺はヴァニタが欲しくなってきた。
孤児であろう、彼女を守るべきだとも思った。
そろそろ、ヴァニタの身請けを考えても良いかもな。
孤児を身請けする未婚の王子など、きっと異例だろう。
しかし俺には、外聞などどうでも良い。
そうすれば俺は、彼女を守ることができる。
成長すれば、確実に俺だけの女にできる。
俺の心を照らしてくれた、あの清らかな少女を。
あらゆる女にしてきたように、仕上げてやる。
だがヴァニタは、俺がヤリ捨てた他の女とは違う。
ヴァニタは絶対に捨てない。
俺だけのモノだ。
あの光は俺だけのモノだ。
ああ、そうだな。
ヴァニタの成長を待つのも、馬鹿馬鹿しいな。
今から手を付けても良いだろう。
ヴァニタは俺だけの”カタチ”を知っていれば良い。
そのために早いうちから、俺の”カタチ”を憶えさせよう。
大丈夫だ、少しずつ慣らしていけば問題ない。
そして成長の暁には、ヴァニタに俺の種を蒔いてやろう。
ヴァニタに、生涯消えない俺の証を仕込んでやる。
そうだ、そうしよう。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、彼女がいる区画へ向かった。
元気な俺だけのヴァニタ。
今日もいつも通り、そんな彼女に会えるはずだった。
そう思っていた。
・
・
・
「テューにぃ……あたしね…わるいひとに…まけなかったよ…」
路地裏で俺を待っていたのは、血だらけで倒れているボロボロのヴァニタだった。
「なっ!?なにがあった!おいっ!ヴァニタ!大丈夫か!?」
俺が買い与えた服も、見るも無惨に引き裂かれていた。
「さっきね…わるいひとがね…テューにぃころすの…てつだったらね…おかね…くれるって…だからね……」
「それで、お前は…」
「えへへっ…べーってしたら…たたかれちやった…テューにぃって…ほんとうに…すごいひと…なんだね…」
ヴァニタはひどい有り様だった。
関節は所々折れているし、裂傷も激しい。
更には出血も多い、命の危険だ。
「バカやろう…バカやろう!」
「テューにぃ…わるいひと…まだいるかも…だから…にげたほうが…いいよ…」
「うるせぇ!いいから行くぞ!死ぬな!」
「テューにぃ……あたし…なんか…めがわるいのかな…みえないよ……テューにぃ……どこぉ……」
「クソッ!」
俺はボロボロのヴァニタを抱えて、街の表通りに出た。
最早一刻の猶予も無かった。
「誰か!誰か!医者か治癒師はいないか!」
この場所から、治癒が受けられる教会の施設は遠い。
ヴァニタを抱えていく事も不可能だ。
しかし人通りは俺達を一瞥して、通り過ぎていくのみ。
もし俺の側に、警護兵が居れば少しは状況が変わったかもしれない。
彼等を撒くいつものクセが、仇になった。
それでも俺は諦めきれなかった。
腕の中の少女を救いたかった。
「金ならある!誰か!治癒師を連れてきてくれ!」
俺は必死に叫んだ。
「誰か!頼む!誰でもいい!誰でもいいから、助けてくれ…」
俺は自分の無力さに絶望しかけた。
その時だった。
「第一王子、その子はどうしたのですか!?」
俺達に声を掛ける者がいた。
「オ、オマ…いや、貴女は…」
「説明は後でいいですから!その子を診せて下さい!私の宿が近いから、そこに行きますよ!」
教会の長、枢機卿、聖女、そして”治癒魔法”の達人
そう呼ばれる
イェンティアナ・ラブカス
その人だった。
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