王都〜魔都


サティア曰く、人間の足で魔王城まで辿り着くまで一ヶ月は掛かるとの事だ。

具体的な日数は不透明だが、ゲームでも魔王城に着くまでクッソ長かったから間違いないだろう。

道中魔族に絡まれたり、行く先々で問題解決したり、モンスターを退治したり…

そんな多くのサブクエストが、時間を取られる事も原因にあるが。

アイテムやら装備品やら、見返りも多いから尚更寄り道をしたくなる。


それらに加えて我らが主人公アルト君ならば、魔族だろうと何だろうと意思疎通が出来れば種族関係無く人助けをする。

普通に進んだら、確かにひと月は掛かりそうだ。


まぁ、それらを進めながら、ゆっくりと魔王城へ向かうのがゲームを楽しむ為の定石である。


本来ならそうしたい所なんだが…

残念ながら私には、のんびりと進みたくない事情がある。


何だか、最近体調が優れないのだ。

頻繁に眠くなるし、気怠い。

食欲も減った。

こないだなんて、作り置きした野菜マシマシラーメン○郎を二杯食べてお腹いっぱいだ。

あと酒にも酔いやすくなった。


目の下のクマが目立ったし、乳首の色も悪くなった。

ま、コレは治癒魔法でクマは消せたし、乳頭は綺麗なピンク色に戻したけど。


極力、仲間達には気取られないように頑張ってはいるのだが…不甲斐ない私を見られるのは堪え難い。

私は彼らに対して、理想的な聖女と悪役を演じなければならないのだ。

私の目標のために。


私はこの原因不明の体調不良が解決しない限り、出来る限り急ぐ。


よって、旅の行程を幾らか省かせてもらうとしよう。





勇者達は魔王城へ向かう為、王都を出発した。

その旅路は長くなる、筈だった。


「ということで皆さん、お話があります」


王都の外門をくぐった先、壁外でティアナが話を切り出した。


「なんだ藪から棒に…また変な事考えてるんじゃないだろうな?この変態クソどエロ爆乳聖女」


ティアナの発言に対して明確に訝しむよう、サティアが反応した。


「サティアさん…お願いしますから、その呼び方だけはやめてください…」


「だまれ淫売が!キサマのせいで私の性癖はメチャクチャだぞ…」


「?今何か仰りました?」


「知らん!」


サティアは赤らめた顔を、ティアナから逸らした。


「ま、まあまあ…二人とも、その辺で。それで、出発したばかりで何かあるのか、ティアナ?」


これで何度目か分からない、アルトの仲裁が聖職者と魔族の漫才を中断させる。


「そうよ、こういう時のティアナって大概は突拍子もない事を言い出すじゃない。アタシもう知ってるんだから。エリナもそう思うでしょ?」


「うむ、私もそう思う。まぁ、内容が気にはなるが」


ティアナは愛人の二人から存外な感想を述べられて、内心少し落ち込んだ。


「実は魔王城へ移動するにあたって、とっても良い方法があるんです。もし上手くいけば、皆さん揃って一両日で到達できます」


「なんだって!?そんな移動手段があるのか!」


アルト一行は、転移という超高等魔法を誰一人として習得していない。

故に彼は驚いた。


「ええ、それはそうです。アルトさんがいなければ成立しないのですが」


「俺が?俺はそんな魔法を使えないぞ。一体どうやって…」


「物は試しです。成功すれば、あっという間に着くのでやってみましょう!」


「まぁ俺は構わないが」


「では、その前段階として…模擬戦をしましょう。お相手は、サティアさんでお願いします」


「ふむ、腕試しか。よかろう、キサマらが魔王様と御目通り叶うか試してやる。私に掛かれば一対四など、どうと言うことはない」


元来、サティアは交戦的な性格である。

よってこの申し出を、サティアは喜んで承諾した。


模擬戦という事でアルト、ティアナ、アーシャ、エリナの四名は戦闘体制で陣取った。

対するは、魔族将サティア一名。

この対戦は、砦での一戦以来である。

ここでティアナが味方へ向かって一言要請を出す。


「皆さんは、模擬戦が始まったらーーーて下さい」


「?それは模擬戦じゃなくて…」


その直後、ティアナがちょこちょことサティアへ駆け寄る。


「さて、サティアさん…」


ティアナはサティアへ耳打ちを始める。


「な、何だ変態クソ聖女…さっさと模擬戦を始めるぞ!ええぃ!耳元に近寄るな気持ち悪い!」


「いいんですか?私の指示に従わないと、サティアさんがーーーーて、ーーーーーを、皆んなで魔王様に暴露しますよ」


「………キ、キサマら…なぜソレを知っている…」


「さぁ、何ででしょうねぇ?ホラ、急がないと、バラしちゃいますよぉ」


「…………そうか…そうだな。アルト、悪いが…私はコレからお前達を殺す。特に変態糞クソ聖女、キサマは減らず口を縫い合わせた上で必ず殺す」


「あはっ!サティアさんが本気を出してくれるみたいですよ!やりましたね!さぁ、アルトさん、アーシャさん、エリナさん、私に頑張って付いてきて下さいね!アルトさん、全力逃げ!お願いします!」


