妖精国編
第25話 傀儡の試練
森を抜けて街にたどり着いたオレたちは、手分けして情報収集をしていた。この世界にも人間はいるそうで、妖精とは対等な関係を築いているらしい。魔力や身体能力こそ劣るものの、人間特有の発想や技術を大切にしている。
妖精たちの外見は、背中に半透明の羽が生えていることと、耳の先が尖っていること以外は人間と同じようだ。
「アリス、地図は手に入ったか?」
「ええ、バッチリよ。」
この未知の世界を冒険するための必需品、地図だ。今いるのは、妖精大陸の最北端である、スノアの街だ。試練がある地名はアリスが既に知っているので、あとはそこを巡ればいいだけだ。
「一つ目はこの街、スノアにあるわ。どこかに白い石の門があるから探してくれる?」
「探すも何も、あれのことだろう?」
そういって指さしたのは、町の入り口になっている石のモニュメントだ。アリスが触れると、門の中を光が渦巻いて別の空間へとつながった。
「準備はいい?」
「もちろん。」
そういって、二人は光の中へと進んだ。
光の道を抜けた先は、ダンジョンのボス部屋のような薄暗い部屋だった。部屋には、大きな岩とその上の小さな二つの宝玉しかない。通ってきた光が消えると、宝玉が凄まじい魔力を発し始め、大岩も動き始める。魔力は岩へと流れていき、やがて人型が形成された。
「あれは、ゴーレム!」
「ゴーレムが試練なのか?」
ゴーレムとは、魔力で動く使い魔だ。魔力操作の上手い魔術師はゴーレムを得意としていることが多い。パワーがあるので戦闘にも向いているが、今のオレ達ならさほど脅威ではないだろうと思っていた。しかし。
『
ゴーレムが魔法を発動する。魔法陣が刻まれていればゴーレムも魔法を使えるが、空間侵食など聞いたことがない。
もし、そのままの意味だとしたら―――
悪い予想は的中した。ゴーレムの足元を中心に地面が石のタイルから、ごつごつした岩へと変わっていく。気づけば壁や天井もなくなり、あたり一面岩山となってしまった。やはりあの魔法は、元の空間を別のテクスチャで上書きし、術者の力をさらに引き出す固有結界だ。
「嘘、何よこれ...」
無理もない。オレもこんな大魔法は初めて見る。しかし、オレは更なる地獄を見ることを予感していた。
直後、周りの岩も動き始めて人の形になっていく。
「この試練は、ゴーレムの大軍を蹴散らして、本体を倒せってことか。やってやる、行くぞアリス!」
「ええ!やっちゃいましょう!」
先ほどまで本体ゴーレムがいた方角へ魔弾を乱発する。ゴーレムの体を構成する岩たちは粉砕され、本体への道があっという間にできる。しかし、新たに生まれるゴーレムですぐに道はふさがれてしまう。
「アリス、全体攻撃頼む!」
「分かったわ、ヤァッッ!!」
刀身から伸びた光が、ゴーレムたちを一掃する。
オレは残骸を魔弾で処理し、アリスの突進ルートを作る。
瞬きの間に距離を詰めたアリスが、二撃目を撃ちこむ。本体を構成する岩は消し飛び、オレが放った魔弾が宝玉に命中して、術が無効化。岩山の空間もただの小部屋に戻った。
「これ、魔力炉じゃねえ?」
「魔力炉よね、絶対。」
残った二つの宝玉を見つめながら言う。魔力炉とは、無尽蔵に魔力を生成し続けるトンデモ魔道具の一つだ。竜などの最上位クラスのモンスターが飲み込んでいたりすることもあるのだが、人間では食べて取り込むという手法はとれないので、途方に暮れている。
調べようと手に取った瞬間、宝玉が光を散らして消えて、魔力量の大幅増加を体感する。まさか、と思いステータスを開くと、スキル欄に『魔力炉』の名が入っている。どうやら魔法の水晶スタイルで取り込めたようだ。
アリスも同様に取り込むと二人は再び光に包まれ、気づけばスノアの街に戻っていた。
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