勇者一行は疲れ果てた


ティアナを発起人とした外法な手段により、勇者達は程なくして魔族の都へ至った。

サティアの図らいにより検問をクリアし、城下町にも無事に入る事ができた。

 

しかし、時は既に真夜中。

 

「感謝しろ。こんな夜中に城下町へ入れたのも、我が名声あってこそなのだからな!」

 

「ああ、助かったよサティア。ところで、今日泊まる場所はどこかな?誰かさんのせいで疲労困憊でね。出来れば早く休みたいんだが」

 

「うぐっ…」

 

少し離れて後ろを歩くティアナが、呻き声を上げた。

 

「ん?お前達の宿は無いぞ。こんなに早く着くなど想定外だ。だから私は何の根回しもしておらん」

 

そう、宿が確保されている訳もなかった。

あまりにも早すぎる行軍。

彼らを招致した魔族側も、よもやアルト達が出発から一日足らずで来るとは思うまい。

 

「えぇー!?イヤよ!せっかく町に入れたのに野宿なんて!アタシはイヤ!お腹空いたし!疲れたの!つーかーれーたー!」

 

「うぅむ…体力に自信のある私も、流石に疲れたな…恥ずかしながら、見知らぬ土地で宿を探す余力も無い」

 

加えて、アルト達は満身創痍だった。

殺気立つサティアから一日中、全力で逃走したのだ。

ティアナの治癒魔法により、皆多少は動けるようになった。

だが、疲労感は完全には解消しなかったのだ。

 

「諦めて野宿でもするがよい。安心しろ、下馬先の周辺ならば野営しても問題なかろう」

 

「それは少しばかりキツいな。サティアはどうするんだ?」

 

突き放した言動のサティアに、アルトは冷静に尋ねた。

 

「私は家に帰って寝る。じゃあな」

 

「ちょっ待ちなさいよ、サティア!アタシ達を置いていく気!?もうこの際アンタの家でも良いわ!連れて行きなさいよ!」

 

アーシャは堪らず喚いた。

積み重なった疲労が限界だった。

 

「断る」

 

「なあサティア、そこを何とか」

 

「無理だ」

 

アルトが重ねて願い出るも、サティアの回答は無情である。

 

「サティア殿、私からも頼む。皆、満身創痍なんだ。そこにいる聖職者以外は」

 

「うぐっ…」

 

エリナの発言に、少し離れた所で大人しくしているティアナが顔を背ける。

 

「ふむ…そういえば、エリナは王族だったな。我が国は和平を交わしたばかり。相手国の貴人を野宿させるのも外聞が悪い、か…」

 

「泊めさせてくれるのか!?」

 

アルトは歓喜し、サティアに言質を取る。

 

「うむ、エリナに免じて我が家にお前達を招くとしよう。一応は客間もあるからな。ただし、条件がある」

 

「何でも言ってくれ。出来る限りの事はするよ」

 

「疲れている所で悪いがな、我が家に着いたら掃除を手伝え。家に使用人は居ない。今頃は埃まみれだろう」

 

「そのくらいお安い御用さ」

 

「それと、アルトよ…」

 

「なんだ?」

 

アルトに近寄ったサティアは、彼の真横で耳打ちを始める。

 

「そこのーーを、ーにーーーーて欲しい」

 

「…………まぁ、仕方ないか。自業自得とも言えるしな。良いさ、でも加減はしてくれよ?」

 

「善処はする。だが、私は随分と煮湯を飲まされたのだ、加減は難しいな。まぁ、ソレの頑丈さは随一だ、問題なかろう。それと…私の寝室には絶対に近寄るなよ」

 

「分かった。アーシャとエリナも、それでいいな?」

 

「ん、マァいいんじゃない?アタシはお腹減ったし、疲れたし。ご飯食べたらソッコーで寝るわね」

 

「私も食事が済めば、すぐにでも寝るとしよう。久々に限界だ」

 

「よし、サティア。好きにしてくれて構わない」

 

ここに、勇者と魔将の密約は成った。

 

そして、サティアがティアナに向き直る。

 

「それと、そこの変態クソ聖女」

 

「な、なんですかぁ…あと、その変態呼びは余計ですよぉ…」

 

「黙れ、変態」

 

「ブフッ…せ、聖女ですらなくなったわ」

 

アーシャは笑いを堪えられずに、吹き出した。

 

「キサマの抱えている料理と酒を差し出せ」

 

「りょ、料理は出せますけどォ…お酒ないですョ。飲み切って無いですよォ?お酒?無いネ」

 

ティアナは視線を逸らしながら、返答した。

 

「嘘が下手か!いいから出せ」

 

サティアは変わらずティアナを強請る。

 

「な、無いアルよ」

 

「あるのか無いのかどっちだ!………ふんっ、ならば、キサマは軒先の石畳で寝てろ。コイツらにだけ、寝所を使わせてやる」

 

「くッ、私だけ!?だ、出します!お酒出しますから!私だけ仲間外れにしないで下さい!私も泊めてください」

 

三人がかりで叱責されたティアナは、珍しく気落ちしていた。

そんな彼女が、かつての宿敵に縋り付く。

 

「ふふっ…元からそう言っていれば良いものを」

 

ティアナが情けなく、自らに遜る。

そんな聖女の姿を見て、サティアはここ最近で一番の充足感を得た。

 

「ひどい…これも私の宿業ですか…あぁ…私の酒ストックがぁ…うぅ…ぐすん」

 

「安心しろ、飲むのはキサマだ」

 

「へぁ?」

 

「まぁいい、さっさと行くぞ。我が家に招待される事、光栄に思うが良い」

 

サティアが家に向かう足取りは、心なしか速かった。

 

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