公妾アトラとの邂逅


実はエリナ姫の母親については、素性がよく分かっていない。

ゲームでもこれと言って、出番も無かった。

ストーリーの本筋から外れるし、仕方ない事だとは思うが。

分かっているのは名前がアトラで、ネイ王妃が嫉妬する程度には美人の公妾という事だ。


エリナにお母上であるアトラについて、一度あれこれ彼女に聞こうかとも考えたが…それは断念した。

“アナタのお母様を手籠にして、心身共に私に依存させた状態で突き離したいんです”

なんて言った日には、私はエリナに斬り殺されるだろう。

殺されても死なないけど。


そういう訳で、アトラについてはほとんどリサーチ出来ていない。

さらには情報不足な状態に加えて、時間がない。

そう、王都を立つ時期が迫っているのだ。


王国と魔族との和平協議が、間も無く整う筈。

交渉は当初予想されていたよりも、遥かに円滑に進められている。

王国の和平反対派は沈黙しているし、魔族内部も魔王が力で押さえつけているから。


ゲームのストーリーでも、宝物殿ダンジョンのクリア後に魔族領へ入れるようになる。

二つ目の秘宝を求めて、魔族領へ向かわなければならない以上、これ以上王都に長居は無用だ。


しかしながら、どうやってアトラに接触したものか。

時間もそう多く残されていない。

王宮にコネはあるが、ふむ…難しいな。


うーん…うーん…うーん…


あ、そうだ。





「ということで、お願いがあります。ヴァニタちゃん」


「ということって、どういう事だよクズ野郎が」


私は経過観察と称して、ヴァニタがいる王城へ向かった。

王子からヴァニタ救出の顛末を聞かされていたらしい従者達は、喜んで私をヴァニタに面会させてくれたよ。

どうやら彼女(?)は王宮でも、上手くやっているらしい。

可愛らしい見た目も相まって、王宮の従者達にも人気者のようだ。


「ふふふっ…イキがっていても、お股から白いアレがダダ漏れでは…何ともサマになりませんねぇ」


「なぁっ!?ウソっ!?えっ!?マ、マジかっ!?」


ヴァニタは狼狽しながら、自らの股を確認しようとしている。

本当にコイツはポンコツだな。

とても私のスペアとは思えない。


「嘘ですよ」


「…………チッ…このクソ野郎が!しね!」


言葉遣いが悪くなっているのは、性自認の男性を強くしたからか。

ロリ娘が強がっても、ハッタリにしか見えないが。


「さて、世間話は程々に…ヴァニタちゃんにお願いしたい事はですね」


「おい、勝手に話を進めるなクソ野郎」


「エリナさんのお母様、アトラさんに会わせてほしいのです」


「アトラ?いったい誰の事だ?俺は知らないね」


「惚けるのも程々にした方が良いですよ?ふふふっ…」


「何がおかしい」


「アナタの卵巣に対して、排卵を促しても良いんですよ?子宮から卵管まで、”王子のソレ”でパンパンなら、今すぐにでも…」


「えっ…!?や、やめてくれ…いやだ…いやだ…」


「じゃあアトラさんに私を紹介して下さい」


「許してくれ…あの人は、今の俺を家族のように思って接してくれてるんだ…頼むよ…」


「へぇ、そうですかぁ…同情ですか。私の分け身とはいえ、随分と落ちぶれましたね。仕方ない…では、アナタのボテ腹姿でも眺めて我慢するとしますか…」


私はヴァニタの下腹部に、手を当てがった。

ヘソの下を丁寧に、みだらに優しくさする。


「ひいっ!んんっ……うぐっ…うぅ…やだぁ…やだよぉ…まだ妊娠したくないよぉ…」


「では、アトラさんの元へ連れて行って下さいますか?そうすれば、特別に処置してあげますよ?」


「ひぐっ…分かった…分かったよぉ…クソッがぁ…分かったから避妊してくれよぉ…」


「良い子です。よろしくお願いしますね、ヴァニタちゃん♪」


「ちくしょうがぁ…地獄に堕ちろぉ…クズ野郎」


私は魔力を込めた手で、ヴァニタの下腹部を淫にマッサージした。

処置の効果は、じきに出るだろう。



私はヴァニタに強制して、アトラの私室まで案内させた。

正妻の部屋と比べれば質素に感じられるが、おそらくはアトラの趣向だろう。

部屋に通された私達を、椅子に腰掛ける優雅な女性が迎えてくれた。


「アトラおかあさま!」


「なぁに?ヴァニタちゃん…あら、そちらの女性は?」


これは驚いた。

確かに、エリナに似ている。

エリナをもう少し柔和にして、豊満にしたようだ。


「おかあさまに会って欲しい人を連れてきたの!」


「貴女は…」


