第25話 爽香さんとの会話と衝撃の提案
そうこうしているうちに食事が終わり、コーヒーとケーキを食べながら社長が言う。
「田中君に、お前の仕事を説明してあげなさい。」
爽香さんは話し出す。
大学を出て、普通のOLをやっていたこと。
インターネットのEコマースが拡大すると、父親に言われたこと。
調べるうちに面白くなって、友人たちと、会社を立ち上げたこと。
ただ、仲間割れとかいろいろあり、自分でやめたり、仲間がいなくなったりした。
そして、5年前に、昔の仲間たちと、今の会社を設立した。
今やっている事は、自社のサイトの運営によるEコマースと他者へのコンサルということだった。
なかなか興味深い。
「ECサイトを運営していると言う事は、自社で、ウェブサイトを分析したりしているんですか?」
俺が聞く。
「はい、自社サイトを運営することによってノウハウを貯めて、それを使って、外部にコンサルをしています。それから、いろいろなメディアとタイアップして、ホワイトレーベルで、他社のサイトの裏をやっていたりします。」
ホワイトレーベルと言うのは、自社の名前を出さないで、他社のために作るものだ。
そして、他者が自分のブランドで運営できるようなシステムでもある。
「サイトも自社で構築されるんですか?」
俺が聞く。
「はい、リソースが限られていますから、メンバー皆である程度のことができるようになっています。HTMLやCSSはもちろん触りますが、通常はWordPressあたりで簡単に済ませる部分もあります。」
「女性向けのECサイトですか?」俺が聞く。
「はい、基本的に女性向けなので、スマホがメインになります。レスポンシブデザインを使って、PCでも同じコンテンツを表示しますが、どうしてもうまくフィットしない部分については、ユーザーエージェントで出し分けもしています。」
「なるほど、そうでしょうね。サイトは、アップデートは頻繁に行われるのですか?」
「ええ、ABテストを繰り返してPDCAを高速で回しているので、更新頻度は高いですね。」
「アクセス分析とかは?」
「基本はアナリティックスですが、カルテを使ったり、PCはアドビを使ったりもします。」
「アナリティクスはどの辺を重点に見るんですか?」
やばい。
楽しいぞ。
その後,奥様が食器を片付けて、社長が席を外しても,俺たちは話しをつづけた。
一時間くらいまで二人で楽しく話していると,社長が戻ってきた。
社長が居住まいを正し,俺に言う。
「田中君、うちに婿入りして,この会社を継がないか?」
「は?」
社長はいったい,何を言っているんだろう?聞き違いかな?
俺はもう一度聞いてみた。
「あの、すみません。もう一度おっしゃっていただけますか?」
「今言った通りだよ。爽香を嫁にして、うちに婿入りしてくれないか?
爽香ともそれなりに話が盛り上がっていたようじゃないか。」
俺はあまりにびっくりして、言葉が出なかった。
爽香さんが助け舟を出す。
「お父さんは、そんなことを突然言われても、田中さんだって戸惑ってますよ。田中さん、ちょっと2人でお庭に出ませんか。」
俺はありがたくその誘いを受けた。
庭に小さな四阿(あずまや)に座った。日陰になっていて、風が気持ち良い。
俺は少し考えたが、すぐに結論が出た。
「さっきの話は、なかったことにしましょう。」
爽香は驚いたようだ。
「どうしてですか?」
俺は自分の考えを整理しながら話す。」
「あなたと話していて、あなたはとても聡明で素敵な女性だということがよくわかりました。
あなたみたいな素敵な女性は、家の事情とかにとらわれず、好きな人と一緒になるべきだと僕は思います。」
爽香さんと結婚するっていうのはかなり魅力的なんだが、俺には過ぎた相手だろう。
「後継者がいなければ、別に会社を売ってもいいじゃないですか。会社そのものは残るんだし。あなたも親の事情にとらわれる事は無い。」
爽香さんは黙っている。
「それだけではありません。もし僕たちが結婚したら、周りはどう見るでしょう。
僕の事は、財産目当てに婿入りする、下種なやつ。と見られるでしょうし、あなたは、家のために、気に入らない男に無理矢理嫁に行かされた不幸な女性だと思われます。
それって幸せになれませんよね。僕は、あなたみたいな素敵な女性には、好きな人と結婚して幸せになってもらいたいと思います。」
爽香さんはちょっと沈黙していたが、その後口を開いた。
「今までも、こんな話はありました。いらした方は、大体跡取りになりたい、会社が欲しいと言う気持ちを前面に出していて、私はそれの付属物でした。
誰も私を尊重しようとはしなかったし、私のことを、社長の娘としか見ていませんでした。
会社のことを気にせず、私自身のことを見てくださった方は初めてなんですよ。」
爽香さんはちょっと微笑む。
「そうなんですか…」
俺は答える。
「実はですね、僕は今日辞表を持ってきたんですよ。」
俺はそう言って、懐に入れていた事表を見せる。
爽香さんが驚く。
「え?なぜですか?」
俺は説明する。
「いえ、先ほども申し上げた通り、この会社の上の人たちは、全然やる気がないし、自分の事しか考えていない。
僕は、部長にはしてもらったけど、第三者の客観的な目からすると、搾取されているように見えるようです。
であれば、この会社に拘る必要は全くないと思っています。
まぁ、こんな話になったので、辞表を出しそびれてしまいました。今日は出さないですね。これは。」
俺はそう言って頭を掻いた。
爽香さんの表情が変わる
「田中さん、辞めないでください。私との事はさておき、この会社をもう少し支えてもらえませんか?」
俺は答える。
「でも、もう大体辞めるつもりにはなっています。そんな心持ちの男がこの会社に残っても良い結果は生まないんじゃないでしょうかね。」
俺がそう言うと、爽香さんが答える。
「いずれにしても、もう少し待ってください。
私も、父や他の人たちとお話しします。
今の段階では、田中さんに言えないこともいろいろあります。
その辺を整理してから、ゆっくりお話ししたいと思います。
とりあえず、連絡先を交換させてください。」
俺はうなずいて、LINEのアドレスを交換した。
その後俺は、社長に挨拶して家を辞した。
社長からは、ゆっくり考えてくれ、と言われた
まぁ、さすがにこれは、しっかり考えないで結論を出すのは申し訳ないのかもしれないな。
評価されてないと文句言うのは簡単だが、その逆に、突然、評価されすぎて、いきなり婿入りで次期社長みたいなことを言われても、それはそれで実感もわかないし、困ってしまう。
ついでに言うと、いや、ついでと言ったら、失礼だけど、これは、爽香さんと結婚するということでもある。
結婚するならば、当然童貞卒業だ。
ある程度遊んでから結婚すると言うのは世の中普通だと思うが、結婚して童貞卒業すると言うのはどうなんだろう。
プロジェクトに参加できないなあ。株式会社童貞に入らないんだから、もともとプロジェクトがないのか。
それもちょっと残念な気がする。
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