王妃の目覚め

一通りの内憂が解決でき、王国は外交に注力できるようになった。

それに恩義を感じた国王クロイスは、宝物殿迷宮化解決の立役者である勇者一行を、王宮の晩餐会に招いた。

もちろん、客将のサティアも同席している。

 

勇者達の招待は、王妃の熱烈な希望による所もあった。

王妃は聖女と何度も会っているが、改めて酒宴の場で謝辞を伝えたかった。

 

「非公式な依頼故、表立っての式典は開けない。その代わりとして、今夜は最高の料理と酒を思う存分楽しんでほしい」

 

国王の挨拶もそこそこに、宴は始まった。

 

勇者達は、滅多に味わえない高級な食事と酒に舌鼓を打った。

魔族のサティアも、故郷にはない異国の高級料理を夢中で掻き込んだ。

聖女は、滅多に市場へ流通しない、王宮御用達の葡萄酒を優雅に喉へ流し込んだ。

 

かくして聖女は、瞬く間に出来上がった。

聖女の優雅な姿は、泥酔と引き換えに雲散霧消した。

 

「ティ、ティアナ…酒が美味いのは分かるが、ここは王宮だ。いい加減飲むのを控えた方が…」

 

「ああん?アルトしゃんはうるさいですねぇ!今日はブレイコーなんじゃないれしゅか!?ブレイコー!ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ…っぷはぁ!ウンメェー!」

 

「あらあら…聖女様は本当に、お酒がお好きなようですね」

 

「あ、オーヒしゃまぁ!オーヒしゃまジキジキのお酌なんて悪いでしゅねえ!」

 

王妃は、聖女の酒杯へ葡萄酒を注ぎながら微笑んでいる。

 

「王妃、すいません。普段はこんなんじゃないんですけど。酒が絡むと、どうしても荒れちゃうみたいで」

 

勇者アルトは肩をすくめながら、王妃にティアナの蛮行を弁明した。

 

「何らとぉ!?オラァン!このドーテーやろう!わらしは至って普通れしゅよぉ!しょーれしゅよれぇー?オーヒさまぁー」

 

ティアナは泥酔したまま、王妃へ話し掛けた。

その姿は、平時の聖人然としたものでは無かった。

 

「まぁまぁ、お顔が真っ赤ですわ、聖女様」

 

「ちょ、ティアナ!お義母上に絡むな!流石に不敬が過ぎるぞ!」

 

王族のエリナは、義母に対して馴れ馴れしいティアナを咎めた。

しかし義母の表情は、過去に見た嫉妬深いものではなく、聖母のような笑みを浮かべていた。

 

「あら、エリナさん。私は大丈夫ですよ。それに貴女も、今回の騒動解決に大きく貢献したのです。貴女はもっと誇るべきです」

 

「お義母上…」

 

「わたくしは今まで…貴女と、貴女のお母様にとても酷い扱いをしてきました。実は、ずっとそれを謝りたいと思っていたのです。ごめんなさい、この場を借りて謝罪するわ」

 

「…お義母上は私の事を、認めてくださるのですが?」

 

「認めるも何も、家族じゃないですか。血の繋がりは無いとは言え、エリナさん。貴女もまた、わたくしの娘ですよ」

 

「ううっ…お、お義母上…ありがとうございます…」

 

エリナは涙して、王妃に感謝した。

 

「いやぁ!カンドーのワカイれしゅねぇ!よかったれしゅねぇーエリナしゃん…ヒック!仲直りできてぇ、ヒック!」

 

ティアナはそんな感動的な空気を、いとも簡単に破壊する。

 

「うっ…酒臭っ!ちょ!ティアナは空気読め」

 

エリナは、この時ばかりはティアナに対して、殺意を覚えた。

この酒乱聖女を、本気で殴ろうかと思った。

 

「うふふっ…聖女様は面白い方ですわね。どうやら、少し酔いが回っているようです。聖女様は部屋でお休みになられては?心配ですから、私も参りましょう」

 

「そんな、お義母上がその様な事までなさる必要は」

 

