第17話 田中に何が起こったか(1)
俺は、口をぽかんと開けた。
完全に、意味がわからない。
海野に眠らされたはずなのに、朝起きたら、バスローブ姿のみさきがそこにいる。
何が起こったんだか、全くわからない。
そして、俺は童貞卒業したのか。そして、もし卒業したなら、相手は海野なのか、それともみさきなの。
俺は完全に訳がわからなくなっていた
某ゲームで言えば、「田中一郎は、こんらんしている」と言うところだろう。
みさきが、俺に言う。
「そんなに、ブラジャーが欲しいなら、あげますよ。そのかわり、新しいの買ってくださいね。もちろんランジェリーショップに行って、一緒に試着して。」
おいおい、童貞にそんなことを言ったら気絶するぞ。でも、もう童貞じゃないのかな。
俺はとりあえず、ブルブルと首を左右に振りながらベッドを出て、みさきにブラジャーを渡す。
「あら、朝からお元気ですね。」
みさきが、俺の下半身を見て言う
そういえば、パンツ一丁だった。モーニングスタンダップを見られてしまった。ただ一応パンツに隠れてはいるが。
俺は、それから、みさきに一番大事なことをストレートに聞くことにした。
「僕は、君と、してしまったのか?」
俺は真剣に言う。
「だとしたら、本当に申し訳ない。僕にはそんなつもりはなかったんだが。
でも、なぜ、海野ではなくて、君がいるんだい?
みさきは、バスローブ姿で、片手にブラジャーを持ったまま、妖艶に笑う。
「ふふふ。どうでしょう。」
この顔は、絶対に、うちの部の若手は見たことがないだろう。あまり見せたくもない。こんな妖艶な顔を見たら、独身童貞は、誰でも恋に落ちてしまう、あるいは衝動に任せて襲い掛かるんじゃないか。
…あれ、俺も独身童貞だ。まずいな。
「木佐さん、田中さんをからかうのはもう、その辺にしておいてあげて下さい。まだやる事はたくさんありますよ。」
突然、男性の声が聞こえた。見ると、そこにいたのは株式会社童貞の白平だった。
「白平さん…」
どうしよう、本当に全く意味がわからない。
田中一郎は、まだこんらんしている。
白平は言った。
「まぁ、そんな姿ではなんですから、まずは服を着てください。こちらは、とりあえずの着替えです。」
そう言って、彼は、Tシャツと、トランクスとショートパンツを渡してくれた。
「木佐さん、あなたも着替えてくださいね。」
「はい。」
そう言って、みさきは部屋の外に出た。白平も外へ出る。
「着替えたら、リビングに来てください。」
白平の声がする。
リビング?ここは誰の家なんだろう。
俺は、とりあえず、着替えようとしてパンツに手をかけた。
突然、そこへ、みさきが入ってきた。
俺は、驚いて、ベッドの上に仰向けに倒れてしまった。ただし、まだパンツはおろしていなかったのは幸いだった。
マイサンは直接見られてはいない。寝てる間にどうだったかは知らないが。そこは考えないでおこう。
みさきは、俺のところにやってきて、呆然と仰向けになっている俺に顔近づけて言う。
「覚えていないのは、かわいそうなので、これはプレゼントです。」
そう言うと、いきなりみさきは、俺の口に自分の唇を重ねてきた。
柔らかい唇の感触に、俺は陶然となる。
みさきの舌が入ってくる。
え?そんなことまで。
俺はどうしていいかわからないが、みさきの舌が、俺の口の中に入ってきて、俺の舌、あるいは上顎下顎を蹂躙する。俺もその気になり、みさきに舌を絡めた。
俺は、恍惚となった。こんなに素晴らしいことがあって良いのだろうか。
もう、死んでもいい。いや、童貞なら死ぬはダメだ。
そして、みさきは離れた。
名残り惜しい気もするが、とにかく、まだ俺も混乱中だ。
マイサンだけは元気だが。
「これ以上は、お預けです。じゃあ、早く着替えてきてくださいね。」
みさきもバスローブ姿のくせに。
みさきは出ていった。
俺は、ノロノロと着替えた。何が起こってるのか、全くわからない。
脱いだパンツは、畳んである服の上に乗せ、部屋にあったスリッパを履いて、部屋を出た。廊下の先にドアがいくつかある。多分、バスとトイレとリビングだろう。
俺は、ガラスの入ったドアを開ける。
中に白平がいた。
「田中さん、落ち着きましたか?」
「正直、まだ何がなんだかわかっていません。」
と俺が答える。
「そうでしょうね。いろいろ説明しなければなりません。
どこから話したらいいでしょうかね。」
と、言ったところで、みさきが入ってきた。
みさきも、Tシャツとハーフパンツ姿だ。
Tシャツの下はブラジャー1枚だろう。多分、さっきのブラだな。
大きな胸が、隠しようもなく、、そのボリュームを示している。
白平が言う。
「とりあえず、まずは木佐さんのことを少しお話しします。木佐さんは、私たちの協力者です。」
「協力者?どういうことですか?
