第20話 プロジェクトと童貞の価値
俺が白平から今まで聞いた話としては、株式会社童貞で好待遇を得られるが、希望すればDDT,脱童貞プロジェクトを組んでもらうことができること、ただし脱童貞すると待遇は下がることだ。
白平が説明する。
「この制度は、搾取されてきたことに対する還元として好待遇を与えつつ、理想の脱童貞を希望すればかなえられる、ということになりますね。ただ、プロジェクトのために入社するにしても、まずは会社に貢献してもらう必要があります。」
「それはそうですね。民間企業ですから。」俺も同意する。
「ですから、そこには一応規定があります。例えば、一年働いたら、自分のために、しっかりしたプロジェクトを組んでくれると思うと、やる気も倍増、いや3倍にもなるのです。」
なるほど。ニンジンを前にぶら下げるような物だな。
でも食べると、あとは待遇が悪くなる。
「でも、株式会社非童貞の待遇は、特に悪いわけではありません。世間の会社よりも高いくらいです。
ただ、この条件にしておくことによって、通常の会社への転職や、フリーランスとして独立しやすくしています。 実際、そうしないとHDTの社員ばかり増えてしまいます。」
そうか。新陳代謝も必要なんだな。
ドアがノックされた。
そして、30代くらいの、長袖Tシャツとジーンズの男性が入ってきて、みさきに対して言う。
「木佐さん、ちょっと手伝ってください。あとお昼のこともあります。」
みさきは、さっきからずっと会話に参加していなかったので、ちょっとほっとした感じで立ち上がる。
「そうですね、わかりました。」
みさきは、俺たちを見る。
「白平さんと田中さんは、さわらの西京焼弁当がありますが、それでいいですか?」
お魚だ。何か嬉しいな。
「ええ、それでお願いします。」
俺は言う。白平もうなずく。
「分りました、ではまた。」
みさきは、そう言って、その男と出て行った。
うちの会社にいるときと同じように、普通の派遣OLという感じだ。
「木佐さんは、本当に、良い子です。でも、彼女もそのうち、この会社からいなくなってしまいます。
ですから、私たちは、こういう女性を、いつも探し続けています。」
「どうして、いなくなってしまうのですか。ずっといてもらえば良いのに。」
俺は、自分で思うことを聞いてみた。
白平は肩をすくめる。
「そうは言っても、若い未婚の女性です。結婚したら、よほどのことがない限り、こんな会社には働かせられませんよ。」
「まぁ、それはそうですね。でも『こんな会社』ということはないでしょう。ドリームトレーディングといえば別に大丈夫じゃないですか?」
俺は疑問に思う。
白平は言う。
「まずは、うちに来ていただいている女性には、どこかでプロジェクトに参加いただくことになります。」
「言われてみれば、趣旨に賛同する人ならば、そうなんでしょうね。」
そうだな。みさきも、いつかそういうことをするんだろう。
正直、その男が羨ましいと思う。
彼女で卒業できるなら、死んでも…よくはないな。でも羨ましい。
白平がいう。
「ちなみに、女性がプロジェクトDDTの対象になれるのは、1回だけです。
つまり、この会社にいて、童貞を卒業させることができるのは、原則として、1回だけなのです。」
そうなるのか。
「どうしてですか?」
白平は言う。
「それはまぁ、想像してみてください。同じ会社に兄弟がいて欲しいですか?」
うーん。それはちょっと嫌だな。
口には出さないが、態度で伝わったようだ。
「そうでしょう。よっぽど特殊な性癖の人でない限りは、自分の大事な思い出の人が、同僚と同じと言うのは、あまり嬉しいことではありません。
それに、プロジェクトに参加する人は、ある程度の期待と覚悟を持っていらっしゃることが多いのです。」
「期待と覚悟ですか?それはなんでしょう。」
白平は、真剣な顔で言う、。
「それは、その相手と、恋人関係になることです。あるいはそのまま結婚しても良いと思うような相手と言うことです。」
「え、そんなシリアスな話なんですか?」
「もちろん、それはケースバイケースではあります。ただ、童貞の男性の中には、自分を卒業させてくれる相手と付き合いたい、と言う人は一定数います。というか、付き合いたい相手に卒業させてほしい、という根源的な欲求ですね。
