勇者と道具屋の老婆


んっ…んー、むにゃむにゃ…なんか揺れてんなぁ…なん…地震かァ…?


「ティ…ティアナッ!…ティアナ!」


ん…んん…なんらぁ?なんらぁよぉ…


んぁ?


あぁ…我が心の飲み友、アルト君ではないかぁ…


「ぐっ…う…ティアナ…!好きだァッ!孕め!孕めェッ!」


なんらァ…アルトくんはぁ…

誰に向かって告ってんだぁ…?

こんなオッサンに告白するとか同性愛者かァ…?


気持ち悪りぃナァ…


あーなんだ…エリナとアーシャもいるじゃねぇか…

変だなぁ…


あ、コレ夢かぁ…

…夢なら仕方ねぇなぁ……


むにゃむにゃ…ねみぃ…

まだ起きたくねぇ…5時間…あと5時間だけ…



私達が王都に滞在して暫くの事。

王国と魔族の間で、喧々諤々と行われていた和平協議。

遂にそれも、大綱が纏められ一旦の合意が成される運びとなった。


という事は私達は間も無く二つ目の秘宝を求め、魔族領に向かわなければならないだろう。

エリナのお母上を堕としたかったが、断念せざるを得まい。

以後、私が王都に戻る予定は無いし。

娘譲りの美人で致せないのは残念だが、仕方ないだろう。


よって和平協定の成立に併せて、私達は拠点のロビーで打ち合わせを始める事となった。


「無事に王国と魔族の間に和平が成されたようだ。サティアもいる事だし、これで魔族領にも行きやすくなったな」


リーダーのアルト君が話を切り出した。


「フフンッ!我が主、魔王様の寛大さに感謝するんだナァ!オロかな人間ども!」


「今更魔族の女幹部ムーヴしても遅いですよ、サティアさん」


デカパイをバインバイン揺らしながら、胸を張るサティアを私は嗜めた。


「う、うるさい!たまには私もカッコよく振る舞いたいんだ!魔族将としての尊厳を取り戻させろ!」


「割と初めからサティアさんの尊厳なんて、無かった気がしますよ?」


「な、なんだって!?ムキィィィイイ!喰らうぞ、この変態クソ聖女!」


「ま、まぁまぁ二人とも。サティアの案内があれば俺達も助かるし、話を進めよう」


見かねた律儀なアルト君は、サティアと私の仲裁を始めた。

哀れ、当初あったサティアの強者然とした風格は、一体どこへ行ったのやら…

良いリアクションが返ってくるし楽しいから、サティアを弄るのは止めないけど。


「ティアナを背後から串刺しにした強者とは思えん、気の抜けるやり取りだな…」


「あの時心配したアタシ達がバカだったわ…」


エリナとアーシャは、私とサティアのやり取りに半ば呆れていた。

どうせサティアの株が下がるだけなので、私は構わないが。


「さて、魔族領への道案内を頼んで良いのか?サティア」


話を軌道修正したアルト君が、サティアに問い掛けた。


「あぁ、構わない。今し方、魔王様から使者を通じて、私に帰還命令が入った所だ。それと…可能ならば、そこの変態クソ聖女を魔王城に連れて来るようにとの仰せだ。良かったな、変態クソ聖女」


「ちょ…その言い方はそろそろやめて下さいませんか!?サティアさん!」


「うるさい、デカパイムチムチどエロドカ食い気絶部酒乱変態クソ聖女」


「余計に悪化してませんか?」


酒好きである事は、前世から自覚してはいるものの他は濡れ衣だろうに。

まったく見当違いな事を言うなぁ、このエロ魔族が。

犯すぞ、コラ。


「ティアナが魔王に招待されているという事は、俺達パーティーも同行して良いんだよな?」


アルト君は念の為、サティアに確認を取った。

確かに回復役の一人が、勇者パーティーから長期離脱するのは好ましくないか。


「無論、許可されている。勇者アルトをはじめ、アーシャやエリナも我等は歓迎しよう。力ある者を魔族は尊ぶ。砦の一戦で、好敵手であったお前達なら尚更だ」


「面と向かってアンタに褒められると、なんだかムズ痒いわね」


「うむ、私達は必死に戦っていただけだからな」


ふむ…強者認定を受けたアーシャとエリナも、魔族領に赴くに当たって悪くはない気分のようだ。


「魔王城はここからかなりの距離があるぞ。人間の足ならば遅くとも、ひと月はかかると覚悟しておけ。私と、そこの変態クソ聖女が本気で走るならば別だが」


「ひと月かかる距離よ!?どんな走り方をしたら、1日足らずで戻って来れるのよ…アンタ達やっぱバケモンね」


仕方ない、私の超高速移動方法を伝授してやろう。

あの走り方はカッコいいから是非、パーティーの皆にも習得して欲しかったんだ。


「簡単ですよ、アーシャ さん。前傾姿勢を取りながら、凄く凄い速さで足を踏み込むんですよ。腕を組んだり、走ってる時は上半身を動かさないのがコツですね。キセルを咥えてたら、尚良しですよ♪」


「キセル?ちょっとアンタが何言ってるか分かんないわ、アタシ」


バカなアーシャには少し早かったかな?


「サティアとティアナには悪いけど、そこは俺達の移動速度に合わせて欲しい」


リーダーがそう言うんだ、仕方ないが合わせるしかないか。

特段に急ぐ必要もないし。


「そうだな、私やアーシャも足に自信はあるが…それだと助かる」


エリナやアーシャも、健脚な方だが無理だろう。

懸命な判断だ。


まぁ抜け道というか、反則技というか。

この世界はゲームと違って応用が効くから、裏ワザも無くはないけど。


「長旅なら、相応の備えが必要だな。なら各自、今日一日は準備にしようか。俺も寄って行きたい所があるしね」


アルト君が寄りたい所か…

さては、風俗か?

本番無しの。

そうかぁ、仕方ないよなぁ。

長旅なら、暫くはオナニー出来ないもんなぁ。

可哀想に。

そっとしておいてあげよう。


私はどうしようかなぁ。

いつの間にかパーティーの料理担当になってるし。

酒と食材でも買いに行くかなぁ。

自分用の酒は、王妃に分けて貰おうかなぁ。




ー王都のある露店にてー


「ヒッヒッヒッ…おやおや…勇者様、いらっしゃい…」


「お婆さんも相変わらず元気だな」


「勇者様が来るたびに、いつも出資してくれるからねェ。ありがたい事だよ。ところで、今日も出資してくれるのかい?」


「ああ、勿論だ」


「そうかい、毎度ありがとうよ。こんな萎びた道具屋の婆に出資するとは、変わり者だねェ勇者様も………ほれ、今回の返礼品だ、受け取りな」


「これは…黄金の輪?それに、物凄い装飾だ……相当の価値がありそうだが…本当に良いのか?」


「勇者様の出資で、ウチにも良い商品が入るようになってきた。コレは道具屋婆からの、最後の御礼さ。きっと勇者様の役に立つよ、コレは……良いから大事に取っておきな!絶対に、売るんじゃあないよ」


「もちろんさ。大切に取っておくよ」


「それが懸命さね……さて、せっかく来たんだ、何か買っていくかい?上得意の勇者様なら、割引するよ…ヒッヒッヒッ…」


「丁度良かった。これからひと月程かかる長旅に出るんだ。他の店より安いなら有難いな。じゃあ、コレとコレをー」



「世話になった、お婆。王都に戻ったら、また来るよ。じゃあ、これで」


「毎度あり…ヒッヒッヒッ……………勇者様も”本懐”が遂げられると良いねェ…ヒッヒッヒッ………………」





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