第一の秘宝
宝物殿の異界化は解決された。
内部に跋扈していた強力な魔物達も、迷宮の消滅に伴って消え去った。
危惧されていた宝物も、そのほとんどが無事に回収された。
また、ダンジョンを踏破した勇者アルト一行と、魔族の客将サティアの成長も目まぐるしいものだった。
進路上にある強力な魔物を、戦略的撤退を繰り返しながら着実に撃破していった。
異様な力を備えた、迷宮のモンスター達。
それらは、苦労して討伐した者達に経験値という名の大きな見返りを齎す。
結果として、ダンジョンコアが破壊される頃には、彼等は飛躍的なパワーアップを遂げた。
しかし彼等の目的は、未だ達せられていない。
目当ての秘宝は、終ぞ迷宮で見つかる事は無かったのだ。
♢
「勇者殿のおかげで、我が王家の憂いを断つ事ができた。そなた達の働きに、深く感謝する。今後、勇者殿の活動に、王国は全面的に支援する事を約束しよう。何か望みはあるか?」
国王クロイスは謁見に来た勇者達へ、謝辞を述べた。
それは勇者一行が、王家の信頼を勝ち得た事を意味していた。
「私から一つ、よろしいでしょうか陛下」
勇者アルトの傍で傅く、聖女ティアナが口を開いた。
「おお、聖女殿か。もしや、例の秘宝の事か?」
「仰る通りでございます、陛下。可能であれば王城地下にある、倉庫への立ち入り許可を頂きたいのです。秘宝が宝物殿に無いのならば、もしやと思いまして」
「うむ、許可しよう。我が娘エリナが同行するならば、問題ない。それで良いな、エリナよ」
「はっ、父上の仰せの通りに」
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勇者達は侍従に案内され、目的の地下倉庫へやって来た。
「ここが王城地下にあるという倉庫か…基本的に用もないから、私も来るのは初めてだが…」
エリナは物珍しそうに、薄暗い倉庫内を見回している。
「ティアナ、ここから秘宝が何なのか、探し出せるのか?一つ一つ閲すれば、何日掛かるか…」
方やリーダーのアルトは、これから倉庫の中身をひっくり返しての大捜索が始まるものだと考えて、やや気怠げに独りごちた。
「見つけました」
仲間達が、キョロキョロと倉庫内を眺めている最中。
彼等が、捜索に着手しようとした瞬間だ。
「「「は?」」」
ティアナの一言に、仲間達は呆気にとられた。
「だから、もう見つけました。コレです」
既にティアナは、掌サイズの食器らしきものを手に取っていた。
「ティアナ、いつの間に…それに、なんだか埃まみれだな。皿か何かの器に見えるが…それが?」
埃を被ったそれは、小皿のような非常に簡素な造りだった。
「これは盃です。本来の用途は、酒を注ぎ飲むための物ですが…僅かながら、この盃から力を感じます、間違いありません。いいですか、ご覧下さい」
“混沌を焚べよ”
ティアナが短い文言を口にすると、盃は微かに光を帯び始める。
それは鼓動するように、斑模様を描きながら、赤く怪しい光を放っていた。
「これは、なんと面妖な…」
サティアは目を見開き、淡い光を放つ盃に対して驚愕した。
「確かに…単なる道具ではなさそうだな。早速戻って国王へ相談しよう!もしかしたら報酬の一環として、譲ってくれるかもしれない!」
「ええ、そうですね。陛下なら、きっとそうしていただける筈です…」
ティアナは淡く光る盃を手にしたまま、口角を上げ、薄ら笑みを浮かべている。
そして彼女の両目は、盃が放つものと似た光を、僅かに帯びていた。
誰しもが、怪しく光る盃に視線を集中している。
そして彼女の、表情や瞳の変化に気付いた者は、誰一人として居なかった。
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その後勇者は、国王へ倉庫で埃を被っていた盃が、件の秘宝である旨を報告した。
それを受けた国王は家臣に命じ、急ぎ盃の調査をさせた。
しかし、後日上げられた調査の結果は”出所不明”。
一品物の食器故に、基本的に使用される事はない。
何らかの魔法効果、それを付与が為された痕跡も無し。
いつから倉庫にあったのか。
何処で作られた物なのか。
誰が作った物なのか。
その一切が分からなかった。
何者かがその盃を、無断で倉庫に置き去った可能性もある。
だが、それは仮説に過ぎない。
そして、僅かながら混沌の力を秘めているとなれば、単なる器でない事は確実。
国王は内心で気味を悪く感じ、それを勇者に受け渡す事を決定した。
ある意味では、厄ネタを押し付けたと言ってもいい。
宝物殿迷宮化の前例もある。
国王は出所のよく分からないモノを、王宮の地下へ留めておく事は避けたかった。
故に、盃はあっさりと勇者達の手に渡った。
表向きは、事件解決による報酬の一つとして。
♢
「”混沌を焚べよ”…だってさぁ!あ゛あ゛ー!特に何もいう必要なんてなかったのにぃ!はひぃー!恥ずかしい!ついノリノリで言っちゃったよ!でも何か言わないとね!いけない様な気がしたしね!いやぁ!恥ずかしー!」
ティアナは宿の部屋で一人、赤面している。
彼女は枕を抱えベッドの上で苦しそうに、ジタバタとのたうち回った。
何故彼女がそうなっているのかは、誰もが分からない。
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