魔法使いの女アーシャ


勇者アルト一行は王国でも知らぬ者はいない、冒険者グループだ。

それは青年アルトが偶然か運命か、聖剣を抜いた事から始まる。

 

そんな勇者に付き従う者の一人、魔法使いの女アーシャは、アルトの昔馴染みであった。

 

褐色の肌に、真紅の長髪は頭の両サイドで纏め下げられている。

目つきはやや鋭く、整った顔立ちではあるが人によっては近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

そして、その見た目同様にアーシャは気難しい性格であった。

 

特に幼少期から付き合いのある、アルトには屢々辛辣な言葉を浴びせた。

 

「アルトは本当にダメダメで頼りなくて不安ね!いいわ、アタシが付いていってあげるから感謝しなさい!」

 

アーシャは頑なに、彼から離れることは無かった。

器量が良いだけの、単なる小娘には無謀であると両親は止めた。

しかし、彼女には絶対の自信と魔法の才があった。

故に彼女は両親の反対を押し切って、アルトと共に生家を出た。

 

アーシャの自信は確かなものだった。

アルトに同行している間に、アーシャの魔法の腕は磨かれていき勇者パーティの一翼を担う程に成長したのだ。

 

 

勇者パーティとしての活動も軌道に乗って来た頃、自分達のグループへ教会から聖職者の女が派遣されて来た。

その第一報を聞いた時、アーシャは警戒していた。

アルトにこれ以上、女を近寄らせたくなかったのだ。

 

「教会から参りました、イェンティアナ・ラブカスと申します。回復役はお任せください。全ての傷を癒し、呪いを浄化致しましょう。あ…それと仰々しいですから、気軽にティアナと呼んでくださいね」

 

アーシャは一瞬にして、このティアナという女に負けたと感じた。

全てを受け入れる、母性を感じる柔らかな表情。

同性から見ても、肉欲を湧き立たせる魅力的な肢体。

それでも確かに感じる、清純さと荘厳さ。

しかし、人好きのする気安い性格。

 

アーシャの理想的な女性像が目の前にあった。

 

認めたくなかった。

幼馴染で片想いをしている男を、この女に取られると思った。

だから突慳貪に接した。

 

アーシャはティアナと二人きりの時に、釘を刺す事にした。

 

「アンタ、気に入らないのよ!これ以上アルトに近寄らないで貰えるかしら?アンタに誑かされたら、あの童貞野郎はイチコロに違い無いんだから!」

 

「えっ?…えっ…?アルトさん童貞だったんですか?えっ…?…マジで?…ンッ…ンンンッ!!…私はてっきり、アルトさんはアーシャさんとデキているものかと…」

 

「えっ…?アンタ狙ってんじゃないの?アルトの事」

 

「えっ…私これでも一応、聖職者ですからね?あと教会からの指示で来てるわけで、特に他意はありませんよ?」

 

「えっと…その…ゴメンなさい…ちょっとアタシ、勘違いしてたかも」

 

前のめりした、アーシャの盛大な勘違いだった。

聖職者である、ティアナにそんな気は殆見られなかった。

妙なやり取りの末、早々に互いのすれ違いを解消できたのは大きかった。

 

だが、アーシャは気付かなかった。

この時、ティアナの口角が醜く吊り上がっていた事を。

 

 

ある日、アクシデントが発生した。

勇者一行がダンジョンを攻略している最中だ。

パーティは迷宮のトラップに掛かって、分断されてしまった。

運悪く、後衛の二人が強制転移させられたのだ。

魔法使いの女アーシャと聖職者の女ティアナである。

 

転移させられた先は、強力な魔物が跋扈する一室。

通常であればパーティー総出で相手にする様な中型から大型のモンスターが、部屋中に何体も彷徨いていた。

殆どの魔物が、罠に掛かった2人の女を補足した。

アーシャは酷く動揺したが、ティアナは冷静だった。

 

「えっ…ウソ…こんなの知らない…ムリよ……ムリムリ!!!」

 

「狼狽えるなアーシャ!防御魔法を張る!とにかく範囲魔法を打ちまくれ!!」

 

ティアナから普段出す美しい声色とはかけ離れた、少年の様な勇ましい言葉が掛かった。

 

「…ハッ!!くっ…私としたことが…わ、わかったわよ!!」

 

強烈な炎が部屋を埋め尽くす。

 

「アーシャ!後先考えるな!持ってる魔力全部使って属性魔法を使い切れ!!」

 

間髪入れずティアナから、強烈な語気で攻撃を命令される。

 