「あのね!ティアナさんっていう私を助けてくれた人なの!」


「まぁ!あの聖女様ですか!」


「いつもエリナさんにはお世話になっております。イェンティアナ・ラブカスと申します」


「教会の聖女様にお会いできて光栄ですわ。こちらこそ、我が不肖の娘がご迷惑を掛けていないかしら?」


「とんでもない。エリナさんは勇者率いるパーティーの中でも、大切なメンバーですよ。それと、出来れば早めにアトラ様にもご挨拶したかったのですが…申し訳ございません」


「そんな小さな事、気にせずともよろしいのに…そうだわ!立ち話も何ですから、娘の活躍をお聞かせ願えるかしら?」


「もちろんです」


「では、お茶を淹れましょう」


「アトラ様直々にお茶を淹れて下さるとは、光栄の極みですね」


「ふふっ…所詮、私は妾です。そんなに畏まる必要はありませんよ」


「では、お言葉に甘えて…」



「こんなに楽しいお話、久しぶりだわ。聖女様を連れてきてくれて、ありがとうねヴァニタちゃん」


「いいの、私も母さまが喜んでくれて嬉しいの」


私達三人はお茶を交えながら、今までの冒険やエリナの活躍についてアトラと会話した。

ヴァニタは会話に興味がないのか、菓子をモリモリ食らっていたが。

まぁ、初対面の今回はこんな所だろう。

王都を立つのが近いとは言えども、それは明日明後日の話ではないからな。

まだ猶予はある筈。


「アトラ様、実はお願いがございまして」


「あら、何かしら」


「また明日、こちらにお邪魔してもよろしいですか?」


「もちろん、大歓迎よ!なかなかお客さまも来る事がないから、お話できるのが楽しいですもの」


「ありがとうございます、アトラ様」


「モッシャモッシャ…ごっきゅん。もうお話はおしまい?」


「ええ、ヴァニタちゃん。もう聖女様はお帰りになるから、二人でお見送りしましょうね?」


「うん!」


ヴァニタは私と二人きりの時以外は、本当に年相応にしか見えない所作をする。

コイツの中身がオッサンとは、誰も思うまい。

まぁ、私もだがね。


「では、今日の所はこれで失礼いたします。また明日お会い致しましょう、アトラ様」


ファーストコンタクトとなったお茶会も、無事にお開きになった。

私はアトラの部屋を後にして、アルト君達がいる宿へ戻ろうとした。


しかし、ここでアクシデント発生。

王宮から出る最中に、ネイ王妃に見つかってしまったのだ。

今回は後ろめたい事をしていないが、何だか面倒な事になりかけた。


アトラに会った事をネイに白状したら、物凄い笑顔で私を部屋に誘ってきたのだ。

何だか知らないけど、アレはきっと怒っている、そんなヤヴァいオーラだった。

断れる訳がない。


私はおとなしく、王妃の部屋にドナドナされた。

ネイ王妃はお茶会と称して、王宮秘蔵のお酒を私に振舞ってくれた。

普段は入手できない、貴重な酒をガバガバ飲ませてくれたから良いけど。

ご機嫌を取りながら会話するのも、何だか疲れたなぁ。


気が付いたら王宮のベッドで朝を迎えていたし。

ヤバいな。

そろそろアルト君達に、説明できなくなる。

こっそりと王宮で、高級な酒を飲んでいたとは言えない。

とりあえず、パーティーのみんなにはお土産でも持って行くとしよう。

アイテム欄に保管してある寿司折でいいか。




あ、そうそう。

先日ヴァニタに施した処置。

実はアレ、排卵促進だ。

嘘は言っていない。

処置は処置だからな。


この私がヴァニタ相手に、避妊処置なんてする訳ないだろ。

私の劣化コピーとはいえ、本当に馬鹿なヤツだ。


何週間かは知らないが、そのうちヴァニタの腹は膨らんでくるだろう。

くくくっ…

精神が男のままで妊娠、出産とかヴァニタちゃんどうなるんだろうな。


出産時もおそらく私に通知が来るから、ライブ配信を楽しみにさせて貰おうか。

アトラの攻略に加えて、また楽しみが出来た。


よし、一旦宿に戻って、またここに来るとしよう。


あっ、ネイ王妃。

どうも、おはようございます。

えっ?これから風呂?

一緒に?


仕方ないなぁ。


じゃあ、美人人妻と朝風呂行ってきます!





Tips:王家秘蔵の酒

非常に美味だが、アルコール度数が高い。

酒に弱い者が飲めば、瞬く間に酩酊に至るだろう。

古くからはこの酒に薬を盛って、謀でも使われていたようだ。

酒は飲んでも飲まれるな。

















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