王妃の独白

わたくしの名はネイ、ネイ・ローズ。

ローズ王国、国王が妃。

 

わたくしは国内でも有力な、大貴族の娘として生まれました。

王立学園を卒業して、しばらくの事です。

わたくしは親に命ぜられるまま、国王となる夫クロイスへ輿入れしました。

彼との間に恋愛感情が無かった訳ではありません。

 

学園でわたくしは、常に持て囃されてきました。

男子からは愛欲の目で見つめられ、女子からは渇望の眼差しを送られました。

このせいでわたくしは、自分の美しさに驕り高ぶってしまったのかもしれません。

 

わたくしとクロイスは学年は違えども、当時の王立学園に在学しておりました。

学園で歳上の彼と会えば、いつも喧嘩ばかり。

負けず嫌いの私は、学園主席だった彼にいつも勝負を挑んでは負かされていたのです。

彼からすれば、生意気な後輩だったのかもしれません。

 

ある日、クロイスがわたくしに愛の告白をしてきました。

わたくしは大いに困惑しました。

でも、嬉しかった。

もし、わたくしが男性に組み敷かれるなら、クロイスしかいない。

そう、思い始めていたからです。

だから嬉しくて、涙が溢れてきました。

 

でも、返答を保留しました。

親の意向を無視しての、男性とのお付き合いは許されませんから。

 

案の定、お父様には反対されました。

 

当時のクロイスは王子とはいえ、王位継承権が低かったのです。

大貴族としてのお父様には、わたくしをもっと上の男性に嫁がせたい。

そういった思惑が、あったのかもしれません。

 

だから後日、私はクロイスの申し出を断りました。

理由も正直に申し上げました。

 

「なら、オレが国王になれば問題ないのだな」

 

クロイスは諦めませんでした。

だからわたくしは、お父様に頼み込んで他の王子へ輿入れする事を待ってもらいました。

 

結果、クロイスは他の王子を出し抜いて次期国王へとなりました。

 

彼が一体どんな手段を以って、王位を勝ち取ったのかは知りません。

ですが、クロイスが次期国王となる事が決定したのは紛れもない事実です。

 

お父様は諸手を上げて、クロイスへの輿入れを許可しました。

 

しばらくして、当時の国王が急病により逝去しました。

特に健康問題も無かった王が、急逝したのは驚きでした。

 

クロイスは若くして、国王となりました。

既に彼に輿入れしていたわたくしは、それと同時に王妃へとなったのです。

 

彼との夜は、熱いものでした。

政務で疲れたクロイスを労ると、瞬く間に元気を取り戻し、ベッドへと毎日連れ込まれました。

クロイスは愛を、わたくしに捧げてくれました。

 

日々、彼の情熱を注がれたわたくしは、すぐに子を授かりました。

彼はとても喜んでくれました。

わたくしが十代も半ばの頃です。

生まれたのは男子でした。

 

早々に世継ぎを産んだわたくしの人生は、揺らぎの無いものになった。

そう、思いました。

 

ある日、クロイスが妾を連れてきました。

一国の王に、妾がいるのは当然の事です。

でも、わたくしの内心は大きく揺らいでいました。

 

王宮へやって来た妾の女は、わたくしの存在が薄れるほど若くて美しい女でした。

気に入らなかった。

わたくしの美しさも頂点を迎え、後は日々の衰えに怯える日々にやって来た女。

 

それでも、表立って何かしようとは思いませんでした。

夫の目があるから。

 

あの女が来てから、わたくしと夫の夜の営みはめっきり無くなりました。

 

そしてしばらくの後、女は夫の子を妊娠しました。

生まれて来た子供は女でした。

わたくしは、ほっと自分の胸を撫で下ろしました。

妾の子は王位継承権が低くなるとは言え、息子にライバルが出来るのは好ましくありません。

 

ですが、その義娘が成長するにつれ、わたくしは別の感情を抱きました。

似ているのです、あの女に。

わたくしは心底、あの母娘が憎くなりました。

 

だからあの娘が成長した時、彼女を王宮から締め出す算段をしました。

時の勇者へ義娘を差し向けるよう、夫に打診しました。

夫も別の思惑があったのでしょう。

結果として、それは現実となりました。

私はあの義娘に、野垂れ死にでもすれば良いと考えていましたが。

 

わたくしは、あの美しい義娘を王宮から排除する事が出来て、一時は満足できました。

 

でも、すぐに満たされない日々がやって来ました。

 

日々の衰えを、厚い化粧で誤魔化す毎日に嫌気が差してきました。

 

