第34話 再会
オレ達は王都を出発し、二週間かけて北部地域に向かった。オレ達が妖精国にいた間に、アルトが領主となったそうだ。
前領主、つまりアルトの父親は、「判断力が鈍ったので、武功を上げた息子に譲ることにした」らしい。
アルトは王都から去る前に、オレにこっそりと来る前の経緯を教えてくれた。例年の三倍もの魔物が湧いていれば助太刀をする余裕などないだろうし、前領主さんの判断も悪くはなかったとは思う。しかし、結果としてオレは助かったし、アルトの功績を認めざるを得なかったのだろう。今はアルトへ助言をしたりと、補佐として激務に追われているそうだ。
街の大通りを進むと、突き当たりの大豪邸が目に入る。話に聞いていた、ロレーヌ家の邸宅だ。
扉の前に行くと、内側から開かれ、アルトが出迎えてくれた。アルトに妖精国での話とソフィアの紹介をして、ソフィアにもアルトの紹介をした。
その晩は食事会が開かれ、町中のお偉いさん方もやってきた。邪竜討伐の件でオレの名はそこそこ知れてしまったので、話しかけてくる人も多かった。その中には、大手情報屋のトップを名乗る男もいた。
「ソラトさん。邪竜を倒したあなたの耳に入れたい話がありましてな。」
「内容と金額によりますけどね。」
「お金なんてとんでもない!あなたは王都の恩人。つまりは私の恩人でもあるのです。この情報は私の恩返しとして受け取ってください。」
「分かりました。詳しく聞かせてください。」
「Xランクの冒険者たちがいるでしょう。彼らが今、北部の遺跡群で集合し、何かを企んでいるという情報が、少し前に入りました。その遺跡には、『神が降臨した』という逸話があります。もしかすると、Xランク達は神を降ろそうとしているのかもしれません。どうかそうなったら、あなたに止めていただきたい。」
Xランク達の野望を止めるということは、彼らと正面から戦うということである。第四位ですらあれほど無法な能力だったというのに、あれより上が三人もいるのだ。オレにどうにかできるのだろうか。
次の日、アリス達を置いて例の遺跡群に向かった。そこで見たのは―――
「何だよ、これ......」
オレの固有結界と同じ風景。崩れた廃ビルが蔦に覆われ、地面はアスファルト。オレがもと居た世界の遺物に間違いない。だが、なぜこんなものが存在しているのだ。
と、その時。曲がり角から人の話し声が聞こえた。千里眼で奥を覗くと、地味な色のフードを被った人影が十三人。ちょうどXランク冒険者たちの人数と一致する。
そのうちの一人が、こちらの方に振り向き、言葉を発した。
「見て、いるな。」
―――気づかれた!!
その瞬間、こちらに気がついたフードの男の姿が消えた。背後に気配を感じる。咄嗟に千里眼と
しかし、どういうことだ。千里眼を以てしても、ヤツの動きが全く見えなかった。
角の所から他のフードも集まり、囲まれた。そして、そのうちの一人がフードを外す。
「まさか、君だったとはね。」
「リュウヤか。情報は本当だったんだな。神を降ろすなんてやめておけ。痛い目を見るぞ。」
「いいや、必ず成功するとも。僕たちがこの世界、いやすべての世界を支配する!」
「だったらオレが痛い目を見せてやる!
「させないさ。」
背中に鋭い痛みが走り、腹からは血に濡れた剣先が飛び出している。
「どういうことだ......オレは確かに千里眼で見ていた......」
「さすがの千里眼でも、時と時の間は見通せないみたいだね。」
背後からオレを突き刺したのは、最初にオレに気が付いた男だった。彼はゆっくりとフードを降ろし、オレに顔を見せた。
燃えるような赤色の髪と、薄暗い中でも金色に輝く眼。以前話に聞いた、「人類最強」の男。
「初めまして、ソラトくん。僕の名はエルラント・ライアス。不意打ちまがいのことをしてすまなかった。僕たちの目的は知っての通り、神の降臨だよ。」
「......一つ聞かせてくれ。ここは何の遺跡だ。いつから存在している。」
「異界の都市の瓦礫と言われている。いつからあるのかはわからない。そんなことを聞いてどうするんだい?」
「オレは、かつてこの遺跡があった世界に住んでいた。」
一瞬の沈黙の後、エルラントは口を開いた。
「では君が、予言の魔術師か。僕たちの最大の宿敵。」
「予言、宿敵。いったい何のことだ。」
「君は僕らの邪魔になるっていう予言があるのさ。君には悪いが、死んでくれ。」
「
エルラントを十メートル以上吹き飛ばし、他の奴らも体勢を崩す。
「ソラト!!!」
こちらに走ってくるのは、アルト、アリス、ソフィアの三人だ。
「ダメだ!!こっちに来るんじゃあない!!」
千里眼で背後を見ていたオレの眼に映るのは、肩口に触れる直前の剣と、その剣を握っているエルラント。あり得ない反応速度。
まるで立ち上がるまでの時間が、丸ごと吹き飛んだかのような―――
まさか。
「お前、時間を止めて―――」
そこでオレの記憶は途切れた。
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