姫騎士エリナ

エリナ・ローゼンハイツは勇者に付き従う、王族出身の騎士である。

 

エリナは国王の実子であるが、妾の娘であった。

傲慢な本妻の王妃からは、母子共々冷遇されていた。

 

そんな扱いを受けている故、エリナは貴族令嬢になる事を疎んでいた。

結果、エリナは貴人令嬢の嗜みを蔑ろにし幼き日より剣の道を、ひいては武門を志した。

実母は反対したが、その声を押し切って彼女は訓練に明け暮れた。

現実逃避に見えたエリナの行動と思われたが、母親の存外に親衛隊のメンバーからは世辞抜きで剣の筋が良いとの評判だった。

 

エリナが十代も半ばの頃だ。

珍しく、父から勅命を下された。

騎士爵を下賜されると同時に、勇者一行に付き従うように、と。

この頃にはエリナは既に、親衛隊に混じって剣術の訓練をする事が多くなった。

隊長曰く、「実力もある姫騎士とは恐れ入った」とその力に太鼓判を頂く程になっていた。

その評価が国王である父親の耳にも当然届いていたのだ。

 

この命令の背景には、王妃の謀による厄介払いの意図もあった。

エリナはこの歳になって、美しさに磨きが掛かっていた。

長く整った黒髪に、それを引き立たせる白く艶のある地肌。

鍛えられた健康的で豊満な肢体。

母親譲りの眉目秀麗は、多くの女性陣から羨望の、男性陣からは情欲の眼差しを向けられた。

上級騎士の装備一式を纏った姿は、宛ら物語の戦乙女である。

上位の王侯貴族からは、輿入れの声も既にあった。

嫉妬深い義母の王妃は、そんなエリナの存在が殊更疎ましくなった。

 

また、この指示には国王の算段もある。

勇者が功績を残せばエリナを強引にでも嫁がせる。

あの容姿だ、勇者も惹かれない筈は無い。

救世の勇者を王族に引き入れる事ができれば、民衆の支持も得やすい。

それが叶わずとも、平和の立役者として勇者とは太いコネクションが出来る。

適当な貴族に嫁がせるよりも、利点が多い。

エリナの身に降り掛かる危険は、王国が得るメリットを思えば些事である、と王は考えた。

父親にとっても、エリナは手駒に過ぎなかったのである。

 

ーーーーーー

 

「我が名はエリナ…エリナ・ローゼンハイツ。ローズ王国、国王が娘にして王国の騎士である。此度は勇者殿に加勢するよう、国王から仰せつかった。よろしく頼む」

 

「こちらこそよろしく!あと、俺達にはもっと気さくに話しかけてくれていい。これから仲間になるんだからな」

 

エリナは彼等と合流して、間も無く活躍した。

パーティの後衛は魔法使いのアーシャ、聖職者ティアナが固めていた。

しかし、前衛は実質的にアルト1人だった。

そこに背中を預けられる、近接のプロである騎士職が来たのだ。

アルトの負担は著しく低減した。

 

エリナは近衛騎士団に混じって訓練していたこともあり、年齢の近い異性と接する機会には恵まれていた。

ただし騎士団の男たちの態度は、エリナに対して傅いたものだった。

妾との子供とはいえ国王の娘だ、当然である。

だが、アルトはエリナに対して、平民が貴族にするような敬意を払わなかった。

エリナにとってその態度は新鮮であり、とても好ましく思えた。

 

一方のアルトも前衛の仲間という事で、エリナとは瞬く間に打ち解けた。

アルトは比較的目立たない、地味目な容姿ではあるが器量が良い。

それに加えて、王国の親衛隊長にも引けを取らない剣と戦いのセンス。

年相応の壮健さに加えて、仲間に対する気配りもできる。

エリナが彼に惹かれない訳がなかった。

 

しかしその想いに反して、エリナにはアルトの幼馴染アーシャという強力なライバルがいる。

事あるごとにアーシャは、エリナに噛みついた。

アルトとエリナが近くにいる時は尚更だ。

まずもってエリナと初対面であったアーシャの一言目が

 

「また女ぁ?王族か何か知らないけど、いい!?アルトを変な目で見ない事ね!」

 

である。

 

さすがに戦闘中に関してはお互い割り切って連携しているので、さして大きな問題とはならなかった。

 

ある時、エリナは思い切ってアーシャへ率直に尋ねた。

 

「なぜ私がアルトと近くにいるとアーシャは怒るんだ。同じ女性ならティアナもそうだろう。しかし、彼女がアルトと話していてもアーシャは何も言わない。単純に私の事が気に入らないのか?」

 