「アンタ人が変わり過ぎでしょ!ええい、こうなったら打って打って、打ちまくるわよ!!」

 

炎に加えて、雷鳴と爆発が部屋中に響き渡った。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…や、やったかしら…」

 

「それ死亡フラグですよ?」

 

「ふらぐ?何それ…そんな事より、アタシもう…魔力カラッぽだから…残りがいたら…アンタ任せたわよ…」

 

爆煙が薄れる頃には、部屋中は魔物の残骸が散らばるのみであった。

しかしダンジョンの石壁には何ら損傷が無いのが、ここが迷宮である事を物語っている。

 

「やりましたね、アーシャさん。魔物部屋の殲滅完了です」

 

「や、やった…やったわ!アンタやるじゃない!ちょっとカッコよかったわよ!」

 

見事な連携で、本来ならば魔物に圧倒させられる所を、逆に室内の敵を殲滅してしまった。

アーシャは、ティアナの判断力に心底関心した。

 

「でもアーシャさん魔力が底を付いてますねぇ…私はまだまだ大丈夫ですけど。このままだと、アルトさん達と合流する以前に、道中の魔物にアーシャさん殺されちゃうかもですね」

 

「うっ…アンタが全部使い切れって言うから…」

 

詮無き事とは言え、アーシャはティアナに魔力切れの責を負わせたかった。

 

「仕方ありませんでした…さもなければここで、二人揃って魔物の餌でしたよ?それとアーシャさん、あの…魔法薬とか、何かないんですか?」

 

「アレね…アタシが持ってると使い過ぎちゃうからって、アルトに取られちゃったのよ…」

 

魔力の回復が儘ならぬのであれば、現在地から動かずにいるのが最適かと思っていた。

 

「えぇ…まぁ分からなくも無いですけど………うぅん…えぇと……そうですね……ちょっと…アレと言うか…何と言うか…アーシャさんの魔力…回復できますけど……えっと…その…」

 

ティアナから存外な申し出があった。

彼女の表情は、恋する乙女のように恥ずかしげに顔を赤らめていたが。

 

「えっ!?アンタできんの!?勿体ぶらないで早く言いなさいよ!!こんな所、早く出たいんだから!!」

 

「えっと…そのですね…私の魔力をですね…アーシャさんにですね…移せるんですけど…」

 

アーシャはまだまだ魔力に余裕があるティアナに驚いたが、魔力譲渡ができるならすぐにでもして欲しかった。

 

「その…えぇと…魔力はですね……体液に込める事が出来てですね……その、魔力が込めやすい部位の体液もございましてですね…そのですね…」

 

「あー!もう!!いいから早く言いなさいよ!!」

 

「私とアーシャさんのー」

 

 

「……もうお嫁に行けない」

 

「女の子同士です。ノーカウントですよ、ノーカン…ノーカン」

 

二人は一糸纏わぬ姿で、お互いの身体を密着させていた。

身体中は、粘ついた液体で濡れている。

部屋中は淫臭で満ちており、リーダーのアルトが見れば卒倒する光景だろう。

 

「アンタ…本当に聖職者ぁ?しかもレズだったの?」

 

「私は私です、何者でもありませんよ。コレも二人でここから生きて出るための選択です。それに、アーシャさん…私の身体…気持ちよかったでしょう?」

 

「うっ…まぁ……ってそうじゃない!」

 

「ほら、お互いベトベトですから。浄化魔法使って服を着てから行きましょうね」

 

「むぅ…このぉ…ドスケベ聖職者…」

 

二人は無事、アルト達と合流できた。

アーシャは若干やつれた表情だったのに反して、ティアナの肌がプリプリしていたのはアルトにとって不思議だった。

 

ーそしてある日の宿屋にてー

 

コンコン、とティアナの宿泊部屋のドアを叩く音がする。

 

「いいかしら…ねぇ、ティアナ…今日魔法を使い過ぎちゃって……明日も魔法沢山使いたいし…でも魔法薬節約したいから……その…アレ…頼める?」

 

「あら、アーシャさん…またですか?もう…アーシャさん、最近燃費悪いですねぇ」

 

「し、仕方ないじゃない…それに節約はパーティの為にもなるから…」

 

「ふふっ…分かってますよ…さぁ…アーシャさん、こっちに来てください……防音魔法を張りますから……好きなだけ叫んでくださいね…」

 

「う、うん…」

 

ティアナがいる部屋に、アーシャが入った後ドアが静かに閉められた。

そこから数時間、部屋には誰も出入りする事は無かった。

 

二人の交接を、アルトは知らない。

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