第37話 三年越しの

 私を焼き尽くす炎が迫ってくる。もとより覚悟はしていた。しかしやはり、怖い。

ありったけの勇気を振り絞ったのに、この期に及んで迫りくる死を恐れてしまう。

「やっぱり、あたしはダメだわ。ソラト、どうか生きて...」

「オレは生きるさ。まだ死ねない。まだ、死なせない。」

 その瞬間、あたしを薄紫の膜が覆い、死の炎を受け流した。

幾度と見た、その絶対の護り。あたしを何度も助けてくれた、彼の護り。

「くそッ!なんだこれは!」

あたしは空を見上げ、懐かしい彼の姿を目に焼き付ける。


「久しぶり、ソフィア。」

 緊張感がありながらも、優しさと温かさを多く含んだその声を聞き、頬からは涙があふれ出す。一刻も早く彼の名前を呼びたいが、肝心な時に声が出ない。

しかし彼は微笑みながら一度頷くと、ゆっくりと降りてきてシャーリーに向き直る。

「貴様ソラト......復活したのか...!」

殺意と驚きを孕んだその声にあたしは身構えるが、彼はあたしを右手で制した。

「おかげさんでな。妖精国と繋いでくれて助かったよ、間抜けが。」

以前からは考えられないほどの粗暴な口調。

「ひとつ聞かせろ、お前らの目的は何だ。」

「言ったでしょう?世界の支配よ。現世、妖精国、魔界、天界、そして深淵。」

「それを成功させるために、何か企んでいるだろう。」

「ふーん、そこまで知ってるんだ。そうよ、私たちは神を降ろす。世界を統括する神を。」

「もういい。お前に用はない。」

シャーリーの全方位から弾丸が射出され、ヤツは結界術で身を守る。しかしソラトの方が少し早く、複数の弾丸がシャーリーの体を抉る。

「ぐっ!......人を呪わば穴二つ。他の死には、己の死を持つが道理なり!」

ソラト!気を付けて!と言いたいが、またもや声が出ない。あたしのグズ。

「転呪の魔槍!!!」

闇の槍はソラトの隣を通り抜け、あたしに向かってくる。

「え...?」

今度はソラトからかなり離れている。ああ、今度こそ終わった。

しかしまたもや女神の護りアイギスはあたしの身を護った。

「なに!?どういうことだ!」

「オレが彼女の前でアイギスを使う。という結果を先に起こしている。冠級の敏捷魔法のおかげだな。」

さっぱり訳が分からない。とにかく、彼はあの距離からでも発動できるという事だろう。

「さて、やってくれたな。因果応報。不撓の聖剣エクスカリバー。」

彼の手に、黄金の刀身を持つ剣が握られる。

「転呪の...」

「うおぉぉぉっ!!!」

瞬きよりも速くソラトは距離を詰め、鋭い雄叫びと同時に剣から噴き出した黄金の光が、闇の槍をも飲み込んで爆発する。

シャーリーが立っていた場所には、塵すら残っていなかった。


「改めて久しぶり、そしてありがとう。ソフィア。」

「あたしこそ、助けてくれてありがとう。無事に復活できてよかった!」

満面の笑みを浮かべてそう言われ、少し、と言うかかなりドキッとした。

女性経験がないから仕方がない!と心の中で言い訳し、友人との約束を果たすべく、ソフィアをデートに誘う。

「今から、飯いかないか?」


「いらっしゃ...ソラトじゃねえか!聞いたぜ、シャーリーの奴を倒したんだってな......ってオイオイ!女連れなんていい身分だな、チクショー!」

店主のオヤジは本気で悔しがる。

「バカ、そんなんじゃねえよ!」

「違うの?」

と、にこりと微笑みながら言われる。

「違...わないデス。」

今日はどうも調子を崩される。アリスの差し金か?

「まあいい、いつもの二つ。」


 どうしてだろうか。薄い色の肌も、美しい白い髪も、無邪気な笑顔も、三年前と変わらないのに魅力的に感じる。仕草の一つ一つが気になってしまう。惚れたのだろうか。

というか何より、直前のシャーリーの会話が少し聞こえてしまったのだ。人の心を覗くとか外道極まりない魔法だが、それでも聞こえたら気になってしまうのが人間だ。

―――アタックしてみても、いいのだろうか。

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