「ティ、ティアナはいいの!ティアナは聖職者だし!アルトに変な色目使わないでしょ、たぶん!だからアタシのライバルにはカウントされないわ!」

 

「いや、あれは私から見ても中々に男性というモノを分かっていそうな感じだぞ。それに、あんな魅力的な肢体で迫られたら惚れない男はいないだろう」

 

「だ、だから!ティアナはいいの!大丈夫なの!やめやめ!この話はお終わり!閉廷!以上!みんな解散!」

 

「あっ…えっ…えぇ…?」

 

ティアナの話になると、要領を得ない受け答えをするアーシャであった。

そんなアーシャに対してエリナは怪訝な表情をするも、ここでその話はお開きとなった。

 

 

 

ある日、強力なモンスターとの戦闘でエリナは深手を負った。

特殊な敵であった。

それもその筈、冒険者ギルドでも手を拱いていたモンスターの討伐案件なのだ。

複数の小型モンスターでパーティを撹乱しながら、自身は相手の隙を突いて手痛い一撃を繰り出す大型のエネミー。

しかも単純な物理攻撃ならまだしも、呪いや毒などの絡め手が混在した攻撃である。

標的の一撃を受けたエリナは、反撃する事なく瞬く間に行動不能となった。

 

勇者アルトの判断は早かった。

身動きの取れないエリナを即座に回収し、皆揃って一目散に逃げたのだ。

一行は敵の追撃も躱しながら、何とか街に戻ることができた。

傷を負い複数の状態異常を抱えたエリナは、ここで一旦休養することとなる。

聖職者ティアナは治療の為に、夜を徹してエリナの寝台に付き添った。

 

「…ふぅ、コレで毒と呪い、それと麻痺は何とかなりました、傷跡も残りません。複合的な状態異常を仕掛けてくる大型モンスターは珍しいですね。引き返して治療に専念して正解でした。それとエリナさん、致命傷を避けたのは流石ですね」

 

宿部屋のベッドに横たわるエリナに向かって、椅子に腰掛けたティアナが声を掛けた。

 

「ん…すまない、私の油断で皆に迷惑を掛けてしまった」

 

「仕方ありませんよ、エリナさん。前衛はそういった所謂”初見殺し”に逢う危険性も伴います」

 

「ああ、そう言ってくれると有難い。それと…その、アルトとアーシャは今どうしているんだ?」

 

「アルトさんとアーシャさんのお二人は、今頃装備のメンテナンスや資材の買い出し中でしょう。私が大丈夫と判断したので、お二人には雑用をお任せしました。アーシャさん嬉しそうでしたよ、久々にアルトさんとデートだって」

 

「そうか…意外と彼等も大丈夫そうだな。ところで、気になっていた事があるんだが…尋ねても良いか?」

 

エリナは神妙な面持ちで、ティアナに問いかけた。

 

「そんな突然改まって、何でしょうか?」

 

「ティアナ、君はアルトの事が好きか?」

 

「ほぇ?」

 

突然の恋バナに対して、ティアナは素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「君はアルトの事を異性として好いているか、と聞いているんだ」

 

「あ、あぁ…あまりの不意打ちで呆然としてしまいました」

 

「で、どうなんだ!?」

 

エリナはティアナの応答を諦める気はないようだ。

 

「ん゛っ、ん゛ん゛!別に異性としては見てはいませんよ。一人の人間としては好ましく思えますが。アーシャさんにもこの事を、予め伝えてありますからね」

 

「そうか、そうなのか。どおりでアーシャも君に対して何も言わない訳だ」

 

「そんな事を聞くエリナさんこそ、アルトさんの事が好きなんじゃないですか?」

 

「うっ…まぁ…その………そうだ」

 

「ですよねぇ…私から見ても分かりますよ。アルトさんは気が付いて無さそうですけど」

 

「そうなのか?色恋沙汰というのに私は疎い。この機会だ、良ければ色々助言してくれると有難いのだが。とてもアーシャには相談できないからな」

 

「はぁ、では…率直に尋ねますけど、エリナさん生娘ですよね?」

 

ティアナは聖職者とは思えない質問を、エリナにぶつけた。

 

「なっ!?そんな下劣な事を私に聞くか!」

 

「処女ですよね?」

 

「そんな事言える訳ないだろう!」

 

「セックス未経験ですよね?」

 

ティアナは食い下がった。

 

「ええい、言い換えるな!うぅ……し、したことある訳ないだろう…これでも私は王族なのだぞ」

 

「そうですよね、そう思っていました。ではエリナさん、オナニーをしたことは?わかります?自慰活動の事ですよ?こう、自分のお股のワレメを指で弄って気持ち良くするアレです」