「な、何だこれは!ティアナ!?これは模擬戦じゃないのか!?」


「アルトさん、逃げるのも立派な模擬戦ですよ。さぁさぁ、逃げますよォ!大丈夫、サティアさんに追いつかれても、殺されるだけです!あはっ!」


「こんのぉクソ聖女ォ!やはりあの時、完全にキサマを殺しておくべきだった!殺してやる…全殺しだ!魔王様に聞かれる前に、コロス!」


サティアは鬼の形相で、アルト達に迫った。

たまらずアルト達は駆け出す。


「ティアナ、後で説明してもらうからな!」

「アタシ関係ないじゃない!もー!!ティアナ、アンタぁ!覚悟しなさいよ!」

「くっ、ティアナ!こんなプレイを私に強要するなんて、何てヘンタイなんだ!」


三者、恨み節をティアナにぶつけるが、当人は何食わぬ顔で走り出す。


「ウフフッ…良いですよ。無事に目的地へ辿り着ければですが。さて皆さん、私に付いてきて下さいねぇ!」


サティアを狩人とした、命懸けの鬼ごっこが始まった。

先頭を駆けるのは、人間離れした走力を持つティアナ。

それに続くのはアルト、次いでエリナ、アーシャである。

一方、彼らの背後に迫るのは、砦で出会った時以上の殺気に満ちたサティア。


この時、アルトが保有する隠れスキル『脱兎』が発動した。

このスキルの発動条件は敵前逃亡すること、及び逃走経路の確保である。

その効果は、自機を含めるパーティ全員の移動速度を一定水準にまで引き上げるものだ。

※サティアは模擬戦によりパーティーから外れているため、スキルの対象外である。


そんなスキルが発動しているとも知らぬまま、アルト達三人は前を行くティアナに必死で追い縋る。

当然彼らには、ティアナが走る方角など気にする余裕は無い。



彼らは死に物狂いで駆けた。

景色が変わり、いくつかの村落を通過した。

その過程では本来、あらゆる出来事があった筈だ。

だが、彼らはそれらに構っている余裕は無かった。

後ろには、絶対的殺意を持った追跡者が全速力で追って来るから。

だから彼らは、全力でティアナの後に続いた。


何時間走ったのか分からない。


そして、気がついた頃にはティアナを除く全員が疲労困憊で地面に突っ伏していた。

追手のサティアでさえも、膝に手を置き肩で息をしている。


「皆さん、おめでとうございます!着きましたよ、魔都です!見えますか、アレが魔王城ですよ………ってアレ?もぅ…皆さん体力無さすぎですよー…サティアさんも情けない。私を殺すんじゃなかったんですか?」


「ゼェ…ゼェ…なぜだ…ハァ…ハァ…あの時は……キサマと一緒に、魔王城から…砦へ…瞬く間に行けたのに…」


「あっ、あー…砦に帰った際の。あの時は急いでましたからねぇ…私がサティアさんに強化魔法を掛けてたんですよ。自覚なかったんですか?馬鹿ですか?」


「ハァ…ハァ…そんな芸当が出来るなら…全員に…ゼェ…強化魔法を掛ければ…良かったではないか!」


「強化魔法の効果は、被対象の能力に加算されたり乗算されるものです。アルトさん達を強化しても、ここまでの速度は出ませんよ。今回の肝はアルトさんの逃走スキルですね!あ、スタミナは補填しても良かったかもですね、テヘペロ♡」


「ゼェ…殺す…いつか殺す…辱めて殺す…犯して…やる…ウッ…」


サティアは呪言を残して力尽きた。

魔族の都を前にして、死屍累々とはこの事である。

かくして、勇者一行は一日とかからずに王都から魔都へと辿り着いた。


ティアナはやむなく、サティアを含むメンバー全員に回復魔法を施した。


意識を取り戻した彼らは、ティアナを正座させて説教を行った。

三人に囲まれ叱られたティアナは、肩をすくめてめぇめぇと涙を流した。

教会の頂点たる枢機卿の、そんな有り様を見れば教会の幹部は卒倒するに違いない。


サティアはそんな大人気ないティアナを見て、幾許かの溜飲を下げた。

そして、情けない姿の彼女に劣情を覚えた。


ティアナを除く四人は、魔都で必ずティアナに復讐する事を誓った。

具体的には、酒に酔わせて犯し潰す事を誓った。

彼らの絆はティアナにより深まった。

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