聖女ティアナ、勇者達を導く

ツーマンセルだった初期の勇者パーティに、私とエリナが加入した事で、ゲーム終盤まで通しで使えるメンバーが揃った。

基本的には今後、この四人でストーリーを終盤まで進めて行くことになるだろう。

 

当然コミュ強の私は、メンバーとの人間関係もバッチリだ。

特にツンデレ女のアーシャと、堅物姫騎士エリナとは仲が良くなった。

絆レベルはMAX に違いない。

いや、確認の方法が私には無いが。

とにかく今のアイツらは、もはや私の言うがままだ。

 

アルト君は主人公特有のお人好し属性だから、放置しても問題無し。

寧ろ向こうから、積極的にコミュニケーションを図って来る。

具体的に言うと、最近のアルト君はやたらと、私をサシ飲みに誘って来るのだ。

正直なところ、若干ウザく感じる所もあるが、酒は好きだ。

飲み会の誘いは、私に前世での学生やサラリーマン時代の気分を思い出させてくれる、ありがたい。

彼と二人きりになっても、アーシャとエリナは私に何も言わない。

だいぶ自由にさせてもらっているな。

 

最近の私達が専らする事と言えば、ギルドの依頼を受けながらの、レベリングや金策だ。

皆クエストに夢中だったのか、ストーリーの進行は牛歩のそれだ。

だが、それなりに悪くは無かった。

ギルドへの貢献度も、任務達成で上がって行くからな。

 

一応、ストーリーの動きも、なくはない。

魔族に内通している領主弾劾という、前半のヤマ場も無事にクリアできた。

魔族の工作員から入手した、得体の知れないドーピング薬。

その薬を飲んだ領主は、醜い人外の体躯と獣性を得た。

ボス戦で編成できる戦力は、アルト君と私。

二人だけの強制バトル。

ポイントはアルト君とティアナのレベルを適切に上げたり、装備を整えて行かないと普通に負ける所か。

所謂”前半の壁”というヤツだ。

アルト君が問題なく戦えたのは、私としても僥倖だったな。

マイペースと言えども、一定期間レベリングに集中していたのが幸いしたようだ。

潜入イベントで、強制的に女装させられた変態主人公と、男装の麗人聖女ティアナ。

この二人に打ちのめされるボスも、シュールで可哀想だったなぁ。

まぁ、あの領主も女の子アルトにベタベタの変態だったから、お互い様とも言えるが。

 

ところで、以前にも述べた通り、私達が滞在しているこの街は、他の地域と比べて居心地が良い。

この街の人間達は、私達にとても良くしてくれている。

私なんて、外に赴けばアイドルのような扱いだ。

道ゆく人々が私に向かって

「聖女さま!聖女さま!」

なんて持て囃すもんだから、こっちも気を良くして色々サービスしてしまう。

堂々と風俗を利用しても、何故か賞賛される始末だ。

確かに、嬢に支払う金には、チップを上乗せして渡してはいるが。

(もちろん私のポケットマネーの範囲内ではある)

コイツらどんだけ俺を讃えたいんだ。

ふふふ…いいぞ、もっと私を讃えろ。

 

 

 

さて、色々満喫できたしな。

そろそろ、本編のストーリーを進めて行くか。

 

ある日、私は宿の一室に、パーティメンバーを集めた。

防音魔法を、部屋に張り巡らせながら。

 

「折行って、皆さんにお話があります」

 

アルト君は、そんな私を珍しがって問いかけた。

 

「どうしたんだ、ティアナ?防音魔法まで張って…」

 

「皆さん、人族と魔族に伝わる”秘宝”をご存知でしょうか?古の時代から、受け継がれている物です」

 

「いや、俺は聞いたことが無いな」

「アタシも知らない」

「うむ、王族の私も初耳だ。父上や母上から、特段知らされてはいない」

 

三者一様にして、不思議な表情を浮かべている。

 

「私が教会から派遣されている事は、皆さんご存知ですね?それは人類に敵対する、魔族に打ち勝つ為だけではありません。私には別の考えがあって、ここにいます。」

 

「なんだって?他に理由があるのか?」

 

「はい…派遣の名目が、教会の目的である事には変わりませんが」

 