 

ティアナは右手を自らの下腹部に近づけ、卑猥に指を動かしながら問いかける。

 

「なぁ!?そ、そそそそそそそそそそ、ソレは今関係ないだろう!!」

 

「あ、オナニーはしてたんですね」

 

「キサマぁ!私を辱めたいのか!?ええ!?治療してくれた手前気が引けていたが、そっちがその気なら、私も手を出すぞ!」

 

「いいえ、とても大切な事です。いいですか、アルトさんの様な年齢の男子は、皆んな性欲が有り余っています。アルトさんはオルハリコンの精神力でそれを押さえ付けているみたいですが…そんな精力マシマシの男子とお付き合いしたら、どうなると思います?」

 

「どうって…どうなるんだ?」

 

「仮にですよ、エリナさんがアルトさんと結ばれても、彼を満足させる事が出来なければ、他の女性に向かってしまうかもしれませんよ?アーシャさんとか良いですよねぇ…幼馴染属性でアルトさんが言えば何でもしてくれそうです。見目麗しくて、柔らかそうで反応も良くて、抱き心地も良さそうですし」

 

「なぁ!?そ、そういうキサマこそ、そ、そそそそその、せ、せせせせせせ…セックスした事はあるのか?」

 

「ありますよ?」

 

ティアナは嘘を付いていない。

前世の経験に加え、今世も同性相手とは言え経験済みである。

 

「ーー(絶句)ーっ!!!???」

 

聖女と目される聖職者から、知りたくもなかった事実をカミングアウトされた。

エリナは衝撃の余り言葉を失った。

 

「ん゛っんんっ!!この際、私の経験など些事です。今大切なのは、エリナさんの恋の成就ですよね?ならば、やる事は決まっています。エリナさんは女性としての魅力は完璧です!問題は、アルトさんとお二人で床に入った際に、彼を満足させる事が出来るか否か」

 

「そ、そういうモノなのか…?」

 

「そういうモノです。あとアルトさん間違いなく童貞ですから、エリナさんの手練手管次第でイチコロかもしれませんよ?」

 

「そ、そうか!そうなのか!アルトは童貞か!!うむ、ではティアナよ!私はどうしたら良い!?」

 

(こいつチョロすぎw)

ティアナは思った。

 

「簡単ですよ、訓練すれば良いのです。そして、何も訓練の相手は、必ずしも男性である必要はありません。無為に純血を散らす必要もないですし…私が言っている事の意味、分かりますよね?」

 

ティアナは席を立ち、エリナにゆっくりと身を寄せた。

エリナの手に、ティアナは指を絡ませるように手を重ねる。

 

(ティアナ、凄く良い匂いがする…!!)

 

ティアナから今まで感じられなかった、同性でも心が揺れ動かされる、異様に艶かしい雰囲気が漂い出す。

 

これは聖職者ではなく、淫魔の類いだ。

エリナはふと、そう思った。

 

「今日の所は、オナニー以上の快楽を知って頂きましょうか…ふぅぅぅぅぅ」

 

ティアナは不意にエリナの片耳に、艶やかな声色で囁きながら息を吹きかけた。

 

「あっ…あっ…あっ…」

 

 

「こ、コレが同性の交わりか…信じられん…ティアナ…君は…本当に、聖職者か…?」

 

エリナとティアナは、全裸でベッドの上に横たわっている。

部屋中に漂う香りは、酷く淫らなモノだった。

 

「私の事はこの際、どうでも良いでしょう。また二人きりになるタイミングがあれば訓練しましょうね?私はいつでも構いませんから」

 

「そ、そうだな…また頼む。出来れば明日にでも」

 

「あの二人…特にアルトさんには、くれぐれも秘密にして下さいね?」

 

「も、勿論だ!だから、アルト達が帰ってくるまで、きっとまだ時間があるだろう?明日とは言わず、今からやろう!」

 

「んもぅ…仕方ありませんねぇ。気絶しても知りませんよ?その時は治療の代償とアルトさん達に言って、誤魔化しますからね?」

 

ティアナの手が、エリナの下腹部に伸ばされる。

エリナは聖職者と交わる背徳的なシチュエーションもあって、自慰では得られなかった、かつて無い快楽に溺れることとなった。

 

 

アルト達が宿に戻る頃には、エリナは気絶して意識を失っていた。

アルトは壮絶な治療をしたのだと、ティアナを労った。

それにしては、ティアナの肌はプリプリしていた。

 

これを機にエリナとティアナの訓練と称した、肢体の交わりが繰り返し行なわれる。

 

二人の関係を、アルトは知らない。

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