第10話 サルと猿回し
俺は、営業に来たカワダッシュという会社で、昔好きだったのに結婚してしまった課wだった女性、川田和香と再会し、心の中は穏やかではなった。
今北産業でいえば
営業先
相手は社長ともう一人
昔好きなった女
こんなところか。
社長の「カワダッシュ・波乱万丈の成長物語」とでもいうような話が終わった。
俺の出番だ。自分のすべきことをしよう。
,佐巻部長に促され,俺は社長に向き直る。
どうせ、やめるかもしれない会社だ。本園をぶっちゃけよう。
俺は腹を決めて語り始めた。
「どんな会社にも、あまり能力の高くない人はいると思います。」
なかなか問題のある一言で始める。
「まともに報告ができない。言ったことをちゃんとできない。進捗を管理できていない。
何をやらなきゃいけないかを把握していない。問題が起こっても報告しないで自分で抱え込む。」
この辺は事実だからいくらでも言える。
「でも調べないので対処方法に見当がつかない。
その人間のやるべきことがやられていなかったために、そこがクリティカルパスになって、全体が進まない。そういう事はよくあると思います。
私のチームにもそういう奴がいて、私はとても困りました。」」
社長がさっきからうなずきっぱなしだ。和香が呆れて眺めている。
うちの佐巻部長ははらはらした感じで見ている。司くんはぼおっとしている。
皆違う反応だ。まあいい。サルが、自分がサルであることに気づいていないが。
一呼吸おいて続ける。
「そこで私は彼に『これとこれとこれとこれをやっとけ などと言って結局覚えられない。
何度も指示しましたでも改善しない。
聞くのはその日だけ。翌日からはもとの黙阿弥です。
何度も説教しました。すると、その時は反省するのですが、改善しない。
社長が、野球選手の首が動くボブルヘッド人形のようにうなずいている。
「反省しても改善しない。そうです。『反省だけなら、猿でもできる。』のです。」
みんなの頭に、たぶん反省するサルの姿が浮かんだだろう。
俺は続ける。
「そこで私は気づきました。
こいつはサルだ。なら、自分が猿回し、と思ったらどうだろうかと。
自分に必要なのは、猿回しの道具だ。ヒモだったり太鼓だったり餌だったりね。」
社長は感動で目にうっすら涙さえ浮かべている。
「この猿を調教して、できることをやらせればいいんじゃないかと。木登りが得意だったり、綱渡りがうまいサルもいる。
でも、ほかのサルができることは、だいたいが下手でも何とかなる。
サルとして最低限できることはやらせる。それでいいんだ。とね。」
それで、私は決めました。
猿回しになるなら、それにふさわしい道具を作ろうと。
もちろん、大本の道具を作るのは人間です。そしてそれを入力して使うのが、猿回し、あるいは調教師です。 調教師の命令で動くのサル、つまりあまり使えない正社員たちです。」
ひどいことを言っているような気がするのだが、社長が感動しているからいいんだろう。
「その後、試行錯錯誤の結果、生まれたのがこの『さわやか業務システム』です
もともとチーム内で問題児の管理をするために作ったものです。
その馬鹿に、これとこれとこれをやって、やったことをチェックしろと毎日指示しました
それがルーティーンになれば、彼でもできるようになりました。それが始まりです。
私のチームがうまく回るようになったのを見て、部のほかのチームでも使わせてくれと言われました。了解すると、そのうちに全社に広がりました。
そして外販に至るのです。」
俺はゆっくりと社長を見た。
「正直、このシステムは、高度なものではありません。
このシステムより機能が多いソフトはいくらでもあります。
その代わり、そんなに賢くなくてもいい、普通の猿回しがふつうに使えるのです。
難しい機能、面倒な操作はなくした、いわゆるローコード、ノーコードソフトです。
猿回しに必要な機能はだいたい盛り込んでます。
猿回しは使いたい機能を選び、データを入れるだけ。簡単に直感的に使えるようにしました。
猿を管理するのに、スーパーコンピューターはいりません。
伝統的な猿回しは太鼓と言葉で指示していますよね、。
それをシステムでやらせただけです。