もちろん、童貞卒業してから、いろんな女性と関係を持ちたいという人もいますが、もともと長いこと童貞である人ですから、自分の思い出を作ってくれた人を大事にしたいと言う気持ちはやはり強いです。」
(探すのが大変でなかなか難しいって言う理由もあるんだろうな。きっと。)と俺は内心思うが口には出さな
「ですから、女性についても、ある程度、その相手と付き合っても良いと思うような相手としかプロジェクトは組まれません。」
「そうなんですね。」
「もちろん事前に社員にはインタビューして、どんな相手が良いかと言う事は、ある程度イメージを作っておきます。
ただ、年長者の童貞喪失と言うのは、コペルニクス的転換のような話になるのです。」
おお、天動説から地動説か。あれ?それってガリレオ?まあいいや。すごい意識の変化ってことだろう。
「今まで持っていた価値観が崩壊することもよくあります。
ですから、いろいろな想定をしておく必要はあります。」
用意周到、準備万端ということだな。
白平は真剣な顔で言う。
「例えば、自分が童貞なので、相手も処女が良いと主張する人はいます。
ところが、選択肢を与えられた場合、その人たちは、必ずしも、処女を選ばないのです。」
「それはなぜですか。」
「まぁ、あまり大きな声では言えませんが、年長者の童貞がめんどくさいのと同じ位、処女もめんどくさいのです。
そのめんどくさい同士が、自分の考えや理想をぶつけ合うと、うまくいかないケースは実は多いのです。
まぁ言ってしまえば、どっちも経験がないから融通が利かない。相手の考えがよくわからない、理解できないと言うことになり、結果的に行為が失敗したり、喪失が何とかなってもその後はうまくいかなくなってしまうことがあります。
一方、経験がある女性は、男性の性癖や考えをある程度理解してくれていますから、童貞男性の、変な要求や、間違った考えを、優しく修正してくれたり、導いてくれることができるのです。もちろん、人にもよりますが。」
何か、わかるような気がするなぁ。
「ですから、童貞を卒業させてくれたその人と、一生一緒にいたいと思う人もそれなりにいるのですよ。」
「なるほど。なんとなくわかります。」
白平は続ける。
「長い人生、相手が処女であったかどうかと言うのは、それほど大きなことではありません。
言ってしまえば、自分に会う前の出来事ではないですか。その前に骨折の経験があるか、盲腸の手術をしたか、などと同じようなものですよ。
大事なのは、自分が会った後、その人とどうしたいかということなんですよ。」
そうか…。それもわかるな。
まぁ俺なんか、大魔導師になってしまったわけで、例えば、同い年の処女とか言うと、逆にめんどくさそうだ。あるいは怖い。
処女厨だとしても、40の処女と30の経験済みとどっちが良いと言われたら、ほとんどの人は後者と言うだろうな。
まぁ、それはいいや。
俺は疑問に思ったので、聞いてみる。
「どうやって、プロジェクトに参加してくれる女性を探すのですか?男を導いてくれるような風俗関係とかなのでしょうか?」
白石は言う。
「いえ、全く違います。
1番多いのは、童貞の人たちと結婚したいと思う、普通の女性なのですよ。」
え、そんな女性いるのか? 俺も童貞だけど、そんな女性まったく知らんぞ。
「童貞ばかりの会社に勤める。もしかしたら、その童貞の人たちと、うまくいくかもしれない。そうしたら、結婚まで行くかもしれない。
そう思う女性は、それなりにいるのですよ。」
え?そうなの?
白平は諭すように言う。
「童貞と言うのは、結婚したい女性からは実は引く手あまたなんです。」
え?聞いたことないぞ。経験豊富な男性が良いと言う話はよく聞くんだけど。
「もちろん、遊び相手として考えるなら、遊び方をよく知っていて、いろんなところに連れて行ってくれて、エッチもうまい、モテモテ経験豊富イケメンの方が良いのかもしれません。
しかし、将来のパートナーとなったときには、真面目な童貞と言うのは、とても有望な相手なのですよ。」
目からウロコだ。
「まぁ、そうかもしれないですね。」
俺は一応相槌を打つ。実はあまり実感がわかない
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