第23話 . 衝撃の書類




俺は、みさきの過去のことを聞いて、ちょっと呆然としてしまっていた。

こんな可愛い子にも、そんな苦労があるんだな。



1時半に、白平が戻ってきた。

「ちょっと早いですが、今からよろしいですか?」


白平が聞く。


「お渡しするものがあるんです。」


白平が、大きな封筒を差し出す


「これは?」

俺が尋ねると、白平は言う。


「2セット入っています。中をご覧ください。」


見ると、「知的財産評価書」と言うタイトルの書類と、「職務発明における、従業たる発明者の待遇に関する考察」とある。


何やら物々しいな


白平は言う。

「最初の書類は、あなたの開発した、『さややか業務システム』の価値算定評価額、それからあなたのその評価額に対する貢献度が記されています。


後者は、弁護士事務所のペーパーで、一般的な職務発明で受け取るべき発明者の対価と、それから受け取れないときの、手続きについて書かれています。


という事は?


[あなたは、今の会社で、正当に扱われていないのです。すなわち、搾取されています。

あなたは、それに気がついていない。


もし、あなたが今の会社を辞めるとしたら、今までの貢献、あるいは今後の職務発明について、正式に、権利関係を明らかにした方が良いでしょう。」



そんなことできるのかな?


白平は続ける。


「必要ならば、訴訟もお手伝いします。私たちには、その用意があります。


まずは、お時間を差し上げますので、これらの書類をご覧ください。」


俺は、最初の書類を見て、非常に驚いた。「さわやか業務システム」の評価額というのが、とんでもないことになっているのだ。


俺としては、部長にしてもらって、数百万円ぐらい収入が上がったから、そんなものかなと思っていたのだが、


この書類によれば、俺が受け取るべき金額、少なくとも俺が貢献した金額と言うのは、最低でも5億、最大20億円と言うのだ。


ちょっと頭がクラクラする。あまりに、自分と縁がない数字で、実感もわからない。


5億?それだけあれば、正直一生暮らしていけるだろう。


2つ目の書類は、職務発明として、俺のソフトウェア開発の貢献度を評価してきもの。そして、その対価を受け取るために、どのような手続きが必要かということだった。


簡単に言えば、会社との話し合い。それが不調に終われば、訴訟と言うことだ。訴訟になれば、こういう問題に慣れた腕利きの弁護士がつくと言うことだろう。


これらを主張すれば、当然、会社とは対立することになるな。


そうしたら、どっちにしても辞めるしかないだろう。そして、会社とこのお金をめぐって争う。


株式会社童貞に入れば、そういうところもサポートしてくれるわけだ。


入らないで会社と争いになった場合には、自腹で訴訟だな。それはそれで出費もかかるし、かなり、大変になりそうな気がする。


1時間位して、白平が部屋に入ってきた。


「いかがですか?」


俺は正直なことを言う。


「とても驚きました。お金に執着するつもりはありませんが、でも、こんなに搾取されていると言うことを見せられると、いろいろ考えるものがありますね。」


白平も答える。

「そうでしょうね。今すぐに結論を出せとは言いません。


ただ、この資料を差し上げますので、会社とお話しになるのも構いませんよ。」


全てお膳立てして、この会社に入るように仕向けるのかな?俺はちょっと思った。


「でも、あなたにこの会社に入れと強要はしません。


今回は、私たちがあなたをスカウトしているのですから、その際に見せる誠意の一部ですよ。


ノーならノーで,それもあなたの人生です。


独身童貞、大魔道士、そのまま社畜で過ごすのも1つの選択肢ですよ。」


白平は、ニコニコしながら、なかなか厳しいことを言う。


「分りました。いずれにしても、考えさせてください。」


白平が言う。

「今日は、私からのお話はこれでおしまいです。何かご質問はありますか?」


「今は思いつきません。」俺は答える。


「では、今日はお帰り下さい。せっかくの連休の初日を使ってしまい申し訳ありませんでした。もし何かあれば、いつでも私に電話をしてください。


ただ、会社で、木佐さんに、必要以上に話しかけないでくださいね。


外で、あまり株式会社童貞の話をしてほしくないですし、また、彼女も、すべてのことを知っているわけではありません。あくまで協力者ですから。」

白平は釘をさす。


「わかりました。では俺はこれで。」


そう答え、俺はエレベーターに乗った。


外へ出ると、ゴールデンウィークの初日と言うこともあり、強い日差しながらも、乾燥していて、それなりに過ごしやすい感じだった。


俺は、考え事をしながら、歩きたい気分になった。


人がまばらなオフィス街を歩き、ちょと離れた駅から、電車に乗って、デパートへ向かった。


連休初日のデパートは、人でごった返している。俺は、スイーツのコーナーへ行ったが、何が適当なものなのか、さっぱりわからない。洋菓子より、むしろ日持ちがする、せんべいや羊羹のほうがいいだろうか?


社長に関しては、あられとかせんべいかな?でも塩分を気にしていたな。その一方で、甘いものをバクバク食べていて、ちょっと太ってきた感じだ。


甘いものも、しょっぱいものもダメだとすると、手土産がないぞ。


意外に、手土産は難しい。


佐藤さんへの手土産も考えなければならないな。彼女は一人暮らしだから、たくさん持っていっても仕方がない。


それなりに日持ちがして、量が少ないけど、単価が高いものの方がいいかもしれないな。


いろいろ考えて、結局、社長に対しては、甘さ控えのクッキーの詰め合わせにした。ご家族もいるだろうから、何とかなるだろう。


佐藤さんのほうは、女性誌で人気ランキング一位と言うポップが立ててあったチョコレートの詰め合わせにした。



まさか、チョコレート1粒で1000円するものがあるとは思わなかった。うまい棒が1箱買えるぞ。


いや、そんな発想をするところ自体が、貧乏性だな。どうせなら、チロルチョコかホームランバーか、あるいは奮発して、ブラックサンダーか。


今更ながらに、自分のお菓子に対する、知識のなさに、呆然然としてしまう。


だったら、こんなチョコレート4つより、ビックリマンチョコの詰め合わせとか、の方が、よっぽど嬉しいんだけどな。


彼女は、雑誌の編集ということで、最新のトレンドまで追っかけているだろうから、とりあえず人気のものにしておけば、知っているだろうし、大丈夫だろう。


俺は、手土産を持って、マンションに戻る。


今回は佐藤さんには出くわさなかった。まだ会社かな? ほっとしたような寂しいような気がする。


意外に、佐藤さんとのコミュニケーションは、自分にとって、大切なものになってきているのかな?俺はそんなことを思った。


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