第22話.みさきの過去
俺は、弁当を持ってきたみさきと二人で、株式会社童貞の会議室にいる。
「じゃぁお弁当食べましょう。」
みさきがにこにこしながら言う。
俺は、さわらの西京焼弁当、みさきは、サンドイッチとミニサラダだ。
「田中さん、大体の状況はわかりましたか?」
弁当を食べながら、みさきが聞い
「あぁ、大体説明してもらったよ。プロジェクトのことも含めてね。
まぁ、君には今更何も隠しようがないから、言ってしまえば、この会社に来ることも結構真剣に考えてるよ。
もちろん待遇のこともあるし、プロジェクトだってとても魅力的だもの。」
俺は正直に言う。
「田中さんは、結婚したいですか?それとも脱童貞の後は遊びたいですか?」
「うーん。今まで脱童貞のことを考えたことがなかったからなあ。その後なんてなおさらだよ。
結婚にしても自分は関係ないと思っていたよ。」
俺は正直に言う。
「ただ、さっき聞いたんだけど、プロジェクトに参加したら、結構その相手と結婚することも多いらしいね。だとすると、僕もプロジェクトに参加して、その相手との結婚を真剣に考えるんじゃないかな。」
俺は正直に答えた。
。
みさきは言う。
「なるほど。やはり田中さんは、誠実な童貞なんですね。「
「誠実かどうかはわからないけれども、その辺を含めて、お互いに納得ができて初めてすることだと思ってるよ。」
みさきは微笑んだ。
「田中さんには、素敵な出会いが絶対ありますよ。」
「ありがとう。そうなるといいな。」
俺は本心から思って言う。
「ところで、こんなこと聞いていいのかわからないんだけど、君はどうして、この株式会社童貞に関わることになったんだい?
みさきは、ちょっと考えてから言った。
「今から言う事は、本当は、男性には言ってはいけないことなんですが、田中さんには、言っておきますね。他の人には、絶対に言わないでくださいね。」
「お、おう。」。
みさきは語り始めた。
「1つは、人助けのためですね。童貞さんたちを助ける。これも立派な人助けだと思います。プロジェクトとは関係なく、頑張ってる人をサポートするのは私は好きです。」
なるほど。いつも会社でもいろいろやってくれてるもんな。本当にありがたいな。
みさきは、何かを決意したように続ける。
「あと、もう一つは、正直なところ、お金ですね。」
「え?お金?」
「はい、プロジェクトを完了した女性には、将来お金が払われることが約束されます。
もちろん、売春とかにならないように、ちゃんと契約とかがまとまっています。」
みさきは続ける。
「私は、父が早く亡くなり、母が、女手一つで私たちを育ててくれました。妹もいたので、私は高卒で就職したんです。少しでも、家計にプラスになるようにと思いました。」
そうだったんだ。大変だったんだな。
「でも、高卒の女の子の給料では、なかなか苦しかったです。そこで、奨学金をもらいながら、夜間の専門学校で勉強して秘書検定を取りました。
それで転職して給料が上がったんですが、いろいろあって、派遣になりました。
そんな時に、株式会社童貞の話を聞いたんです。ちょうど母の具合が悪くなり、私としても、家計を助けるためには、手っ取り早くお金になるこの会社に来ることにしたんです。
それだけですよ。」
うーん。重い話だ。
「ただ、母からは、母のために自分の幸せを犠牲にしてはいけないと強く言われています。そんなつもりもないんですけれども、母からはそう見えるのでしょう。
もちろん、株式会社童貞の話はしていませんが、私が家に入れるお金が増えているので、私が無理しているのだと母は思っているようです。」
「お母さんの立場なら、そうだろうね。」
「実際、少しだけ無理はしています。会社の掛け持ちは結構大変なんですよ。それと、母の通院にも付き添っているんです。」
俺は思う。
お母さんの通院に付き添っているから、週に2日しか来れないと。もともと聞いていたし、そこはまぁそんなものなんだろう。
みさきは言う。
「母は、今、小康状態ですし、プロジェクト参加を急ぐ必要は無いんです。
プロジェクトの相手と結婚できれば、それはそれで幸せかもしれませんしね。」
「君の幸せは、君自身が選んで決めることだよね。というか、君が選んだものを正解にして、幸せになっていくことが大事だよ。」
俺は言う。ちょっと臭いセリフかな
「ありがとうございます。プロジェクトに参加しないでやめてしまうと、さっき言ったお金が払われないので、プロジェクトには参加しようと思っています。それで、母の医療費が出れば、それでいいんじゃないでしょうか。」
俺は言う。
「でも、君が幸せになれるのかい?」
「わかりません。でも、母には恩返しができると思っています。
変な話ですけど、童貞君をハッピーにさせる位の経験は、嫌でも積んできてしまいましたし。」
みさきは、ちょっと寂しそうに笑う。
俺は、何も言えなかった。
みさきは続ける。
「私、秘書検定をとって、ある会社の役員の秘書に転職したんです。
そうしたら、中でいろいろいじめられたんです。」
まあ、若くてかわいくて巨乳で仕事ができる子が来たら、先輩たちはひがむよなあ。
やっぱり女は怖い。
「そんな時、優しい役員さんがかばってくれました。でも、その役員さんも、結局は私の体目当てだったんです。
断りようがない状況で、私は、その人に体を任すことになってしまいました。
それからは、給料とは別にお手当てがもらえるようになり、家に入れるお金も増え、奨学金も返せたし、貯金も始めました。
でも、私の存在が、その役員さんの奥様にばれて、役員さんからは、手切れ金を受け取って、私はその会社を辞めて派遣に登録しました。」
何ということだ。俺は声も出ない。
「その頃、母の具合が悪くなったので、その医療費と、それから妹の大学の学費を4年分、私が払いました。
私が高卒で苦労したので、妹には大学に行かせてあげたかったんです。そうしたら、結局、もらった手切れ金もなくなり、母も病気なので、家計を1人で支える生活を続けざるを得ないんです。
そんな時に、株式会社童貞の話を聞きました。人助けになって、お金になるなら、いいんじゃないかと思って、了承したんです。私は、この程度の女なんですよ。」
俺は、聞いていて、思わず涙ぐんでしまった。
こんないい子が、何て苦労をしているんだ。
「僕にできることって何かあるかい?出来る限り協力するよ。」
俺は柄にもなく、そんなことを彼女に言ってしまった。
みさきはちょっと笑って言う。
「田中さん、軽々しくそういうことを口にしてはいけませんよ。女は平気で嘘をつく生き物です。
私が、田中さんのお金目当てだったらどうします?
ちょっと気を許すと、骨までしゃぶられてしまいますよ。」
最後はおどけた感じで笑う。やっぱりこの子は笑顔が似合うな。
でも、骨までの前はどこを…いや、やめておこう。
「湿っぽい話になってしまってごめんなさいね。私は大丈夫です。田中さんは、まず田中さんがどうしたいかと言うことを考えるのが大切ですよね。」
言われてしまった。自分のことを決められてないのに他人の心配なんかするなってことだな。
「この会社に来るにしても、来ないにしても、田中さん自身がどうしたいか、将来を含めて、じっくり考えて結論を出してくださいね。私は、田中さんを応援してますよ。」
励ますつもりが、逆に励まされてしまった。
本当にいい子だな。俺が彼女を幸せにするなんておこがましい事は言えないが、彼女には、幸せになって欲しいな。
みさきは、弁当を片付けて、部屋を出て行った。その後、俺は今後のことを考えていた。
まだまだ結論は出ない。
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