サルよりちょっと賢い猿回しがサルを調教できるようなシステムです。
高度な機能はありませんが、簡単に最低限のことをするのは遠く居なのです。
つまり「サルが使えて、サル回しがある程度作れる」システムを目指しました。
「
これが、まったく嘘偽りのない、私の開発の基本方針です。」
俺は一礼した。
社長が拍手してくれる。つられて和香も拍手していた。
うちのサル、いや司くんは拍手していたが、佐巻部長は拍手しなかった。
「こんな話は初めてしました。
職場でいろいろあって、そろそろこの会社も疲れたので、違うところに行こうか、と思い始めました。
そう思う7ようになると無敵です。何をしても大丈夫です。」
川田社長が、ゆっくりと顔を上げる。
「君は、今の会社に未練がなくなった?」
「それは、まだわかりません。
ただ、私がいなくても、このソフトはそこそこ使えます。作れなくても修正できます。」
「おい、不穏なことは言わないでくれよ。本日はありがとうございました。」
見かねた佐巻部長が、横から強引に話を終わらせる。
エレベーターホールに向かうところで、
帰りのタクシーで、司くんは」サルとサル回しの話、感動しました!」などと言っている。
「司くん、この会社に訪問した経緯はなんだっけ?」
俺はすっとぼけて聞く。
「川田社長から、開発者のどうのとか言われて困ってしまい、上司の玉木部長に相談したんです。その結果そうなりました。」
おいおい、佐巻部長がいろいろ尽力してくれたことは理解しているのか?、、てもらった
まあ、サルが上司に相談し、上司が俺に頼んできた。
いい上司だな。そしてちゃんと報告ができるいいサル、いや部下。
そしてそれをかなえる素晴らしい「さわやか業務システム」だな。
すべてがうまくかみ合っている。このシステム、やっぱり使えるよな。開発者のひいきでなくても。
エレベーターホールに向かいながら、和香が聞いてきた。
「携帯は前と一緒?今度連絡するから。」
「ああ。変わってないよ。まあ、わからなければ名刺の携帯に連絡してくれればいい。」
俺はそう答えた。・
佐巻部長は、帰り道で「好き勝手言ってくれたな。まあ、受けたからいいけど。あとのフォローはこっちでやるから。」と言った。、
まあ、営業の仕事に俺がかかわったと知られると、彼も面白くないだろう。
司君が聞いてくる。「IT担当のほうの川田さんとはお合いだったんですか?}」
「あぁ。大学の時の同学年です。会うのは十数年ぶりですが。」と答えた。
会社に戻るともう5時半だ。本日のやったことをシステムに入力し、、公開する。
あとはメンバーの日報だが、明日見ることでいいだろう。・
重要案件であれば先に課長から報告がくるのだ。
仕事が終わり、俺は電車に乗った。揺れる中で何とかスマホをつけると、登録のないの?番号から電話がかかっていて留守番電話へつながったようだ。
再生すると、やはり川田和香からだった。。
「もしもし、田中くん?今日はありがとう。用事があるので、電話ください。」」
うーん。競合の話かなあ。あまり聞きたくないんだkど。
できればあまり聞きたくないけどな。
心の準備をしてから、和香に電話してみた。
和香はすぐに出た。
「あ、田中君、電話ありがと。」
「何か用事かい?」俺は聞いた。
「あ、うん。そうなんだけどね。」
和香はワンテンポ置いてから言う。
「来てくれて、今日はありがとう。助かったわ。きのうお願いして今日来てもらえるなんてすごいよ。いやすごいです。」
」
「ありがとう。それで、本題はなんだい>?」俺が聞く。
「ねえ、今夜は空いてる? 良かったら、久々にこれから飲まない? 当社の予さんでご馳走するわよ。」
俺は答える。
「ええ?そっちで払ってもいいのかい?本来は当社から接待するもんだろ。まあ、俺は交際費ほとんど無いから、今日はそちらの誘いに乗りたいね。」
「もったいぶらずにうんと言えばいいのに。」彼女は呆れた声で言う。
「まあ、いいや。どうすれば?」
俺は聞く。
「今送る。」とだけ書いてあった。
その後すぐ、SMSで店のリンクが送られてきた。
あまり遠くにあ。
俺は、そちらへ行く気になった。
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