「私も少し落ち着きたいので、聖女様を伴って部屋へ向かいますね。皆さんは、引き続き晩餐を楽しんで下さいな」

 

「お義母上が、そう言うなら…」

 

王妃は聖女を伴って、晩餐会の場を後にした。

 

 

 

「わたくしは聖女様と休む。誰も部屋に通すでないぞ」

 

「はっ…」

 

侍女に指示を下した王妃は、聖女を自室に連れ込んだ。

彼女達は、二人きりとなった。

 

「うふふっ…まさか、こんなにお酒に弱いとは…薬を盛る必要もなかったかもしれませんね…」

 

「えぇ?なんの事れしゅかぁ?ネイさまぁー…あれぇ?ココどこれしゅかぁ?二次会れしゅかあ?」

 

「そうですよティアナさん。ここはニジカイですよ」

 

「やっぱ二次会れしゅか!?わぁい!お酒まだ飲めるんれしゅねぇ!」

 

「はいはい、お酒なら沢山用意してありますから。好きなだけ飲んで下さいね」

 

「イやったぁー!イッヒッヒ…人妻美女とマンツーで酒が飲めるなんてサイコー!お酌しろーオラァ!」

 

「そんな、美女だなんて恥ずかしいですわ」

 

「ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…っんはぁ!いいれしゅかぁ!?ネイしゃまは本当に美女なんれしゅよぉー…ヒック!わらしもお手伝い頑張っら甲斐がありましゅよぉ!ヒィック!それでいれぇ、ヒトヅマとかエロしゅぎぃ!とくにぃ!そのデカパイさいこーれしゅねぇ!ケーサンプの美女にジュニューテコキしれほしいんれしゅよぉー…わかりましゅー?」

 

「もう、そんなにわたくしの事がお好きなんですか?」

 

「すきもすきぃ!だいすきぃ!ネイしゃまバンザイ!おっぱいバンザイ!フワフワおっぱいに包まれたいれしゅ!」

 

「ぐぅ…すぴー…ぐぅ…すぴー…ぐぅ…すぴー…」

 

王妃に酌をさせ続けたティアナは、遂に寝入ってしまった。

そして、その姿を王妃は待っていた様に自らの目を細めた。

 

「ああ…わたくしをここまで若返らせてくれた、ティアナさん…そんな恩人に、わたくしはこれから…うふふ…でも、もう止められないわ…お望み通り、わたくしの全身でアナタを包んで差し上げましょう…」

 

王妃は、ティアナの纏っている布を丁寧に脱がせた。

彼女の前には、あられも無い姿の聖女がベッドの上に横たわっている。

 

「スンスン…ああ、良い匂い…スゥーッ…はぁー…スゥーッ…はぁー……やはりティアナさんは、素晴らしい…まさに女神…ああ、猊下…愛しております…ですから…この欲深いわたくしを、どうかお許しください…」

 

王妃はこの日初めて、無防備となった聖女の肢体を味わい尽くした。

身動きの無い、聖女の肉体を使って何度も達した。

しかし、王妃はある違和感を覚えた。

 

「えっ…まさか…ティアナさん…まさか…嘘でしょ…」

 

最中、王妃は”ある事”に気が付いた。

異様な程、聖女のソレは開発されていた。

しかも、二箇所。

それは、新たなる嫉妬の念を王妃に芽生えさせた。

 

「ティアナさん…一体どなたに…」

 

王妃は頭を巡らせた。

 

「ティアナさんは、勇者の事を”童貞野郎”と馬鹿にしていた…では、誰が!誰が猊下の清純を!ああ!ああああああああ…………すごく、興奮しますわ」

 

王妃はティアナが既に、自分以外の何者かの物になっている事を思い浮かべた。

それは王妃に、かつて無く強い劣情を齎した。

それは、未だ目覚めぬ聖女へ向けられる。

結局その日は、聖女が王宮から帰ることはなかった。

 

なお勇者達は、泥酔したティアナを王妃に預けた事を、本当に申し訳なく思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る