エリナ壊れる

最近、酒を飲んで寝て起きるとバキバキで全身が痛い。

特に腰回りあたりはヤバい。

ケツも痛い。

泥酔して尻餅でもついたか?

 

どうやらこの身体は、相当に飲酒後の寝相が悪いようだ。

酒場の店主が気を利かせて、店の二階を貸してくれているから助かっているけど。

 

しかしながら毎度、酔っ払った私を介抱してくれるアルト君には申し訳が立たない。

まぁそれでも、お酒はやめられないが。

聖職者でも聖女でも関係ない、私は飲み会が好きなんだ。

 

アルト君は飲み友に丁度いい存在だ。

同性(心は)のよしみだ、お互い気持ちよく酔いながら、会話ができる。

彼はコミュニケーション能力が高い。

 

アルト君と話していると、お酒がドンドン進んでいくのだ。

さすがはパーティのリーダー。

彼は私を上機嫌にさせるのが上手だ。

なんだろう…ホストクラブに通う女性の気持ちを、少しだけ理解できた気がする。

楽しかった。

あの恍惚な状態で、酩酊に至るのは最高だ。

でもアルト君にはさすがに悪いから、何かしらお礼をしないとな。

 

あ、何度かパーティ全員で飲んだんだが、その時のアルト君は意外と大人しかった。

いつもなら私にバンバン酒を注ぐんだがなぁ。

どうやらアルト君もサシ飲みが好きなようだ。

 

うん、やはり今度何らかの形でアルト君を労ってやろう。

 

 

 

おっと、それはそれとして、だ…

 

そろそろエリナ姫の最終的な仕上げをしないとね。

 

訓練と称した女同士の交わりをエリナと始めた日から、随分と経った。

何も知らない貴族令嬢を手籠にして行くのは、それはとても愉しかった、

未通女のエリナは、そのまま私のテクニックで完全に骨抜きだ。

何度も何度も、私の身体でエリナの全身を包み込んでやった。

 

ある時は、エリナは赤子のように私へ母性を求めた。

またある時のエリナは、強烈な私の責め苦を被虐的に求めた。

前も後ろも、彼女の全身を開発してあげた。

 

生娘ではあるものの、仮に男性を受け入れればエリナはどうなるのか。

おそらく破瓜の痛みを感じる事もなく、いとも簡単に享楽に沈む筈だ。

 

何度も体を重ねた結果、エリナは無自覚な恋愛感情を私に抱きつつあるようだ。

もはやエリナが私へ送る目線は、共に戦う仲間のソレではない。

快楽に耐性の無い彼女は、既に私に対して縋り付く兆しが見えている。

そろそろ頃合いだろう。

 

私という存在に依存し切ったエリナが、私に裏切られたと悟った時の絶望する顔が目に浮かぶ。

そして、依存する対象がこの世から去った後の更なる失望が彼女を襲う光景を思うと…

私の胸と下腹部は、熱を帯びてくる。

 

あぁ…凄く良い…我慢できない

 

私は堪らず、一人ベッドの中で想像を掻き立てながら久々に自分を慰めた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「はぁー、今日も訓練は無しかぁ…」

 

近頃ティアナの夜時間は、アルトとの付き合いで割かれている。

 

どうやら行きつけの酒場で盛り上がっているようだ。

 

私やアーシャも気になって、何度かは彼等に付いて行った事があるが。

そこは、粗野な輩でひしめき合う大衆酒場であった。

 

アーシャも私も酒は飲めなくは無いが、供されるエールはあまり好まない味だった。

出来れば甘口の葡萄酒やシードルがあれば良かったのだが…そんな場末の酒場に求めるのは酷だろう。

あの酒場は私達二人には場違いな所であったかも知れない。

 

聖職者のティアナがよくあんな所で長居できるものだと、私やアーシャは感心した。

ティアナは誰もが振り向く美女であり教会の聖女だ。

そんな清楚で慎ましい女性が、街の荒くれ共に混じって酒を嗜んでいる。

アルト一人が行くならまだしも、その場にティアナが居るのは異様な光景だった。

 

「エリナさん、今日の訓練はお休みです。依頼遂行の疲れもあるでしょうから…宿でゆっくり静養して下さね」

 

「あっ…その…ティアナ。最近私達の”訓練”が少ないようだが…これでは私も鈍ってしまうかも知れないぞ?」

 

「あぁ…もしそれが気になるようでしたら、そうですねぇ。そうだ、自主練をして下さい。あ、防音魔法は張れませんので声は控えめにして下さいね」

 

「ぁ…そ、そうだな…分かった…」

 

「では、私はアルトさんと出かけてきますので。これにて失礼しますね」

 

結局私は独り部屋のベッドで”自主練”をした。

 

無造作に自分を慰める。

 

「くっ…ダメだ。足りない…刺激が」

 

分かっている。

これはオナニーだ。

もはや訓練でも自主練でもない。

そんなとき、ふと思い立った。

 

「ティアナはどんなふうに、してくれたのだっけ」

 

