株式会社童貞
愛田 猛
プロローグ
夕方6時の終業のチャイムが鳴った。
俺はパソコンを切る。カバンを持って立ち上がり、部員みんなに声をかける。
「みんな、もう金曜日だ。早く帰りなさい。帰れるときに帰っておかないと、辛い時に無理できないからな。」
俺は田中一郎と言う。中堅システム会社に勤めている独身サラリーマンだ。
4月から、部長になった。30代で部長と言うのは、最年少記録のようだ。
前任者の部長が問題を起こして左遷され、ナンバーツーの次長はストレスで入院しているため、それまでシステム一課長だった俺がそのまま部長に昇格したのだ。
事業システム一部長。まぁ、この事業システム一部をささえる、いや、この会社全体の売り上げの2割を占める、業務管理ソフト、「さわやか業務」を、ゼロから開発したのは俺なのだ。
だから、その部の部長になるといっても、社内で特に大きな反対は出なかったと言う。
「部長、飲みに連れて行っていただけませんか?」
三十代後半の女性部員が、ちょっとしなを作って言ってくる。彼女は、海野美羽と言う。
「海野さん、飲みに行くならみんなで行くよ。ただ、今日は用事があるんだ。失礼するよ。」
俺はそう言ってそのままエレベーターホールへと向かう。
この海野と言う女性は、実は社内で3人以上と不倫しているらしい。少なくとも俺の前任者の部長はその1人だ。それが原因で左遷されたが、彼女はここにいる。
どうやら、関係のある他の男が、権力を持っているようだ。
こういう女には近づかない。触らぬ何とかに祟りなし。
そそくさと会社を出た。まぁ、上司がいつまでも会社にいたら、部下はなかなか帰宅できないしな。働き方改革とか言う、なんだかよくわからないフレーズが飛び交った時期もあるしな。
それに今日は、実際にやりたいことがあった。
俺は高級スーパーに寄り、俺としては奮発して、一本一万円のワイン、赤と白、両方買った。それからオードブルのセットとローストビーフ、鯛のクリーム煮、それからモンブラン。
これだけのご馳走を抱えて、俺は自分のマンションに帰る。
自分のマンションと言っても賃貸だ。
気楽な独身一人暮らしで、そこそこ家賃の高いタワーマンションに住んでいる。
まあ、可処分所得はそれなりに多いしな。
マンションのロビーへ入ろうとすると、オートロックのドアの手前で声をかけられた。
「田中さん、お待ちしておりました。」
俺を待っていた?なぜだろう。
男は、品のいいスーツを着て、緑のネクタイをしている。ちょっと白髪のある、俺より4-5歳上に見える男性だ。背は170センチもないくらいの、ちょっと小柄だ。
「私、こういうものです」
男は、そう言って名刺を差し出した
名刺を見て驚いた。名刺にはこのように書かれていたのだ。
『株式会社童貞 顧問 元取締役、白平博(しろひら ひろし)』
なんだ、この会社名は。しかも、名刺の上には、キャッチフレーズだろう。『童貞の、童貞による、童貞のため会社』と書いてある。
一体これは。
「田中さんにお話ししたいことがあります。お部屋に入れていただけませんか?」
いきなり、白平と言う男が変なことを言う。
「話を聞くだけなら近所のファミレスでもいいんじゃないのかな?」
俺が言うと、白平と言う男は答える。
「私は別に構いませんが、会社名とかこの単語を何度も口にすることになります。それを周りに聞かれるのは、田中さんにとってもあまりよろしくないのではないでしょうか?」
それも一理ある。
「わかりました。では少しだけ。」
荷物を持っていることもあり、俺は、その白平と言う男を、部屋に迎え入れることにした。
俺は比較的きれい好きで、部屋は整理整頓、掃除しているので、彼を迎え入れるのにも特に問題は無い。
食べ物を冷蔵庫に入れてから、俺はリビングで白平と向かい合った。
「で、お話と言うのはなんですか?」
彼は小さな箱を取り出して言った。
「まずは田中さん、40歳のお誕生日おめでとうございます。つまらないものですがお納めください。有名ショコラティエの新作チョコレートのアソート(詰め合わせ)です。」
そう、俺は今日、40歳を迎えたのだ。
「四十で童貞。魔法使いから大魔導士にクラスアップですね。」
俺は内心驚いたが、何とか平静を保つ。
「そんな田中さんを、弊社『株式会社童貞』に役員としてお迎えいたしたく、本日は伺った次第です。」
白平という男は俺に頭を下げた。
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タイトルで出オチ?の問題作です。
構想は長いのですが、なかなか話が進みませんでした。
今回、見切り発車でsスタートです。
タイトルが気になった方、ぜひ最初に★を入れてくださいませ。
これが目立てば、童貞への福音署になるかもしれません(笑)
次回「伝説のプログラマー」お楽しみに!
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