闖入者

私はネイとしっぽり入浴をした。

彼女の身体を、加護だ何だと託けてセクハラ出来たのは進展だ。

拒否されたら、顔の施術だけで終わらせようかもと思ったが。

彼女もノリノリで、私のセクハラを受け入れてくれたからな。

今後も美容を続けてやるとしよう。

もろちん、対価は頂くがね。

合法的に、美女の肉体をサワサワできるのは、有体に言って最高だなぁ!

 

満足げな表情をしているネイと別れた後、私は侍女にゲストルームへ案内された。

 

「こちらへどうぞ、聖女様。備え付けの物は、自由に使って頂いて結構です。それと、これは就寝前のアイスティーでございます…よければ、お飲み下さい。もしご用命があれば、遠慮なくお呼び下さいまし。では私はこれにて…」

 

お、気が利いてるね。

風呂上がりの熱った身体に、アイスティーは良いものだ。

侍女はある程度の説明の後、部屋から去って行った。

 

部屋を見渡せばそこそこ広いし、ベッドも腰掛ければフカフカ。

さすがは王宮の客間である。

ルームサービスも来てくれるのだから、至れり尽くせり。

うん、まさにスイートルームだ。

 

でも、今日はもうやる事もないし、精神的にも疲れたので寝るとしよう。

王妃にセクハラした時のムラムラが、下腹部に残ってはいる。

しかし王宮のベッドで、自家発電をするつもりは今の所ない。

身体は美女でも、心は紳士だからな。

今は性欲より、眠気が勝っている。

アイスティーも飲んだし。

だから、さっさと寝よう。

うん、急に眠くなってきたぞ。

 

 

その日の晩、私は殺された。

 

 

ーーーーーー

 

 

客間に案内された聖女は、あっという間に寝入った。

王都までの長旅と、国王夫妻とのやり取りによる疲労が重なったのだろう。

アイスティーを飲んだ聖女は、瞬く間にベッドへ吸い込まれた。

 

そんな、聖女がスヤスヤと寝ている客間へ、闖入者の影があった。

 

彼女を客間へ案内した、担当の侍女である。

侍女はドアを軽くノックして、返事が無い事を確認した。

女はそっとドアを開け、部屋に忍び込む。

そこには、暗がりの中で静かに寝息を立てながら眠っている聖女がいた。

 

女はまじまじと、聖女を見た。

とても美しいと感じた。

そして、それを残念にも思った。

 

女の手には、長刃のナイフが握られている。

そして女はナイフを振り上げたまま、いくらかの逡巡をした。

しかし、女は聖女の心臓目掛けて、ナイフを力一杯振り下ろした。

片腕で、聖女の首を絞めながら。

 

何度も、聖女の胸をナイフで刺した。

暗がりの中で、鮮血が舞った。

ベッドは瞬く間に、鉄の匂いを帯びた液体に染められた。

 

聖女は叫び声一つ上げられず、一切の抵抗無しに息絶えた。

女は聖女の身動きが止まったのを、しっかりと確認した。

そして、犯人を偽装するための、工作に取り掛かろうとした。

 

その時だった。

 

息絶えたはずの聖女の手が、突如として侍女の腕を掴んだ。

 

「私も、舐められたモンですねぇ…」

 

女は驚愕した。

 

(睡眠薬を飲ませた。薬は効いた。そして、確かに殺した。心臓目掛けて、何度も刺突した。首を絞めながらやった。何故この聖女は生きている!?)

 

相手が普通の人間であれば、正しい所感であろう。

 

女の片腕は、ピクリとも動かない。

まるで、筋骨隆々の男に掴まれているようである。

とてつもない握力で、腕を固定された。

それでも、何とか振り解こうと女は抵抗を試みた。

 

「女、私を見ろ」

 

聖女の両眼は、赤く怪しい光を帯びていた。

その目の光は、本来この世界の人間が放つモノではない。

それは、聖女が人間でない事を暗に示している。

 

声に反応してしまった女は、聖女の瞳を覗いてしまった。

聖女の眼から放たれる邪悪な光に、女は思考を奪われた。

女は瞬く間に、聖女に支配された。

 

聖女は衛兵を呼ぶ事なく、逆に防音魔法を展開した。

 

彼女の前に佇む闖入者の女は、力無く自失茫然としている。

 

「浄化魔法”クリーン”…さて、ベッドも綺麗になった事だし…お前、名前は?」

 

「アナです」

 

「何者だ?侍女ではないだろう?」

 

「はい、殺しや間諜を生業としております」

 

「依頼人は?」

 

「抗戦派の貴族に雇われました」

 

「私について、どれだけ知っている?」

 

「勇者に付き従う癒しの聖女と、だけ」

 

「なぜ、抗戦派の貴族は私を狙った?殺すなら魔族の使者だろう」

 

「魔族の使者は、血塗れのサティア…とても人間が闇討ちできる相手ではありません」

 

「なるほど…後で抗戦派の貴族共を、洗っておくか。至極面倒だが、処理しておかないと後々、厄介な事になりそうだ」

 

聖女は納得したように頷いた後、女をベッドに押し倒した。

聖女は女に覆い被さって、顔を近づけた。

 

「”支配解除”…ふふっ、どうですか?ターゲットに組み敷かれる気分は?」

 

「……ハッ!?お、お前何者だ!?何故死なない!女なのに、何故そのような膂力がある!」

 

「私の事を大して調べもせずに殺そうとした、その蛮勇は認めましょう。ですが、その相手が私だったのが、アナタの運の尽きですね」  

 

「くっ、動かない!な、何をするつもりだ!!やめろ…やめろぉ!」

 

「やめません♡先ほどから、下半身のムラムラが収まりませんので…アナタで解消すると致しましょう♡」

 

聖女は、目の前の女を壊した。

何度も。

女が壊れたら、治癒魔法を使った。

何度も。

女は快楽の中、正気と狂気の間を、行き来した。

何度も。

 

明け方には、ベッドに腰掛け優雅に茶を嗜む聖女がいた。

その横には、かつて聖女を殺害しようとした女が横たわり、彼女を見つめている。

 

「貴族に仕えるのを辞めて、アナさん…私に雇われてみませんか?」

 

「は、はい…ティアナ様のためなら、わたし何でもします…ですから、どうかお情けを…」

 

聖女を見つめる女の目は、熱いモノが宿っていた。

 

「仕方ないですねぇ…もう夜明けですから、コレで最後ですよ?」

 

飲みかけの茶をテーブルの上に置いた聖女は、再び女に覆い被さった。

 

その日、王宮から一人の侍女が暇を取った。

 

彼女の行方は、王宮の誰も知らない。

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