私はティアナの姿を想像した。

彼女を思い浮かべた。

 

「ティアナ…ティアナぁ…」

 

私は瞬く間に絶頂に至った。

ティアナを想うと、私の胸中は瞬く間に熱くなった。

 

その翌日の事だ。

 

「エリナさん、これから三日間は訓練と自主練を禁止します。いいですか、絶対にやらないで下さい。あ、当然ですが嘘は分かりますからね」

 

私は落胆した。

 

「えっ?ティ、ティアナ…どうして…」

 

最早私の日課となっていた、ティアナをオカズにした自主練。

それを三日間とは言え禁止されたのだ、落ち込みもする。

今にもベッドに篭ってやりたいのに。

 

「理由はあります。ですが、三日後までお話しすることはできません。でも安心して下さい、もし約束を守ってくれたら、その後には飛び切りの訓練をして差し上げますよ」

 

「わ、分かった…」

 

その三日間は私にとって、永遠に近い苦痛だった。

初日は、独り手持ち無沙汰で、つい手を下腹部に伸ばそうとした。

その寸前、はっと気が付いて思い直す。

二日目は、心が高揚しているのに発散する術が無い。ムラムラが募っていく。

それでも弄ることはできない。

三日目は、ティアナの幻想が現れては私を誘惑する。何もしていないのに私の下着は濡れていた。

 

三日目の夜、約束通りティアナは私の宿部屋にやって来た。

 

「よく頑張りましたね、エリナさん。さぁ、約束どおり久々の訓練を致しましょう」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…早くしてくれ、待ちきれない!」

 

「三日間我慢してどうでした?苦しかったですか?」

 

「はぁっ…はぁっ…今の醜態を見れば…わかるだろう!」

 

「ふふっ…よかった…待機期間を設けて正解でした…エリナさん、これから行う訓練は、過去最高のモノになります。気絶すると勿体無いですから、頑張って耐えて下さいね?」

 

 

私は狂乱した。

わずか三日間禁欲をするだけで、狂ったようにティアナを求めた。

押し寄せる快楽の津波で、私の思考は焼き切れられそうだった。

 

「エリナさん、よく頑張りましたね」

 

ティアナが私の頭を撫で、労いの言葉を掛ける。

疲労感と満足感に満たされた私は、幸福に包まれていた。

 

「ふぅ…んん…あ、ありがとう」

 

「エリナさん、これで訓練は卒業です。もう私からエリナさんに出来ることはありません」

 

突然の訓練打ち切り宣言に、私は驚愕を隠せなかった。

 

「えっ?卒業するとどうなる?」

 

「文字通り卒業ですよ。もう私からは、エリナさんに対して何もいたしません。今からでも、どうですか?アルトさんとお付き合いしてセックスしてみては。今のエリナさんならどんな男性もイチコロですよ!」

 

私はティアナの存在無しに、快楽を追求出来なくなってしまった。

 

「ぃゃ…」

 

「何ですか、エリナさん」

 

「嫌だ。私はティアナとしたい」

 

「それってエリナさん…ご自身が仰ってる言葉の意味、分かりますか?意中の男性の為に訓練をしていたのに、本末転倒ですよ?」

 

分かる。もう訓練とかどうでもいい。

 

「同性でも関係ない、私はティアナとしたい。もうキミ無しではダメなんだ。お願いだ、後生だから私との関係をやめないで欲しい。この三日間、キミの姿が頭の中から離れなかった」

 

「へぇ…エリナさんって、実は同性愛者だったんですか?」

 

「違う!そうじゃない!ティアナだけなんだ!私を導けるのは…だから、もっと私を虐めてくれ…私を愛してくれ!」

 

言ってしまった。

もう後戻りはできない。

 

「ふぅん………まぁ、いいですよ。エリナさん、私はアナタを愛しましょう。身も心も、アナタの全てを私に委ねて下さい…」

 

「あ、あぁ…そうか、そうか!ティアナ!ティアナぁ!!」

 

 

ティアナは私に愛を捧げてくれるようになった。

それは二人きりになれた、夜の間だけだが。

それでも私の心は充足していた。

 

ティアナと交われない日が進むと、私の欲望は積み重なって行った。

そして耐え忍んだ末、彼女の肢体を味わった時の快感は凄まじいモノとなった。

決壊した川のように、情欲をティアナに叩き付けた。

 

 

私は狂ってしまった。

仮に王室へ戻っても、まともな生活は送れまい。

ましてや異性との結婚など、到底無理な事だ。

ティアナの、魅力的な女性の肉体に溺れたいのだ。

彼女は危険だ。

あの人は聖職者でも無ければ、聖女でもない。

いや、平素は人々の理想を描いたかのような聖人に違いないだろう。

だが、彼女に愛を求める者は、きっと大切な何かを捧げているのかもしれない。

 

私は失ってしまった。

だが何を無くしたのかは、分からない。

もうおかしくなってしまったから。

 

あぁ、ティアナ。

今日はどんなふうに、私を愛してくれるんだい?

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