第8話 謎の占い師


定時に仕事を終え、ちょっと部員たちと立ち話をしてから、ビルを出る。


すると、「田中部長!」

と言う声が聞こえた。見ると、30代後半の契約社員、海野美羽だった。


「海野さん、どうしたんだい。積み残しの仕事があったのかな?」


と、白々しく聞くと


「いえ、たまたまですよ。せっかくここでお会いしたんです。一緒に飲みに行きませんか?なかなかおいしい焼き鳥屋さんがあるんです。」


多分、偶然と言うのは嘘だ。彼女は、定時とともに姿を消すのが普通だ。多分、俺を待ち伏せていたのだろう。だが断る。


「いや、気持ちは嬉しいけど、前にも言った通り、行くんだったらみんなで行くよ。」



彼女はめげずに、

「今日は仕事抜きで、お話ししましょうよ。悩みもあるんです。部長に相談したくて。」


うん、多分悩みといっても、ろくでもないものだろう。


社内の三股のうち一つが消えたので、次を探してるとか、そんな類のことではないのかな。


「仕事の事だったら、君の上司の課長と一緒に聞くよ。プライベートであれば、僕は相談に乗れないよ。申し訳ないけどね。」


俺はそう言って、そそくさと駅へ走る。追いかけられていたらまずいので、いつも乗る電車と反対の方向の電車に乗り、途中で乗り換えて遠回りしてマンションへ戻ることにした。



どうせなら、夜も食べて帰ろう。そう思った俺は、途中の駅で降りて、食事に向いた店を探す。


繁華街を歩いていると、「そこの方(かた)、何かお悩みですか?」


と言う声がかかった。女性の声なので、ちょっといぶかってそちらを見る。


すると、最近ではちょっと珍しい、占い師が机を出して座っていた。


「奇蹟の占い 愛,仕事、金運その他あらゆう将来を占います。」


と書いてある。テーブルの上に水晶玉が置いてあって、多分その中を見て運命を占うのかな?黒いフードをかぶっているので、女性であること以外はわからなかった。


(占いか。ちょうどいい、転職について占ってもらおうかな。)


見ると、「見料 基本二千円、詳細五千円から」

と書いてある。

ちょっ怖いが、一般的なものならいいだろうな。


俺は「じゃぁ、転職を考えているので、一般的なことを占ってください。」と言う。


彼女はうなずいて、俺に言う。


「この水晶玉の上に手を置いて、あなたが聞きたいことを口にしてみてください。」


なんだか、ラノベの魔力測定みたいだ。などと益体もないことを考えながら、俺は手を乗せる。

そして言う。「転職を考えています。良いかどうかを占ってください。」


水晶玉が、一瞬光った気がした。まぁ、どうせ、何かの演出だろう。俺はあまり気にしなかった


黒フードの女性は、水晶玉をじっと見て俺に言う。

「一般的なお話でしたね。では2000円お願いします。」 

前払いか。しっかりしてるな。


まぁ、こんな商売って、踏み倒すやつ多そうだしな。


俺は2000円を支払った。彼女は俺に対して言う。 

「女難の相が出ています。お気をつけください。」


は? ジョナン? ファミレスの?それはジョナサンだと自分で突っ込んでから、彼女に聞いた。「なんですか?それは? 転職のことを聞いたんですが。」


占い師の女性は下を向いたまま言った。


「文字通り、女性に関する、トラブルですね。」


「俺は、転職のことを聞いてるんですが?」

と俺が言うと


「2000円ではここまでです。」

と彼女が答える。


なんだ、この中途半端な結果は。


「すいません、もっと詳細を聞きたいので、詳細コースに変更してください。」


と言うと、彼女は、


「いや、調べ直しになるので、5000円になります。」と言う。


俺はちょっと腹が立ったが、まぁ乗り掛かった船だ。


それに、さっきの海野の誘いに乗って飲みに行けば、一万円とかではすまなかっただろうしな。


ということで、俺はもう5000円を支払って、再度、CC様に手を乗せた。


「ぜひとも、女難の相について、もっと詳しく教えてください。」


また、水晶玉が光った。彼女は、それを覗き込んで、ちょっと驚いた感じだった。


「女難と仕事、どっちにしますか?」


もったいをつけるなよ「全部教えてくれるんじゃないのですか?」


と言うと、彼女は

「五千円だと、片方しか答えられません。両方について答えようとすると、一万円になります。どうしますか?」


人の足元を見た商売だな。あこぎだ。


俺はもう半分自暴自棄になりまして、彼女にににもう五千円札を渡した。


「両方お願いします。」


彼女は金をしまうと、再度水晶玉を覗き込み、その後俺に伝えた。


「まず、女難の相ですね。あなたの周りを、4個、いえ5個の星が取り巻いています。赤い星、暗い星、澄んだ星、濁った星、白い星。その5つです。それらが全て女性を表していますね。あなたは5人の女性と何らか関係、またはトラブルを経験することになるでしょう。」


おいおい、五つ星の女難だって?高級ホテルやレストランじゃないんだから。


「それは一体誰とですか?」

俺は聞く。


「そこまでは占いではわかりません。ただ言える事は、この5つの星は、あなたが知っている星、あるいはすぐに知ることになる星であると言うことだけですね。

」 

知り合いの女性とトラブルか、勘弁してほしいな。


「ちなみに、転職のほうはどうなんですか。」「



そう聞くと、彼女は、


「転職の良し悪しは、その5つの星との関係性で決まるようです。つまり、あなたに起きる出来事を、どのように対処するかによって、転職の成否が決まるようです。」


彼女は続ける。


「まずは、自分なりにトラブルを、うまく乗り越えてください。転職については、それからで良いでしょう。」


うーん。一万二千円払った結果がこれか。


「何か、気をつける事はありますか?」

と聞くと、彼女は言った


「トラブルは、逃げても避けても追いかけてきます。正面から対処するよう心がけてください。」


わかったようなわからないような話だった。一般的なことを言ってなんとなくそれっぽく収めているだけかもしれないな。でも五人の女性? まぁいいや。


「とりあえず女性には気をつけます。まさかあなたも星では無いですよね?」


と一応釘をさすと、


「私はあなた星にはなっていません。」

と答えた。それはそうだろうな。


彼女が顔を上げ、顔がちらっと見えた。・

妙齢の、整った感じの美女だった。ただし、少し生活に疲れているようにも見えた。


俺はとりあえず礼を言って歩き出す。



ちょっと行ったところで、全員と会うのはいつ頃になるのか聞こうとして、振り返ってみた。


彼女の姿はもう、どこにもなかった。机も無かった。


あれは幻だったのだろうか?


俺が財布を調べると、ちゃんと1万2千円減っていた。


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