第31話. 鳴る鳴る、電話

よし、行くしかない。今度こそ卒業だ。

相手が和香なら、文句はない。


というより、願ってもないチャンスが。

今度こそ、卒業だ!


頭も体も臨戦体制になったと思ったら、いきなり電話がかかってきた。


ミュートやマナーモードにするのを忘れていたので、大きく音がする。見ると、爽香さんだ。


これは社長がらみだな。さすがに出ないとまずいかな。でも和香に悪いかな


「出てもいいよ。」

また読まれたらしい。


俺は、とりあえず急いで電話に出る。

「田中です。」


「爽香です。父と話しました。そちらは何とかなりそうですが、いずれにしてもお話があります。明日の晩お時間取っていただけますか。」



、さすがに断るわけにはいかない。俺の今後のキャリアを左右しかねない問題だしな。


「かりました。では明日、ご指定いただいたらそちらに伺います。」


すると、爽香さんが言う。

「田中さん、女性と一緒ですか?」


なんでわかるんだ。まさか、声色でわかるのか?そんなはずないよね。

ありえないよね…たぶん。


「田中さんって、わかりやすいんですよ。女性と一緒だから、この電話早く切りたいなぁって言う雰囲気がものすごく伝わってきます。」


なんだそれは。そこまでだったのか俺は


「早まらないでくださいね。何かするなら、私のお話を聞いていただいてからでも遅くはないと思いますよ。」


どこまで見透かされてるんだろう。いずれにしても、長いこと電話するわけにはいかない。


「わかりました。では明日。」


そう言って電話を切った。


和香が、ジト目で俺を見ている。これはちょっとまずいな。雰囲気が壊れてしまった。どう立て直そうか。


そう思った時、また電話が鳴った。今度は、佐藤さんだ。


やっと、佐藤さんと話す機会ができる。


さすがに再度和香から了解を取る必要もないだろう。

俺は電話に出る。


「はい、田中です」


「佐藤です。この前のお話、ちゃんと聞かせていただけますか?

このまま放置と言うのは、やはりお互い良くないと思うんです。」


俺は安堵した。言い訳の機会ができたからだ。

いや、言い訳ではない。説明の機会だな。


「ありがとうございます。明後日の晩はいかがでしょう?外で構いませんよ。」


外で合うというのは言っておいたほうがいいだろう。


下手に部屋の中に入ると、この前のことを思い出してしまうし、話の途中で妙な雰囲気になっても、ろくな結果にならないと思う。


「そうですね。では、場所と時間は後でメッセージに送っておきますので、よろしくお願いします。必ず来てくださいね。」


「わかりました。ではその時に。」


「あ、田中さん、早まらないでくださいね!それでは!」


電話が切れた。


早まるなって何だよ…。



さすがにこれ以上何か電話がかかってきても困るので、俺はスマホの電源を切った


和香はすっかり毒を抜かれた顔している。


「田中くん、40で独身だから、すぐに食いついてくるかと思ったのに、実はモテモテなのね。」


なんか責めるような口調で言われる。


会社の帰りにパチンコへ行ったら、家に帰ってきて、浮気を疑われた旦那みたいな気持ちは、こんなのだろうか。


「そんなんじゃないんだけどなぁ。」

俺は頭を書いた。


「何いってるの!私と、電話かかってきた二人の、どれにしようかなって顔に書いてあるよ!」


うーむ。その通りかもしれない。妙なモテ期の到来かな。


「あぁ、なんかバカバカしくなっちゃった。とりあえず、今夜はお開き。仕切り直しね。


田中くんから、連絡してね。それはあなたの義務よ。」


和香は、ちょっと責めるように言った。


まぁ、仕方がない。お互いその気になったはずなのに、こうなっちゃったのは、不可抗力とは言え、俺にも責任がある。


少なくとも和香には全く責任がなければ。


俺は、連絡することを約束して、和香と別れた。


ただ、そのまま帰る気にならなかった。可能性がほとんどないとは思うけど、マンションの入り口で、佐藤さんに会ったら気まずい。


俺は、この前に海野と行ったバーに一人で行くことにした。


バーのドアを開ける。奥に、海野の姿が見えた。誰かと一緒のようだ

俺はその瞬間、ドアを締め、踵を返した。


海野のやつ、また誰かを持ち帰るつもりだな。

まあ相手がその気なら、べつに一杯盛る必要はないよな。


あいつには、これ以上関わりたくない。



何かがっくりして、家に帰ることにした。



帰りに、コンビニで、ウイスキーとつまみと氷を買って帰った。


ハードリカーで飲みたい気分だった。


ただ、コンビニに売っていたウイスキーは、あまり高級なものではなかったようで、飲んでるうちに、どんどん頭痛がしてきて、考えることなく眠ってしまった。




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