第38話 第三のドア




第三のドアを開けて歩いて行くと、


気がつくと、この前食事をしたビアバーにいた。


和香が俺に言う。

「田中くん、今夜こそ私を抱いてください。」


俺は、うなずいて言う。

「よろしくお願いします。」


そして、和香と、店の近くのラブホテルに入った。


学生時代から、20年以上恋い焦がれた、和香がここにいる。

頭の中で何度お世話になったかわからない、その本物の肉体がここにある。


和香の体は、完全に熟していた。四十で、子供も生んでいるというのに、このプロポーションはすごいな、と俺は直に感心しつつ、何とか近づく。


焦る俺を、和香は優しくリードしてくれる。


そして、その時になり、俺がコンドームを探したら、


「そんなものはいらないわよ。

初めてなんでしょう。記念に、私をゆっくり味わってちょうだい。」



やはり童貞だとバレていたか。

俺は、そのまま、和香の中に入っていった。


最高の気分だった。

女性の体、いや和香の体sは素晴らしい。最高だ。

これで童貞脱出だ。


20年間の思いを遂げることができた。こんな幸せな事は無い。


そして、和邪は言った。

「朝まで一緒にいましょう。」


その夜は、昔話をしたり、再度挑んだりして過ごした。


。翌朝、チュンチュンいう鳥の声で目覚めた。

隣に和香がいる。

知らない、天井だ。


最高の気分だ。


その後、和香が目覚める。

「おはよう。」俺が言うと、


「もう一度、しよ!」和香が言った。



しばらく経ってから、俺たちはシャワーを浴び、ラブホテルを出る。。


すると、和香は俺を引っ張って、自分の実家の寿司屋に行った。


そして和香は両親に宣言する。


「ご心配をおかけしましたが、こちらが今度の夫の一郎さんです。

お父さん、お母さん、私、この人と再婚します。」


ご両親は驚いていたが、すぐに満面のの笑顔になり、「娘をよろしく。」と言った。

母親は感極まって涙ぐんでいる。


え?俺も驚いている。だが、感動しているご両親のいる前で、お嬢さんとは結婚しませんと言うこともできない。


「お嬢さんとはやりましたけど、一晩だけで捨てることにします。」と言うのと同じになってしまうから


とても喜んだご両親に引き留められ、そのまま宴会になった。

お父さんが、腕によりをかけてご馳走を並べる。


カワダッシュの社長もやってきた。


「おじさま、こちらが次期社長の一郎さんよ。」和香が言う


川田社長も、ものすごく喜んでくれた。


「おお、和香と結婚してくれて、うちの会社も継いでくれるのか。


定若の父親にもなってくれるんだな、これからよろしく頼む。」


定若というのは、和香の小学校六年の息子のことだ。

途中から、その子も宴会に参加した。利発そうな子だ。



泊まれと言われたのを振り切って帰るときに、和香は言った。「もう逃がさないわよ。覚悟を決めて、川田家を繁栄させてちょうだい。「



そして俺は、和香と結婚し、川田の苗字に変えた。

一族であることを示したかったからだ。

やはり、カワダッシュの社長になるなら、川田がいいだろう。




俺は、円満に、今の会社を辞めた。金の事はあまりガタカと言わなかったが、多分、爽香さんが口を利いてくれたのだろう。

意外に高い退職金をもらった。


そして、特別顧問と言うことで、何かあったときには手伝うと言う契約も結んだ。


結婚した翌年、俺はカワダッシュの社長になる。娘も生まれた。


長男の定若は、中学受験に合格し、ちゃんと妹の面倒も見てくれる。


また、中学の同級生に社長の息子が結構いて、自分もカワダッシュを継ぐと言う自覚も芽生えてきたようだ。



社長業も板についてきたある週末のこと。

週末と言うのは、イベント設営業の当社では掻き入れ時なので、大体現場が立つ。


「あなた、親子イベントお願いね。」和香が言う。


「お前こそ、理系女子の就職イベントだろう。経験を踏まえていろんなことを伝えてやれよ。頑張ってくれ。」俺も答える。



俺たちは、それぞれ立っている現場に行った。ちなみに、これ以外にもあと2つ、現場が立っているが、そこはもう、「さわやか業務システム」でリモート管理だ。後は現場の責任者に任せている。


