国王と妃と密偵
ローズ王国の国王、クロイス・ローズは名君であると民衆から専らの評判であった。
かつて混迷極まった人族と魔族との争い。
それを今代の王政において、戦線を維持した状態から、半ば安定化させているのだ。
これは、国王が内政を盤石に出来ている事が大きな要因でもある。
その王妃ネイ・ローズもまた、美貌と叡智を兼ね備えた、妃に相応しい令室であるとの噂であった。
「殿下、ただいま戻りました」
「うむ、よくぞ迅速に帰ってきてくれた。早馬を飛ばした故、其方も疲れたであろう。ゆっくり休め、と言ってやりたい所だが…」
「そうね、アナタもたまには彼を労ってあげた方が良いわ」
「王妃殿下、そのお心遣いだけでも恐悦至極にございます。しかしながらこの場にて、ご報告させて頂きたい所存」
「あら、貴方も律儀ねぇ」
ここはローズ王国、国王の書斎。
優美にソファへ腰掛ける国王と妃。
そして、その二人に傅く男がいた。
「うむ、ではさっそく報告を聞こうか」
「はっ…結論から申し上げますと、勇者一行は、無事に要衝の砦を防衛いたしました」
「ほう…重畳であるな。援軍の整えもさせていたが、無用であったのは何より。さすが、聖剣に選ばれただけの事はある。それと…我が不肖の娘はどうだ?上手く勇者に取り入れているだろうな?」
国王は男の報告に、納得したように頷きつつ話を続けた。
彼は娘の心配を他所に、彼女が勇者を取り込めているかどうかが、気になっているようだ。
「姫は、勇者一団に欠かせない戦力となっている模様です。さすがに勇者殿とは、未だ男女関係とまでは至っていない様ですが」
「そんな所か…まぁ勇者殿とそれなりの繋がりが出来れば、御の字か」
王は、娘がそれなりに使える駒であった事に対して、多少ながらも感心した。
そして暫くの間を置いて、王の傍にいる妃が口を開いた。
「枢機卿…聖女様のご活躍は、いかがでしたか?わたくし、勇者殿よりも彼女の事が気になりますの」
「ふむ、未だ公になっていないとはいえ…あの若さで異例の枢機卿就任。しかも、聖女の肩書きまで持っているときた。信仰厚い我が妻が、気にするのも仕方ない」
国王の隣で腰掛けている妃が、聖女に対する強い興味を示した。
「その聖女様でございますが…戦いの最中、魔族の将に不意を突かれ、致命傷を負われた後…魔族に連れ去られまして…」
「な、何だと!?それはいかん!現任の教皇…しかも聖女が戦場で生死不明となれば…教会と、我が国は大変な事になる!」
「アナタ、落ち着いて下さい……きっと、大丈夫。まだ、話の続きがあるのでしょう?話してごらんなさい」
国王が動揺を隠せない一方で、目を細めた妃が男に問い詰める。
「王妃殿下、恐れ入ります。その聖女様ですが翌日、何事も無かったかのように、五体満足にて御帰還なされました」
「!!そ、そうか…それは僥倖であるな…」
「ほら、わたくしの申し上げた通り…さすが、枢機卿猊下でございますわ。」
妃が自慢げに夫を見遣った。
「それが、帰還なさった際に問題がございまして」
「なんだ、話を勿体ぶるではないか。よい、申してみよ」
「猊下が仰るには、魔族との和議を執り行いたい、との事で…」
「眉唾物だな。魔族共に操られているのではないのか?」
唐突に和平の話が持ち出された事に対して、王は訝しんだ。
「勇者達が言うには、猊下は正気との事です。念の為に私も、恐れながら聖女様に鑑定を行いましたが…確かに、猊下に異常はございませんでした」
「なるほど…しかし、猊下はいかにして魔族共に取り入ったのか…」
「私も詳細は分かりません。しかしながら、その証として、魔族の使者が書状を携えております。もうじき、その使者が勇者殿と共に、この王都へやって来る予定です」
「まぁ!勇者殿が王都へ来ると言う事は、枢機卿猊下もいらっしゃると言う事ね!」
王妃は目を輝かせながら、手を組み祈るように話した。
「はっ!王妃殿下の、仰る通りでございます」
「ああ…わたくしも猊下を通して、素晴らしき神のご加護を賜りたいわ…早く、王都へいらっしゃらないかしら」
王妃は勇者や和平よりも、聖女の方が気になって仕方ないようだ。
「ン゛ンッ!魔族共による、何らかの計略かとも思ったが…枢機卿を疑った私が愚かだったか。出来ればこの機会に、猊下には改めて私を信任して貰いたいものだな」
一人熱狂する妃を嗜めるよう、王は話を軌道に戻した。
「はい。しかしながら使者とは言え、やって来る魔族は名うての将です。警戒するに越した事はありません。何かおかしな動きがあれば、即座に報告致しましょう」
「うむ、よしなに取り計らえ」
「はっ!仰せのままに!」
「ふふふっ…楽しみだわ。急いで侍従達に、歓待の準備をさせないといけないわね」
国王は事態の急変に対して、必死に頭を働かせて思案している。
方やその妃は能天気に、勇者達の来訪を楽しみにしている。
一方その頃…
サティアを含む勇者一行は野営で、ティアナお手製の、○郎系ラーメンに舌鼓を打っていた。
○郎系ラーメンは、異世界でも受け入れられる美味だったようだ。
バカ売れを確信したティアナは、その製品化を考えた。
しかし、世界観的にあまり宜しくないと断念し、改めてパン屋を開く事を決意した。
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