宝物殿の迷宮

宝物殿に突如出現したダンジョン。

そのダンジョンにある薄暗い回廊を、勇者達は疾走していた。

彼等の背後には、大量の髑髏騎士が物凄い速さで追ってくる。

 

「クソッ!こんな強いスケルトンがいるなんて聞いてないぞ!」

 

「モンスターを蹴散らすって簡単に言ってたのはサティアさんじゃありませんか!」

 

「サティア!ティアナ!戯言は後でしろ!いいから逃げるんだよぉ!」

 

サティアをメンバーに加えた勇者パーティは、追ってくる骸骨騎士を背に一目散に逃げ出していた。

 

勇者アルトの特筆すべき隠れスキルとして『脱兎』という固有スキルが挙げられる。

これは敵前逃亡をする際に、自機を含めるパーティ全員の移動速度を一定水準にまで引き上げるものだ。

その最高速度たるや、全力で疾走するサティアやティアナに匹敵する。

まさに、三十六計逃げるに如かず。

逃走経路の確保、という前提条件付きではあるものの、非常に強力なスキルだ。

ちなみに、撤退時に移動が遅そうな仲間が、足の速い者に置いていかれない理由もコレである。

 

話を戻す。

意気揚々と、宝物殿ダンジョンへ向かった勇者達。

彼等は一体何故、こうなってしまったのか。

 

それはひとえに、このダンジョンの難易度が他の迷宮よりも遥かに高かったからである。

 

 

本来の宝物殿には、王家が代々受け継いできた財物が数多く所蔵されている。

王宮からは独立した建造物だ。

当然その内部には、歴史的にも価値が大きな財物が多分に含まれていた。

 

その宝物殿の内部が、ある日突如と迷宮と化した。

それに伴ってか、宝物殿所蔵の財宝も、異界化したダンジョンの各所に散逸してしまう。

 

明確な日時は不明だが、少なくとも先王の頃には異常はなかった。

 

宝物殿の異界化解消と、財物回収は王家の最重要案件となった。

今代の王ローズ・クロイスは、秘密裏に財物調査隊をダンジョン内部へと派遣した。

王都にダンジョンが出現したと知れ渡れば、都市の混乱は必須。

国王は、内密に事態を治めたかった。

 

しかし、その結果は芳しく無かった。

確かに、僅かながら財は持ち帰る事が出来た。

しかし帰還した調査隊の姿は、酷い有り様だった。

非公式な任務とはいえ、王家が探索を依頼したのは実力者揃いのメンバー達だった。

それらが、半生半死で帰ってきたのだ。

彼等によれば、宝物殿の内部には強力な魔物が跋扈しているとの事だった。

 

その後も、何度か精鋭の調査隊を派遣し、財宝は幾つか回収出来た。

しかし結局は、異界化の原因は掴めず、事態の鎮静化も叶わなかった。

そもそも誰一人として、ダンジョン序盤の魔物にすら太刀打ち出来ない状態なのだ。

 

しかし不幸中の幸いか、宝物殿の一定エリアから魔物が出てくる事は決して無かった。

ゆえに異界化の後、ある程度時間が経過したところで安全が確認された。

程なくして現国王は、やむなく宝物殿の閉鎖と監視を決定した。

 

その後暫くして、聖剣を引き抜いた勇者アルト一行がやって来たのだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

宝物殿ダンジョン、すこーしアルト君達には早かったかなぁ?

魔将のサティアが苦戦したのは意外だったけど。

まぁ、それも想定からは大きくズレてないけどね。

 

宝物殿ダンジョンってさ、金と経験値の稼ぎ場所なんだよね。

だから、出来れば攻略を粘りたいんだよ。

クリアすればダンジョンは消滅しちゃうし。

出来る限りこのタイミングで、レベリングと金策をしておきたい所さん。

 

あと実は私、かなり前に腕試しも兼ねて宝物殿ダンジョン行ってたんだよね。

アルト君と、合流するよりもっと前かな。

ダンジョン無くて、ただの宝物殿だったけど。

 

「………マジで?ダンジョンの入り口どこよ!それっぽいの何もねぇじゃん!」

 

私は心の中で叫んだ。

何で稼ぎポイントがねぇんだってばよ!

ってね。

歩哨は居たけど、大した強さじゃなさそうだったし。

忍び込んでみれば、ダンジョンのダの字もねぇ!

それは、焦ったよ。

ストーリーにあるべき難所がねぇ!

 

アルト君達には少なくとも、邪神を倒せるくらいのレベルになって貰わないと困る。

というか、詰む。

いやぁ、マジで行ってみて良かったわ。

 

私は悩んだ。

 

難関ダンジョンを探索して、依頼された財宝を回収。

回収した財宝は、報酬と引き換えに王国へ引き渡す。

あのダンジョン結構好きなんだよ。

カ○ビィの洞○大作戦みたいで楽しいんだよ。

変な名前のお宝が盛りだくさんで、ネタ要素もあるし。

 

どうするかなぁ、と私は暫く悩んでいた。

すると、突如天啓が降りて来たんだ。

 

「ダンジョンが無ければ、作れば良いじゃない」

 

それからの行動は早かったね。

 

適当に、そこら辺(?)のダンジョンからコアを掻っ攫って来た。

ダンジョンコアって言うのは、迷宮の核となる巨大な魔石の事だ。

基本的にダンジョン外へ持ち出せないから、破壊してお終いな代物なんだけどね。

 

だかな、私は違う。

私のアイテム欄は色々バグってるから、だいたい何でも入る。

出来立てホヤホヤの○郎系ラーメンが、そのまま入るくらいなんだからな。

 

コアをゲットしたその足で、宝物殿へ再び忍び込んだ。

建物の奥でダンジョンコアを取り出したら、さあ大変。

 

何と言うことでしょう。

匠の手によって、宝物殿は瞬く間にダンジョンへと早替わりしてしまいました。

 

ちなみに私も、迷宮の最深部へと自然にシューゥッ!された。

流石の私も出るのに時間が掛かったなぁ。

エネミーも、妙に強くてウザかったし。

宝物殿ダンジョンの敵、こんなに強かったかなぁ?

確かに経験値効率は、良かった気がするんだけど。

いや、気のせいか。

 

という事で、無事に準備バンタン!

あ、ちなみに例の秘宝は宝物殿には無いから!

 

そこんとこヨロシク!

 

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