第24話 妖精国へ

 アークデーモンとの戦闘から三日ほどが経過した。腕の傷も癒えたし、王都でやることも特になくなった。そろそろ別の街に行く頃合いだろうか。

「なあアリス、次はどこに行こうか。」

「妖精の国に行くのはどう?」

「妖精?冗談はよしてくれよ。」

「あら、冗談じゃないわよ。私の家に伝わっている魔術なんだけどね、妖精の世界に渡れるの。ちょっと用事があってね。ついてきてくれない?」

アリスもアルトと同じように名家の出身だ。伝統の魔術があってもおかしくない。しかし妖精の国に行く魔術とは、とんでもない規模だ。

「戻ってこれるんだろ?興味あるし、行くよ。」

「決まりね。今日は準備の日ってことで買い物にでも行きましょう。事前情報も伝えておきたいし。」

 買いそろえたのは、ハイ・ポーションや、魔力を蓄えた花の種など、高価なものばかりだった。普段なら手を出せる金額ではないのだが、ダンジョンの資源のおかげで万全の準備ができた。他にも非常食や予備の剣、鎧などかさばるものも買ったが、収納魔法のおかげで問題なく持っていける。

その日の晩は妖精国について、アリスから教えられた。

「まず、私が妖精国に行く目的は、〈試練〉を受けるため。試練は四つ。試練の内容は毎回変わるから、行ってみないとわからない。妖精大陸全土をめぐりながら試練をクリアして帰る。これが目標。」

「それってオレが行っても大丈夫なのか?」

「この試練は仲間と挑むことを前提で作られているの。二人なら全く問題ないわ。それよりも考えないといけないのは、こちらとは何もかもレベルが違うってこと。」

「そんなに強いのか?」

「そう。そもそも妖精とは、自然の一部を具現化した存在だから。防げないわけじゃないけど、あっちの魔法は圧倒的よ。魔獣も、出会うことこそ少ないだろうけれど、一体一体が二十五層ボス級だと思っていい。」

「二十五層!?ミノタウロスレベルがそこら辺にいるのか、とんでもない世界だな。」

「でも、こっちでは習得が難しい魔法とかを簡単に覚えられたりするから、すごく成長するわよ。」

「そうか、明日が楽しみだな。」

「そうね、じゃあおやすみ。」

「ああ、おやすみ。」


 翌日、人目につかない大穴付近まで言ったオレたちは、いよいよ妖精国へと渡る。

「じゃあ、準備はいい?」

「ああ、頼む。」

『我、幻想を信じる者なり。彼方への道を開き、幻想の国へと導きたまえ。』

滑らかな詠唱が終わると、オレとアリスの体が眩い光に包まれる。視界も光で覆いつくされて、いつしか意識も途絶えた。


 目が覚めると、森の中だった。転生してきた時を思い出す。

「おい、アリス。着いたぞ。」

「う、うーん。」

アリスは一度寝たらなかなか起きない。オレはダンジョンで、アリスの意外な一面を知った。

 十分後、ようやく目が覚めたアリスと共に森の中をしばらく歩くと、見晴らしのいい高台に出た。

「ひっろーーい!」

「ああ、本当に壮大な景色だ。」

眼前に広がるのは、蒼く澄み渡る空と、神秘的な森、そして美しい街並みだ。建物から推測するに、文明レベルは現世とさほど変わらないだろう。

「さあ、行こう。」

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