私は神に祈りを捧げるようになりました。

祈っている間だけは、わたくしは心を落ち着かせる事が出来ました。

 

ある時、勇者が魔族の使者を伴って王都へやってくる事になりました。

 

勇者一行と言えば、あの憎たらしい義娘がいる。

でもそれ以上に気になるのは、勇者一行には聖女様がいらっしゃる。

 

聖女様といえば、治癒魔法に秀でる教会の傑物。

しかも未公開ながら、若くして異例の枢機卿就任。

さぞ、神にご加護を賜っていることでしょう。

わたくしは、魔族との和平や勇者、義娘の事など最早どうでも良くなりました。

是非、猊下にお会いして、わたくしも神のご加護を賜りたいと願ったのです。

 

無事、王都へ到着した勇者一行。

わたくしは夫に耳打ちして、彼らに先立って聖女様を王宮に招きました。

夫も枢機卿である聖女様と、非公式ながらも面談を望んでいたようです。

 

聖女様との会談は、つつがなく終わりました。

 

初めてお会いしたティアナさんは、とても美しかった。

あの妾や義娘などと比べるのは、それは畏れ多い程に。

わたくしはティアナさんの美貌に、一瞬の間だけ嫉妬してしまいました。

ですがそんな感情も、すぐに過ぎ去りました。

 

清純な聖職者としての、あるべき佇まい。

ベールから覗く、黄金に輝く見事な長髪。

そして、恐ろしい程に美しく整った顔。

人の内面を、明け透けにするような蒼い瞳。

どの女性も及ばない、魅力的な肢体。

特にその豊かな乳房には、目を見張るものがありました。

 

きっと神のご加護に違いない。

 

わたくしは、ティアナさんを部屋に招いて相談しました。

年々老いていく自身を見るのは辛い、そんな事を彼女へ打ち明けたのです。

 

ティアナさんは、わたくしと共に神に祈りを捧げてくれました。

 

「妃様、私達の祈りはどうやら、神に届いたようです。妃様は神に赦されました」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

私は半信半疑でした。

一体どんな加護を賜ったのか。

今の私には、何の実感もありませんでした。

 

「ええ。もし可能ならば、お化粧を落とすと良いでしょう」

 

ティアナさんには、わたくしの厚化粧もお見通しだったようです。

些か恥ずかしいですが、今はそれ所ではありません。

すぐにでも加護の効果を確認したい。

 

「誰か!誰かいるか!湯浴みをする!すぐに準備するのです!」

 

その一心で、侍女に浴場へ湯を張るよう侍女に命じました。

 

「もし、猊下も宜しければ…わたくしと湯浴みはいかがでしょう?当家の浴室は、広い事で有名ですので」

 

わたくしは、畏れ多くも枢機卿であるティアナさんを入浴に誘いました。

あの魅力的な肉体を観察したい、という下心もありましたが。

 

「あら、それは嬉しいですね。是非ご一緒させて頂ければ」

 

彼女はあっさりと、入浴を共にしてくれる事を了承してくれました。

 

 

 

「わ、わたくしも自分の身体には、ある程度の自信はございましたが…猊下は、その…本当に女神様のようなお身体ですね…」

 

浴室で裸体になったティアナさんは、わたくしの目が霞むほどの美しさでした。

まるで女神と見紛う程。

シミ一つない艶のある肌は、わたくしが永らく渇望していたものです。

 

わたくしは、入浴の準備をしているティアナさんを横目に自分の化粧を落としました。

 

私は驚きました。

 

化粧が剥がされ、素肌を晒したわたくしの顔は見違えるものとなっていました。

出産を経て、衰えが見え始めていた素顔。

それが、若さを取り戻していたのです。

肌の色艶も、若き日のまま。

 

ああ、何という事でしょう。

猊下の手により、わたくしの素顔はあの日の美しさを、完璧に取り戻したのです。

 

その頃、ティアナさんは既に湯船に浸かっていました。

不思議な唸り声を上げて、湯に浸かるのは何らかの儀式なのでしょうか。

 

ともかく、わたくしはティアナさんに何度も感謝しました。

 

すると効果を確認できたのか、得意げな笑みを浮かべてティアナさんが仰るのです。

 

「妃様…神のお赦しが得られたので、貴女には更なる加護を施す事ができます。どうしますか?」

 

わたくしは、すぐさまティアナさんに追加の加護を下さるよう、お願いしました。

 

その加護の付与は、とても気持ちの良いものでした。

彼女の柔らかい手が、わたくしの全身を撫でるのです。

ティアナさんは、わたくしの”あらゆる所”まで撫でて下さりました。

その時は年甲斐もなく、恥ずかしい声を上げてしまいました。

 

