第41話 運命の出会い



(第三者、主に彼方視点)



最高の処女卒業をした彼方は、目を閉じてぼんやりと考えていた。


(すべては、あの二年前の夜から始まったのね…)



★  ★



二年前のある夜、株式会社ショッピングジョイの株主四人、

織田真理、香弓ユカ、洞地(うろち)爽香、そして佐藤彼方はちょっと高級で静かなバーで、ビールを飲みながら話し合いをしていた。


「売り上げが順調すぎて困ることがあるなんて、想像をしなかったわね。」

社長の織田真理が言う。


「そうね。私たち、マーケティングとかブランディングは得意だけど、バックエンドのシステムのほうは手が回らないものね。」

副社長の香弓ユカも言う。


「もっとしっかりしたシステム会社にお願いしないと、このままだとショッピングジョイの通販サイトは、システムダウンしてお客さんに迷惑をかけることになってしまうわ。


なんとかしないと。」

洞地爽香がため息をつく。


「私がうちの雑誌でプロモートしたのが、結果的に良くなかったのよね。」

佐藤彼方も付け加える。 


真理、ユカ、爽香の3人は、株式会社ショッピングジョイの役員であり、爽香の友人である彼方は、会社の運営を外部から支える形で、4人で株式会社ショッピングジョイを設立したのだ。


「ショッピングジョイって名前も良くなかったかしらね。」

真理が言う。


「処女4人で作ったからノリでつけたこの名前、呪縛になってしまったのかしら。

仕事はさておき、まだみんな処女じゃない。」


真理は続ける。

「おまけに、従業員まで、私たちの知り合いを呼んだから、ほとんどが処女じゃない。


この前なんて、辞める子が言うのよ。

上の三人を見ていると、仕事はさておき、結婚できる気がしないって。


ひどいと思わない?そりゃ、確かにもう若くない処女だけど、どこかに出会いはあるはずよ。」


副社長のユカが言う。

「真理、その話の前に、システムよ。ともかく、なんとかしないと、このままだと、本当に会社がもたないわ。」



爽香もこぼす。

「安定してシステム運用できるような人たちいないかしら。ついでに、出会いもあればなおいいんだけど。


この嫁き(いき)遅れの処女たちを、何とかしてくれないかしら。」


「ちょっと爽香、声が大きいわよ。」

彼方が慌てて注意する。この静かなバーに、爽香のよく通る声が響いてしまう。


幸いと言っていいのか、店には、客はあと2人しかいなかった。


40代くらいの大柄な男性と、ちょっと白髪のある、小柄な男性だ。



ふと気づくと、その二人が、席に近づいてきた。


「今の話、できれば詳しく聞かせてもらえませんか。」


大柄な男が名刺を出す。


「株式会社ドリームトレーディングの大童といいます。システムのプロを揃えています。


ついでに、この会社の正式名称はこちらです。」


彼が出したのは、「株式会社童貞 代表取締役社長 大童貞男」 と言う名刺だった。


これが、処女と童貞の、運命の出会いだった。



その場にいたのは、大童貞男と白平の2人だった。

彼らは彼らで、悩んでいた。


童貞のプログラマーを集め、業績は発展していた。ただ、童貞プログラマーたちは、いつかは童貞を卒業したいと思っていたのに、この会社にいたままでは、出会いがない。何とかしてほしい。

と言う要望が上がってきたのだ。


もしこれで、童貞たちが暴発してしまったり曲がってしまったら、そもそも株式会社童貞を設立した意味がなくなってしまう。


仕事とともに、出会いが欲しい。それを満たす方法は何かないだろうか。


二人は飲みながら、そんな話をしていたのだ。

そこへ、四人の話が聞こえてきた。


システム関係で悩んでいて、しかも株式会社ショッピングジョイ。つまり処女だ。ドリームトレーディングの童貞と同じだ。


二人は、席を立ち、四人に声をかけることになったのだ。




それから、お互いのニーズが、見事に噛み合い、お互いの業務が発展していった。


その後、大童貞男と織田真理、白平とユカがカップルになり、結婚した。


そして、大童貞男は、織田の苗字を名乗ることにした。

やはり、大童貞男と言う名前は、いろいろ恥ずかしかったようだ。


イケオジ好きのユカは、白平に夢中になった。プログラミングができて、優しい白平は、まさにユカの理想の相手だった。


そして、株式会社童貞と、株式会社処女のメンバー間での交流も深まり、カップルも増えた。


ただ、どうしても引っ込み思案同士で、なかなか深い間柄にならない連中も多かった。


業容拡大に伴い、余裕ができてきた。両社は、プロジェクトを立ち上げることにした。


言ってみれば、会社主催のお見合いである。しかも、ただのお見合いではなく、処女卒業、童貞卒業を兼ねたプロジェクトだ。


株式会社処女の中から、株式会社童貞でアシスタント業務をしたい者を募る。そして、彼女たちを出向させて、良い相手を探す。


純情な童貞たちは、直接にはなかなか言えないかもしれないが、会社と言う第三者を通してだったら、交際申し込みもできるだろう。なんといっても、「童貞の童貞による童貞のための会社」がもともとのコンセプトなのだから。


申し込みを受けた女性は、相手を見て、承諾するかどうか決める。


承諾すると言う事は、処女卒業を前提にしているので、慎重になるかと思ったが、そうではなかった。


最初の申し込みで飛びつく女性が多く、プロジェクトは順調に進んでいった。


そして、処女でなくても、真面目なプログラマーの男性たちとの出会いを求める女性に対し、プロジェクトは門戸を開くことになったのだ。


両社は、卒業したメンバーのための受け皿会社、株式会社、ハイドリームトレーディング、つまり株式会社非童貞、それから株式会社ヒットショッピングジョイ、つまり株式会社非処女を設立し、ますます業務は拡大していった。


業績は拡大し、プロジェクトもうまく進んでいったが、


その中で、株主二人、つまり爽香と彼方は取り残されてしまった。


良い相手がいたら、二人のために、特別プロジェクトを組むと社長の真理も約束してくれてはいるが、なかなか二人のお眼鏡に叶う相手がいない。



そして、社長の真理と、副社長のユカが、相次いで妊娠したことで、爽香と彼方と爽香の焦りは募る。


真理とユカはそれぞれ43歳で、爽香と彼方よりは上だったが、それでも妊娠したのだ。


自分たちも結婚して、子供が欲しい。なんとなれば結婚しなくても、子供だけは欲しい。


爽香と彼方は、そう考えるようになっていた。





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