第19話 プロジェクト



白平の言うことによれば、。は、

「株式会社童貞のすることは『童貞のための』事業であって、それを遂行するのは別に童貞だけでなくてもいい」ということだ。


「そうなんですか?」


「考えてみてください。世の中には、いろんな職業がある。会社の中にあって、食堂の従業員ももいれば、掃除の人もいれば、警備の人もいる。


すべてのことを、貴重でかつプライドの高い童貞がする必要は無いのですよ。」


そう言われれば、その通りだな。スカウトされて、トイレ掃除が仕事だったら病む。。


「ですから、株式会社童貞のグループで働く人たちには、非童貞

もたくさんいるのです。」


言われてみると、非童貞の人たちがいても不思議は無い。


「ですから、この会社には関連会社がいくつかあります。その中で一番大きいものは株式会社非童貞です。対外呼称は株式会社ハイドリームトレーディングになります。通称はHDTです。他にも人材派遣や事務関係の会社もあります。」


「なるほど。理屈はわかります。」


「そして、もう一つお伝えしますね。株式会社童貞が抱える問題ですね。」


「それは何ですか?」この会社にも弱点があるのか。


白平は真剣な顔で言う。


「童貞は、いつか卒業して非童貞になる可能性を秘めている。

そして多くの童貞は、その願望を持っている。


その欲求をうまくコントロールしないと、結局は暴発してしまうのです。」


なるほど。


「そのためにあるのが、株式会社非童貞、そしてプロジェクトなんです。」


おお、やっとプロジェクトの話になった。


「プロジェクトの内容はどういうものですか?」


これはなんとなくわかりつつある。


「プロジェクトDDTといいます。」

DDTといっても、殺虫剤とかではなく、…」


白平が一旦止まる。


「なるほど、脱童貞ということですね。」

俺は理解した。


「その通りです。株式会社童貞のメンバーに対して、彼らが望む形でうまく卒業させる。


。そのための相手探し、シチュエーションを出来る限り提供することです。それがプロジェクトDDTなんです。


プロジェクトのそれ以上の内容は、まだ外部の田中さんには言えません。


ただ、素晴らしい脱童貞経験をさせてあげることが目的です。そのため、プロジェクトのメンバー、つまり当事者でないスタッフは、DTとHDTの両方の混成チームです。」


「素晴らしいですね。」

俺は感嘆した。


「でも、それだけではありません。」

白平は続けた。


「あまり嬉しくない脱童貞体験をした、年齢の高い童貞は、かなりの確率で、

曲がってしまいます。」


意味がわからない。

「え、曲がるってどういうことでしょうか。」

俺は真顔で聞く。


「こんなはずじゃなかった、と言って、鬱になったり、何だ、こんなつまらないものなのかと怒り、反動で手当たり次第にナンパをしようとして、ヤクザに殴られて意識不明になった人もいます。」


何だそれは。


「慣れていないので女性に失望されてEDになったり、脱童貞でそれから風俗に走る人たちもいます。まぁ、適度なものは良いのですが。週に5回も風呂屋に行ってしまうと、すぐに経済的に破綻してしまいます。」


それはそうだな。


「ちなみに、ちょっと違うプロジェクトですが、SDT対策部と言う部署もあります

SDGsではなくて、SDTです。つまり、素人童貞。


風俗でしか女性を知らない人たちに対して、リアルな女性の付き合い方を伝授したり、自然な男女の出会いを疑似験させることによって、現実の女性と仲良くなろうと意識改革するものです。そんなプロジェクトもあるのです。」


「なるほど。本当に、童貞のために、いろんなことをやっているのですね。」


「はい、私たちはメインである株式会社童貞、そして筆頭関連会社の株式会社非童貞やその他、外部の協力者や、協力会社等と一緒にプロジェクトを進めているのです。」


「本当に、一大プロジェクトだ。」


「ちなみに、社員になれば、プロジェクトに参加するというか、自分のためのプロジェクトを組んでもらう権利があります。」


ものすごく興味が出てきた。うん。


「1つ注意して欲しいことがあります。 

プロジェクトが完了したら、その人は転籍になります。もちろん、株式会社非童貞ですね。」


「なるほど。それはそうですね。」

俺は同意する。


白平はつけ加える。

「ただ、株式会社非童貞に転籍した場合、もう童貞ではないので、給料は下がります。業務としてはもちろんプログラミング、コーディングもありますが、これは株式会社童貞からの業務委託になります。」


「つまり、非童貞は童貞の下請けなんですね。童貞が重視されるんだから、当然といえば当然ですね。」

俺は言う。

白平もうなずく。

「ちなみに、私も『元取締役』です。つまり、プロジェクトを経て、HDTに転籍しているのです。

今はHDTの取締役になっています。」


なるほど。だから後任として俺をスカウトに来たんだな。


白平は言う。

「プロジェクトについてのおまけの話ですが、時々、スペシャルプロジェクトとして、株式会社童貞の社員以外の人に対してプロジェクトを組むこともあります。」


「それは、どういう時ですか?」

興味深いな。


「まぁ、いろいろありますが、変則的なものについては、基本的には、創業者の大童貞男の承諾が必要になります。


会社の趣旨に合っているプロジェクトであれば、あまり否定される事はありません。


もちろん、コストの問題とかはありますので、どういうリターンが会社にもたらされるのかと言う事は考えていますが。」


「なるほど。一応民間企業ですしね。システム構築で収入を得て、その利益をプロジェクトに回したりするんですね。あるいは、プロジェクトが今後もたらすメリットを考えて、トータルでプラスになれば、ということなんですね。」

俺は感心する。



「後は、協力会社からの要請ですかね。」


「協力会社って、何度か出てきましたが、どんな会社なんですか?」

株式会社童貞に協力するとか要請する会社ってどんなものなんだろうな。


白平は少し考えこんでから答える。

「そうですね。まぁそこは秘密ですが、入社いただいたら、いつかお伝えできることもあるでしょう。」


何か気になるな。

「やっぱり、女性サイドを何とかする会社ですか?たとえば株式会社処女とか?」


俺は何の気なしに聞いた。

だが、白平の態度がみるみる変わる。


厳しい顔をして白平は強い言葉で言う。


「そんな恐ろしい単語を、軽々しく口にしないでください。男にとっての童貞とは違う意味があるのです。田中さん、社会的に抹殺されたくなければ、そんな言葉を自分から口にしてはいけません。」


何か知らないけど恐ろしそうだ。触らぬ神にたたりなし。くわbらくわばら。

俺は話題を締めくくる。


「なんとなく、株式会社童貞の事業内容として大きいのが、童貞が行うソフトウェア開発やプログラミング。もう一つは、社員たちに対するカウンセリングや、それの延長でのDDDTプロジェクトなんですね。」


白平は言う。

「DDTプロジェクトは収益を生まないし、貴重な童貞のリソースをなくしてしまいます。


でも実際に多分それがあるとないとで、モチベーションが全く違いますから。」


それはそうだろなぁ。


「ただ、株式会社童貞の好待遇と、株式会社非童貞の一般に近い待遇を比べて、童貞の価値を納得した上で、それでもDDTプロジェクトに参加したいか、というのはなかなか難しい判断ではありますね。」


うーん。そういうところもあるのか。

童貞卒業にも対価があるわけだな。


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