もしかして、木佐さんも、株式会社童貞の社員なんですか?」
みさきが首を横に振る。
白平が言う。
「木佐さんは、あくまで、協力者です。彼女は、株式会社童貞の事業内容や、設立の趣旨に、同調してくれて、私たちの協力者になっていただいています。」
株式会社童貞の趣旨に同調ね。わかったようなわからんような。
「実は、童貞チェッカーを使って、あなたが童貞であることを確認したのは、彼女なのです。」
え?俺、みさきに、童貞ってばれてたの?
そうか、だから、俺をいろいろからかってたんだな。胸に顔を埋めるなんて、童貞からしたら、もう、ありえない喜びだし
それに、実は、さっきのは俺のファーストキスなんだぞ。
いろいろ思うところはあるが、口にはなかなか出せない。
「木佐さんは、我々の協力会社がスカウトし、我々との話し合いを経て、協力者になってくださった方なんです。
そして、たまたま週2回行っていたあなたの会社で、あなたを見出したのです。 」
「そうだったんですか。うちの仕事もちゃんとやって、それから株式会社童貞の業務にも協力していたんですね。忙しいだろうに、すごいですね。」
俺は素直に感心した。
「では話を戻しましょう。昨日、私のところに、木佐さんから連絡がありました。
これから飲み会がある。田中さんをターゲットにしている年増女性に、彼が狙われる可能性があると。
私は、彼女と相談し、あなたの行方を追うことにしました。
その際、田中さんを見失わないために、木佐さんが、あなたのスーツのポケットに、忘れ物タグを入れてくれたのです。」
あの時、みさきにそんなことをされたのか。胸ばかり気にしていて、まったく気づかなかった。
忘れ物タグと言うのは、いろいろなものにつけて、なくしたときにどこにあるかをGPSで確認できるタグの事だ。大きさ的には、キーホルダーがついた10円玉みたいなものだと思えば良い。
「木佐んは、あなたにタグをつけて、一旦離れて、私と落ち合いました。そして私たちは、あなたがどこにいるかを、確認しました。」
それで、あのバーを突き止めたわけだな。
「そこで私たちは、適当な時間にそこのお店まで行きました。
すると、海野さんと、店のマスターが、2人であなたの肩を抱えて店を出てきたところだったのです。私たちは海野さんに近づいて言いました。海野さん、田中さんに何かしましたか?とね。」
あいつの事だから白を切っただろうな。
「海野さんは、『一緒に飲んでいて、彼が酔っ払っただけです。だから、どこかで介抱しようとしてマスターにお願いして一緒に来てもらっています。』と言いました。そのバーの3軒先には、ラブホテルがあるのです。そのまま行ったら、あなたの童貞は、彼女に奪われてしまいます。」
確かにそうだ。危機一髪だな。
「私は彼女に言いました。『では、私が、田中さんを介抱します。マスターも海野さんも、もうお帰り下さい。』と言いました。」
おお、素晴らしい。
「海野さんは、自分がすると主張しましたが、私の方から、
『あなた、一服盛ったんじゃないですか?後で血液検査もします。もし薬物があったら、これは立派な犯罪になります。あなたは主犯、マスターも共犯ですよ。』
と言うと、マスターは、いえ、私は何も知りませんと言って、あっという間に店に帰ってしまいました。
海野さんも、血液の検査の話をされたら、仕方がないような感じで引き下がりました。
私と木佐さんは、タクシーを捕まえてこの家にやってきました。この家は、大童貞男が持っている家の1つです。」
そうだったのか。
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