浴場でなければ、わたくしのソレが湿り気を帯びていたのも、きっと露わになっていた事でしょう。

 

「猊下、この度は本当にありがとうございました。わたくし、いくら感謝しても足りませんわ」

 

わたくしは、老いるのを待つだけの人生に希望を持つ事が出来ました。

 

 

 

ティアナさんに再び、加護の付与をしてもらいたい。

そう思っている最中、その機会はすぐに訪れました。

 

翌日も、わたくしはティアナさんと入浴を共にしました。

ティアナさんはその際、粘り気のある独特な聖水を、わたくしの全身に塗り込んで下さりました。

ティアナさん自身の身体を使って。

 

今回は、昨日と何もかも違いました。

 

夫との情事も、長らくお預けをされていたこの身体。

そんなわたくしにとって、ソレはとてつもない刺激でした。

 

久しぶりの快感に、わたくしは羞恥心を忘れて声を上げてしまいました。

 

それでも、ティアナさんは施術を止めませんでした。

 

そこからの事は、あまり憶えてはいません。

どうやらあまりの享楽に、わたくしは気を失ってしまったようです。

気が付いたら、ティアナさんの施術は終わってしまいました。

 

施術後のわたくしには、大きな変化がありました。

 

わたくしの胸の頂きが、鮮やかなピンク色に戻っていたのです。

出産を経て黒ずんでいたそれ。

それが、あの日の色を取り戻していたのです。

 

わたくしは歓喜しました。

ティアナさんの施術を受ける度に、美しさを少しずつ取り戻して行くのが嬉しかった。

ティアナさんの施術行為は、気持ち良かった。

 

それから、何度もティアナさんの施術を受けました。

 

ティアナさんは、ダンジョン攻略の合間を縫って、足繁くわたくしの元へ通って下さりました。

 

お会いする度、ティアナさんの剥き出しの肌を見る度、わたくしは彼女に惹かれて行きました。

 

おかしいですよね、同じ女性なのに。

 

 

 

ある日、ティアナさんは何を考えたのか、男装をしてわたくしの部屋にやって来ました。

 

ですが、その姿は驚きのものでした。

若かりし頃の夫を凌ぐ程の、貴公子だったのです。

彼女曰く、”たまには気分を変えたかった”とのことでしたが。

わたくしの胸は、高鳴りを抑えられませんでした。

 

「こういうのが、お好きなんでしょう?オヒメさま?」

 

普段の美しい乙女のソレとは思えない、少年のような声色。

耳元で囁かれたわたくしは、それだけで絶頂してしまいました。

 

わたくしはティアナさんに、自然と唇を差し出しました。

 

ああ、聖女様と交わす口付けは何と背徳的なのでしょう。

夫の事も忘れて、聖女様を貪りました。

神よ、どうかわたくしをお許しください。

 

それからは、施術でも何でもない交わりをしました。

それでも神のお許しがあったのか、加護が施されたのでしょう。

わたくしの、醜く垂れ下がりはじめていた胸の袋は、嘗ての張りを取り戻しました。

 

「今だけは、私の女になって下さい。ネイ…」

 

ティアナさんに抱かれれば抱かれる程、わたくしは美しくなれる。

そして、気持ち良くなれる。

 

ああ、毎日が楽しいわ!

 

 

「ネイよ、前にも増して美しくなったか?」

 

「えぇ、日々の祈りが通じたのでしょう。猊下にも感謝せねばなりませんね」

 

「その、どうだ?今夜、久しぶりに」

 

「あら、年甲斐になく嬉しいですわ。では、殿下の寝室でお待ちしておりますわね」

 

クロイスとの久方ぶりの情事は、物足りないまま終わりました。

夫は満足出来たようですが。

 

 

翌日、わたくしはティアナさんを呼び出しました。

これで何度目かは、もう憶えていません。

また、男装用の衣装を持って来るよう、秘密裏に事付けて。

 

部屋に来たティアナさんに、わたくしはお願いしました。

 

その場で、男装に着替えてください、と。

 

恥ずかしがりながら、着替えるティアナさんを眺めるのは、控えめに言って最高の愉悦となりました。

 

加護が得られるという事は、神のお許しがあるという証明。

 

わたくしは、ティアナさんに対する愛と、夫に対する背徳感を薪にするでしょう。

 

そして今日も、激しい炎を燃え上がらせるのです。

 

嗚呼、お慕いしております

 

わたくしのティアナ様…

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