「アンタ、何かあるようね…それ、アタシ達に話してくれるって事でいいの?」

 

「はい、アーシャさん。申し訳ありませんが、私は皆さんを見極めておりました。信用に足る方々であるかどうかを。すみませんでした…」

 

アルト君は、やや怪訝な視線を私に向けた。

 

「それで、俺たちはティアナのお眼鏡に適った、ってわけか…」

 

「これからするお話は、私以外は誰も知りません。皆さんも極力、他言しないでください」

 

「ティアナ、どう言う事だ?」

 

エリナが私に尋ねた。

 

「これは一般に公表されていない、人族と魔族の歴史です」

 

私は彼らに説明した。

人族と魔族の歴史を。

もちろん、首謀者の姿は巧妙に改変して。

出まかせの、それらしいカバーストーリーを添えて。

 

 

「そんな…人と魔族は、かつて手を取り合っていたと言うのか!?」

 

特に王族のエリナは驚愕した。

それはごもっとも、王家が子孫に施す教育は、王族の権威に都合の良いことだけだ。 

魔族との骨肉の争いしか、彼女は教わっていないだろう。

 

「なぜ一介の聖職者が、そんな事を知っているんだ?たとえティアナが聖女といっても、それは気になるぞ」

 

アルト君は当然の疑問を、私にぶつけた。

 

「実は私、研究者でもあるんです。そしてある時、教会の中央本部に行きました。研究の資料を漁りに。そこで、高レベルのセキュリティクリアランスを持つ者にしか閲覧できない、特別な資料を見たんです。聖女としての権限を使って…」

 

「セックスクリランス?槍のこと?何ソレ?ちょっと、アタシにも分かる言葉を使いなさいよ!」

 

アーシャが久々に、私へ噛み付いてきた。

最近のアーシャ、ちょっとおバカさんで可愛い。

 

「教会が隠していた情報を、偶然私は見ることができたんですよ。まぁ、長い年月忘れられていたのか…私が見た資料は、既に誰からも見向きもされない代物でしたが」

 

嘘はついていない。

過去に教会本部の資料室へ行き、当該書物を捜索、発見した。

私はそれを秘密裏に複写し、持ち帰っている。

もし裏取りをされても、バレはしないだろう。

 

「なるほど…その歴史と、秘宝とやらの存在は分かった。だが、それと俺達にいったい何の関係があるんだ?」

 

「アルトさん、仮に私達が魔族の王を、打ち倒したとしてもですよ…本当に世界は平和になると、考えていますか?」

 

「考えてもいなかった…俺は戦うことしか知らないから」

 

「そうか…たとえ現任の魔王を倒しても、また魔族の中から長者は生まれる…」

 

エリナが模範的な、良い回答をしてくれた。

 

「その通りです。また過去にも、魔族を根絶やしにしようとする、人族の動きがあったようですが…全て痛み分けの失敗でした」

 

「じゃあ、どうやったら俺達人間は平和になるんだ?」

 

「そこで、秘宝が出て来るんです。伝承によれば、人魔二つの秘宝が揃って、秘匿された祭壇に捧げられた時、真の平穏が訪れる、と記されています」

 

「真の平穏、ねぇ…それって具体的に何が言えんの、アンタ」

 

アーシャが指摘する。

 

「わかりません…とても困難な道かもしれません。ですが!儀式の結果次第では…永遠の平穏が、平和がやって来るかも知れません!」

 

「殺し合う事以外にも道がある、と言うことか…確かに、探してみる価値は、ありそうだな」

 

「皆様のお邪魔は致しません。活動の片手間で結構ですから…どうか私に、協力してください」

 

私は胸の前で手を組みながら、彼等に哀願する。

情熱を込めた声で叫び、潤んだ瞳で三人を見つめた。

彼等は私の瞳から、熱い視線を逸らせない。

 

「ティアナが言うなら、本当なんだろう。いいんじゃないか、なぁ?二人とも」

「アタシは賛成。少しでも選択肢が多い方が良いわ」

「私も協力しよう、いや寧ろ協力させて欲しい!」

 

ありがとう、ありがとう…

 

「皆さん…ありがとう!本当に、ありがとうございます!」

 

私は感動で涙を流しながら、三人に感謝した。

 

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