俺が関わっていたのは、親子で楽しむイベントだった。


うちは、子供たちが大好きなキャラクターの、「ヤキソバーン」のコーナーなどを担当しており、俺は、一生懸命焼きそばを焼いていた。


このキャラクターは、焼きそば業界とタイアップしており、子供たちがこのキャラクターを見て、焼きそばをたくさん食べるようになったようだ。


「田中さん!」

突然声をかけられた。


いや、今は川田なんだが。

びっくりして、顔を上げると、そこには、子供を抱いた夫婦が立っていた。親子イベントにやってきたのだろう。


見ると、その母親はみさきだった。

男の子を抱いており、横には、どこかで見たことがある男性が立っていた。


みさきが言う。

「田中さん、お久しぶりです。いえ、今は川田さんでしたね。

こちら主人の木佐宮と、この子は息子の正樹です。」


ご主人が名刺を出してくれる。俺も慌てて、焼きそばを焼く手を止めて,名刺を出す。何があるかわからないから、社長はいつも名刺を持ち歩くのだ。


「カワダッシュの川田です。」


「株式会社ハイドリームトレーディングの木佐宮です。」


名刺を交わす。


え。この会社は…間違いない。株式会社非童貞だ。



思い出した。この男性は、俺が株式会社童貞を訪問したときに、会議室にみさきを呼びに来た青年だ。


「ああ、そうでしたか。全く存じませんでした。遅ればせながら、おめでとうございます。」

俺は、頭を下げる。


「田中さんの事は、白平やみさきからもよく伺っていますよ。」


みさきのご主人は言う。


俺は頭を掻いた。

「いえ、最終的には、ドリームトレーディングにお世話にならなかったので、逆にご迷惑をかけたかなとは思っています。


機会があれば、白平さんにもよろしくお伝えください。」


「はい、必ず伝えます。」と青年は言う。


「田中さん、焼きそば1つ下さい。」

みさきが言う。


おっと、手を止めちゃいけない。焦げないように、俺は鉄板の前に戻り、焼きそばを焼いて、トレーに乗せ、みさきに渡した。


「おいくらですか。」みさききが聞く。


「こんなもので申し訳ないけど、正樹君にプレゼントします。」


そう言うと、みさきは笑顔で言う。、

「ありがとうございます。うちの子、まだ小さいのに、ヤキソバーンの影響か、焼きそば大好きなんですよ。」


この焼きそばは、子供が食べやすいように、具材は小さめに切り、味付けはそれほどきつくない。それに、アレルギーの子供が食べないように、成分表を書いて貼ってあるし、必要なら、一緒に成分表の紙を渡している。


こんな事は、俺にも子供がいるから、配慮しているのだ。そうでなければ、全く思いつきもしなかっただろう。


「では、田中さんお元気で。」


そう言って、みさき一家が去っていく。


みさきがその大きな胸に抱いている男の子の正樹くんが、手を振ってくれた。


これも1つの人生だな。これは



俺たちの結婚後、さやかさんは、自社のシステムをサポートしてくれている男性と結婚したけれども、相手は婿には入らず、会社は今のところそのままだ。


だが、売却の話も出ているらしい。

従業員がハッピーならそれでいいさ。


あと、佐藤さんは、今でも月刊角丸で頑張っているようだ。この前書店で手に取ってみたら、編集長になっていた。


これからも1人でキャリアウーマンとして生きていくのだろう。



株式会社童貞には入社しなかったけど、これはこれで1つのハッピーな人生だな。



俺がそんなことを考えていると、


目の前に、また、ダンディなローブの人が現れた。

その人は言った。


「そこそこの人生だったわね~どうする?」


そうか。この人生も悪くないけど、他の選択肢もあったのか。


俺は、カワダッシュで満足しているにもかかわらず、「次に行きたい」と言う。

すると、黒いローブをかぶった謎の奇蹟の占い師が現れて、ドアを示してくれた。4,5の2つだ。


俺は、4のドアを開け、中に入った。


この新しい人生が、和香と結婚したときの暮らしよりも、もっと良いものでありますように。そう祈りながら、俺は先へと歩いて行った。




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