第36話 妖精と第九位

 アルビオンの祠の外。少し高台になっているそこから見えたのは、奇妙な光景だった。

 こちらには妖精国の風景が広がっていくが、遠くをよく見てみると、見慣れた外壁があった。四年前のオレが籍を置いていた魔法学校と、それを中心とした街。

「あれは、オリオン?」

 どうしたことか、現世と妖精国は繋がれていた。とにかく、情報収集には大きな街が一番だ。そうしてオレは、魔術学園都市オリオンに向かった。


 私がここに繋がれて、どれくらい経っただろう。ソラトは、みんなは無事だろうか。

ソフィアは目が覚めると、そればかり考えた。ソラトがエルラントという男に倒された直後、ソフィアは第九位のシャーリー・ジェリアという性悪の魔女に負け、オリオンという都市の地下に、魔力源として鎖に繋がれていた。

 ソフィアが再び意識を失う直前、両手を縛っていた鎖が千切れ、ソフィアを自由にした。

「うっ!」

急なことに反応できずに思いっきり顔から倒れ、うめき声をあげる。

しかし彼女は状況を素早く理解し、その場で最適な行動を取った。

 部屋にいくつか置いてあった魔力ポーションをまとめて流し込む。最大の二割くらいしか回復できなかったけれど、それでとりあえず十分だ。

部屋に転がされていた私の杖を握りしめ、鍵のかかった扉を吹き飛ばす。幸い地下室はかなり奥の部屋だったため、爆発音は上まで聞こえていないようだ。

 私が捕まっていたのは地下牢だったようで、出口付近には兵士が二人いた。

ここで騒ぎにしたくないが、魔法は隠密行動には不向きだ。透明化や防音魔法などもあるが、私は使えないのでどうしようかしばらく考えた。

「あっ、そういえば。」

腰のポーチを探すと、刻印がされたナイフが数本入っていた。

さすがソラト。やっぱり頼りになるね。

「そういえば、ここって何を仕舞ってるんだ?」

「さあな、シャーリー様しか知らな、うッ!!!」

「おいどうし、うッ!!」

ごめんなさい、全く関係ない兵士さん。心の中で謝ってから脱出する。

確かシャーリーとかいうヤツは、魔術学校の校長室を占領していると言っていた。

「あいつ、今度は絶対に倒してやるんだから!」


 ちょっと空を飛んだら、ものの二十分で着いてしまった。

とにかく、オレの仲間とXランクの居場所が知りたい。情報収集のため、オレは馴染みの店を訪れた。

「よお、ソラト。四年くらいぶりだな。こんな状況だが、エッグ乗せライス食ってくか?」

「いや、遠慮しておくよ。それより、Xランクの連中とか、そいつらと戦ってるやつとか知らないか?」

「Xランク?...ああ、使者のことか。ちょうど、学園に第九位が居座ってるぞ。戦ってるやつと言やあ、何年か前に妖精の嬢ちゃんを連れてきてたな。今どうしているのかはわからねえが...」

「いや、ありがとう!九位を倒したら、飯を食いに来るよ!」

「倒す!?...って、あいつならやりかねないな。全く...」


「シャーリー!出てきなさい!あんたのことをぶっ飛ばしに来たわよ!」

 ドカンと一発、正門に爆発魔法を叩き込む。

「あら。街に循環する魔力が少ないと思ったら、出てきたのね。」

「もうちょっと丈夫な鎖を使えばよかったんじゃない?まあお金が足りないならしょうがないわね。」

「あなたくらいならあの程度で十分だと思ったのよ。それにしても、脱走してやることがこれなんて、あなたの頭は妖精国みたいにお花畑なのかしら?」

「うるさい!あんたの曲がった性根、叩き直してやるんだから!」

「やってみなさいな。力の差も分からない、かわいそうな妖精さん。」


 魔法学校の校庭で、とんでもない火力の魔法の応酬が繰り広げられる。

凍結世界フリーズワールド!」

紅炎魔竜プロミネンスドラゴン!」

はじけ飛んだ氷の欠片が、シャーリーの赤髪一房を引きちぎる。

「っ!コイツ...!!」

「まだまだ!...ワレが振るうは宇宙ソラの怒り。星の剣は我が両手に託される。」

「させるか!...人を呪わば穴二つ。他の死には、己の死を持つが道理なり。」

魔力がほぼ全快した私なら、物量の差で押し切れる!

「擬似空間侵食:魁星煌彩剣ルミノスターストライク!!」

「転呪の魔槍!!!」

杖に集まった星の光が、シャーリーを焼き尽くす―――かのように思えた。

しかし光は、シャーリーが発動させた闇色の槍に吸い込まれ、まっすぐに伸びた槍はソフィアの腹を貫く。

「がっ...!はっ......」

貫かれた箇所が、燃えるように熱い。立っていられるのが奇跡だ。

「うふふ、ようやく落ち着いてくれたわね。開心リードメモリー。」

式句からして、私の記憶を読んでいるのだろう。こういうところが最悪なのだ。

「...ふーん。ソラト...昔あいつに助けられて、それから惚れてるんだー。ロマンチックねー。...は?あいつ、生きてるの?うそでしょ?」

わたしの恋心なんて、どう思われてもいい。でも、ソラトの居場所がばれてしまった。どうしよう。アリスとやっとの思いで連れて行った、アルビオンの祠が。

「今のうちに始末しなきゃ。......でもその前に。まずはあなたね。大丈夫、彼氏もすぐにそっちへ送ってあげるわ。」

結局、何もできなかった。ごめんアリス。ごめんアルト。そして、ごめんソラト。

座り込んだ姿勢のまま、まっすぐに相手を見据える。

「さようなら。紅炎魔竜プロミネンスドラゴン!」

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