第9話 同伴営業
帰り道、占い師の言葉を反芻する。
「女難の相ねえ…。転職もそれ次第ってか。」]
あまりピンと来なかったが,まあ占いだし,話半分に聞いておけばいいか。
俺はそのままマンションに帰った。
ちょっと小腹がすいたな。
考えてみると,結局夕食を食べてなかった。
また外出する気力はなかったので、レトルトカレーとパックのご飯をあたためる。
部屋は静かだ。
こう言う時,誰かと話しながら飯を食いたいな、と思った・
たわいない話をしながら、のんびり過ごす。
あれ、なんだかセンチメンタルな気持ちになってるな。
女難だとか言われる割に、何を考えているんだろうな…。
メッセージが入ってきた。見ると、佐藤彼方からだった。
今は8時半
「こんんばんは。足はもうだいぶ良くなりました。
仕事のほうはゴールデンウィーク進行なので、なかなかバタバタしておりますが、連休になれば、一息つけます。」
二通目だ。
「よろしければ、今度の3連休のどこかで、お礼に食事でもいかがですか?」
佐藤さんからのお誘いだ。もしかしてまだ仕事してるのかな?そういえばゴールデンウィークだ。今週末に3連休があり、3日出社すると4連休になる。
特に予定もなかったので、一応カレンダー通りの出社としている。メーカーなんかだと、間も休みにしちゃって、十連休とかになったりするんだが、当社はそういう事はなかった。
俺は返事を出す。
「もしかして、まだお仕事ですか?大変ですね。あまりご無理をなさらないでください。足も完全ではないでしょうから。
3連休は、できれば3日目が嬉しいです」
そう書いて送った
どうせ連休には予定が決まっていないのでいつでもいいのだが、彼女も最初はちゃんと休みたいだろうし、食事だけなら、連休の最終日でも、それほどお互いに負担は無いだろう。
彼女からすぐ返事が来た。
「ありがとうございます。ちょうど1週間後ですね。
では、その日は空けておいてください。よろしくお願いします。あと、よろしければLINEに変えませんか?」
その後、QRコードが送られてきた
俺も別に異存はないので、LINEに彼女のQRを登録する。会社の携帯は、セキュリティーの関係もあって、LINEは使っていないので、これは個人のスマホだ。
彼女のQRコードでアドレスを登録して、「田中です」とLINEを送り、スタンプも送った。
ちなみにスタンプは、「田中です」と書いてあり、文字が揺れるものだ。
それを見た友人が、「お前のセンスはわからん。変な奴だなぁ」と言っていたが、これが俺の美意識だ。
佐藤さんからすぐに返事が返ってきた。
「田中さん、意外にお茶目でもあるんですね。驚きました。」
と書いてあって、何かよくわからない。キャラクターが驚いているスタンプが送られてきた。
キャラクターは何だか知らないし、これ突っ込むのはやめておこう。
俺は、「お仕事頑張ってください」と1行だけ書いて送った。
彼女からは「合点」と言って、力こぶだけが書かれたスタンプが送られてきた。彼女の方がよっぽどお茶目だろう。
月曜だし、ゆっくり入浴して寝ることにした。
翌日は火曜日だ。
約束通り、俺は、佐巻部長と 司君とともに、目的の会社、カワダッシュ株式会社を訪問する。
相手先へ向かう途中で話を聞く。
この会社は、社員300人位で、都内のあちこちで、イベントの裏方をやっているそうだ。
裏方と言うのは、例えば受付や音響設備の設営とか、警備や交通整理の手配とか、いろいろ細々とした雑用の手配をする会社らしい。
外注も使うし、いくつも同時進行のプロジェクトが走っている。秋なんかは同じ週末に集中することも多いようだ。
正直なところ、俺の作った、「さわやか業務システム」にぴったりだと思った。これは特にこのソフトを売りたいからではなく、こんな会社に使って欲しいと思っていたのだ。
会社に到着する。;
自社ビルなのか、住宅街と工場集積地の中間くらいにある3階建てのビルだった。
駐車場には軽トラやバンなどが並んでいる。
美人受付嬢二人が出迎えてくれる。
司くんは鼻の下を伸ばしている。
「こういう会社の受付って、半分くらいは社長の愛人だから、。下手に手を出すんじゃないぞ。」俺は小声で司くんを注意する。
彼はびっくりした顔をしている。そんな事は考えもつかなったようだ。
ふふふ。人生経験が違うからな。 雑魚とは違うのだよ。雑魚とは。
ま、あっちの経験はない、未使用だが(笑)。
応接室に通される。
部屋にはなぜかチーターの人形が飾ってある。
走れ、ということかな?
司君が説明してくれ
「今日は、社長と、社長の親戚らしい、IT担当の女性のお二人です。
ワンマン企業なので、決定は早いと思います。他社と競合しているそうですが、今日は、自社開発しているうちのシステムの、開発者からその思いを聞きたいということでした。
田中さん、ぜひよろしくお願いします。」
司君は俺に頭を下げた。
ドアが三回ノックされ、お盆にペットを乗せて、スーツ姿の女性が入ってきた。
俺は、彼女を見て、驚いた。
「…和香。」
小さい声でつぶやいた。
そう。その女性は、13年位前に、結婚すると言って俺の前から消えた、川田和香だった。
彼女は、2人とは面識があるらしく、俺にだけ名刺を出してきた
「どうもお久しぶりです。」そう言って、いたずらっぽく笑う。
俺も、平気な顔を装いながら、「ご無沙汰してます、川田さん。いや、後藤さんでしたね。田中です。よろしくお願いします。」
俺もそう言って、名刺を差し出す。
」
彼女は、俺の名刺を先に受け取り、改めて「川田です。」
と言って名刺を差し出してきた。
川田?旧姓を使っているのかな?
まぁ、ビジネスネームとして女性が結婚前の苗字を使うことも多いしな。まあ、それでも不都合があるので経団連が要望を最近出していたな。
ほどなく社長も入ってきた。60近いだろうか。白髪はあるが、まだまだ元気だぞという感じの社長だ。背は低いが、恰幅が良く、堂々としている、口八丁手八丁で世の中を渡ってきたという感じだ。
俺は、社長にご挨拶する。
「『さわやか業務システム』を開発した、田中と申します。本日はよろしくお願いします。」
そういって名刺を出すと、
「川田です。よろしくお願いします。」と言って名刺を出してくれる。
『代表取締役社長 川田 修造』なるほど。それでカワダッシュなんだな。
「ああ、よろしく頼みます。」と言って、社長は俺の名刺を受け取ると、我々に席を勧めた
商談を始める前に社長の方から、自分の会社について田中さんに説明したい、と言ってきた。
こちらがお願いしたいくらいだったので、喜んでお願いする。実は佐巻部長と司くんは何度も聞いているようだが。
会社の設立から、多くの苦難を乗り越えて、今に至るまでの20年間を説明してもらう。
波瀾万丈なところを乗り越えてきたんだな、という気持ちを改めて抱く。
そして社長は言う。
「細かいところは私にはよくわかりません。 そこは、こちらの和香に任せてます。
こいつは出戻りですが、なかなか優秀でね。
私は、田中さんの思いを聞かせてもらええばそれでいいですよ。」
」「
そうか。和香は出戻りか。
離婚して、川田和香に戻ったんだな。
さすがに十三年も経つと、若々しさは少し減っている。
だが、その分大人の女性の色気を感じる。
和香が、俺のことをじっと見る。
俺はどぎまぎした。
昔、好きなのに告白できなかった女性が、目の前にいる。
俺の心臓の鼓動が速くなった。
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