第21話 プロジェクト参加女性とピラニア



プロジェクトDDTへ参加する女性をどう集めるのか聞いてみ-ると、実は童貞は引く手あまただ、という意外な事実が判明した。


株式会社童貞に派遣される女性は、比較的簡単に見つかるらしい。



白平は言う。

「もちろん、全員にお願いするわけではありません。最初のうちは趣旨を伏せながら面接して、ある程度性格を見極めてから実際の話をします。


そして、スクリーニングを経て選ばれた人だけが株式会社童貞に送られるのです。」


おお、やはり選び抜かれた女性が来るのか。


「参加希望者としてお願いする場合、株式会社ドリームトレーディングへの派遣となります。


最初からプロジェクトに入ってもらう方もいますけれども、多くの人には、数ヶ月間は、ここの職場で働いていただきます。


そうすることによって、相手を見定めることができますし、マッチングの失敗を減らすことができます。まあ、疑似社内恋愛みたいなものですね。


ただ、派遣されていても、プロジェクトの対象にならない人もいます。そういう人も混ぜておくことによって、あの人とプロジェクトを組んで欲しいと言う依頼があったときに、あの人はプロジェクト対象外の人なんですよと言い訳ができます。」


そうかもな。でも、可愛い女性とかは競合が激しいだろうな。


「でも、ほかの人とうまくいったらどうするんですか?」」


「その後、別の人から指名されて、うまくいっちゃう事はもちろんあるんですけども、その時には、事情が変わったのでと説明します。まあ、断られたのはいずれバレますけどね。


基本的に、男女両方が合意してからでないと、プロジェクトは始動しません。 あ、もちろん、これは、同じ職場にいるときの話ですけどね。」」


「他のケースもあるのですか?」

俺は気になったので聞いてみた。


「はい、男性からの要望を聞いた上で、そういう女性が見つかった場合、何もなしでいきなりプロジェクトがスタートすることもあります。


まぁその場合にはお見合いみたいなものですね。釣り書きを見て、会ってみて、よければ、ことに及び、場合によっては結婚する。そういうパターンです。」


なるほど。お見合いみたいだな。ただ、結婚を前提にするのではなくて、脱童貞を前提としたおつきあい、ということだ。結婚は延長線上にあるがマストではないわけだ。


「もちろん結婚までいかない場合もありますが、脱童貞という意味では当初の目的は果たせたことになります。」


それはそうだな。もともと目的はDDTだ。



白平が、ちょっと笑いながら言う。


「なお、職場に、女性に来てもらうのには、別の意味があります。


例えば、木佐さんを含め、多くの女性は、ピラニアの役割を果たします。」


ピラニア?何か恐ろしいな。男を食っちゃうと言うことか?


「ピラニアって、いったいどんな意味なんですか?」

俺は興味を持つ。


白平が言う。

「田中さんは、金魚の運搬の話を知っていますか?」


「いいえ、よく知りません。」

俺は正直に答える。


「金魚と言うのは、弱い生き物なんです。ですから、例えば、水槽や袋に入れて、長距離輸送すると、かなりの個体が死んでしまいます。」


俺は答える。

「それはそうかもしれませんね。でにmそれに何の関係があるのでしょうか。」


白平は続ける。

「でも、水槽や袋に、一緒にピラニアを入れると、金魚は緊張して、長持ちするのです。」


「でも、一部は食べられてしまうんではないですか?」俺は疑問を持


「そうですね。でも、トータルで見たら、ピラニアに食べられる数が、元々輸送で死ぬはずだった数よりも少なければ、トータルではプラスになるのです。」


「なるほど。」


とりあえず俺は相槌を打つ。


「つまり、職場に女性の目があることで、童貞たちは緊張して、しっかり働くのです。

男ばかりのむさ苦しい環境では、モチベーションが上がりにくいです。


妙齢の女性が近くにいるだけで、男たちのモチベーションは全く変わります。


特に、自分のプロジェクト対象になるかもしれないと思えるような人がいたら、童貞たちも、少しはかっこつけるようになるんですよ。」


俺は確認する。

「つまり、童貞社員たちを緊張感を持って仕事をさせるために、女性を置いておくのですね?」


「まさに、おっしゃる通りです。そういう女性たちがいることで、みんな頑張って緊張感を持って働くことができるのです。」



「ピラニアって、そういう意味だったんですね。」俺は感心する。


白平は続

「もちろん、ピラニアが、金魚を食べちゃうこともあります。


童貞に興味がある人たちの一部は、単純に童貞を食いたいという欲求を持った人がいるのです。その辺の内部の心情までは、我々はなかなか推し量ることはできません。」


俺は驚く。

「え?その場合、どうなるのですか?」


「もともと、女性に対しては、食べられるのは1匹だけですよと言ってあります。

女性たちも、それはわかっているので、むやみやたらに食べる事はありません。


ただ、気に入ってターゲットにされた場合には、もしかしたら、プロジェクトよりも前に、食べられてしまう事はあるかもしれません。


その場合、男性は、HDTに強制移籍となります。プロジェクトはもう組まれる事はありません。」


それはそうだろうな。


「でも、食べられるときには、それを納得の上で食べられてもらうことになります。一時の欲求に抗えなかったと言うのは、まぁそれはそれであることですからね。」


そうだな。目の前に、脱童貞の機会が現れたときに、プロジェクトまで待たずに、今そうしたいと思う事は絶対あるだろう。


特に、30代前半で、まだそれなりに欲求が強いと、そうなるだろうな。いわゆる、悲しい男のさがだ。


「いずれにしても、女性たちがいることで、童貞たちは緊張感を持って効率的に仕事をし、それと同時に、お互いに、自分の相手になり得るかどうかを見定めることができます。


「でも、人気は偏りそうですね?」


「まぁそうですね。例えば木佐さんには、希望者が殺到しています。

ただ、今のところ、彼女はプロジェクト提案を断っています。


まぁ、いつかは対象になるんでしょうけれどもね。」


そうか。という事は、プロジェクトの対象として、俺も申し込みはできるかもしれないと言うことだな。


でも、年齢差もあるし、速攻で断れるかもしれないな。


俺と彼女は、歳が15も離れているし、一方的に俺が彼女にお願いして、たとえ受けてもらったとしても、その先の展開がなかなか見えない。


彼女には、幸せになってほしいから、そのまま結婚につながるような相手と、マッチングできるのが一番いいんだろうな。


ドアがノックされて、みさきが弁当とお茶を持ってきた。


「では、お昼休みにしましょう。

私も、他にやることがあるので、2時に再開しましょう。」



白平は、自分の弁当とお茶を持って、出て行ってしまった。


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