第38話 神使騎士団

 エッグ乗せライス―――オムライスを食べながら、ソフィアと話す。

「アリスとアルトはどこに行ったか分かるか?」

「アリスはひとまず騎士団に戻ったって。アルトさんは今も領主を続けているわ。」

「それ大丈夫なのか?」

「アルトは顔を見られていなかったらしくて、普通にあの館にいるはずよ。」

「じゃあ、まずはそこに向かうか。」

 オリオンの外に出て、周りに人がいないことを確認する。

「北部に行くなら、北門の方が近いわよ。なんで東門なの?」

「飛ぶのさ。ちょっと失礼して...」

「キャッ!ちょっと!」

 正直オレだって顔から火が出そうだが、これが最速なのだ。ソフィアをお姫様だっこして、空に飛びあがる。

 前方にアイギスを展開しながらなら、どんなに飛ばしてもダメージは受けない。

結局、一時間弱で館に到着したオレ達は、再会したアルトにこってり絞られた。

「結果として、早く到着したんだし...」

「たわけ!敵陣営にバレていたらどうするのだ!この近くには玉座......遺跡がまだ残っているのだぞ!」

「待て、玉座って何だ?」

「そうか、二人とも知らないのか。なら、お前たちが姿を消している間の話をしよう。」


 話を時系列順にまとめる。

 オレの敗北直後、アルトは情報収集のために屋敷へ戻り、その後のオレとの干渉は皆無。アリスとソフィアは、追手と戦いながら妖精国のアルビオンの祠へ向かい、オレの治療を開始。アリスは騎士団に戻り、上層に危機を伝える。ソフィアはアリスと別れた直後に第九位と遭遇、敗北してオリオンに繋がれる。


 一年後、四つの世界が地続きに統合され、一位から四位までが別空間に退去。五位以下は世界の統治を開始する。Xランクは、全員が王族以上の地位を手に入れて各地に散らばる。誰がどこを統治しているのか、Xランクがどのような能力を保有しているかは、アルトには不明。


 二年後、騎士団がXランクの軍門に下り、治安維持組織「神使騎士団」に名前を変える。アリスが属している可能性極大。騎士団には少なくとも二千名が加入している。


 三年後、Xランク達が星神ほしがみの使者と名乗り出す。名のある大魔術師が次々と拉致され、魔法の行使が高位までに制限される。


「とまあこんな感じだ。僕は旅にはついていけないから、金銭面と情報を支援するよ。」

アルトは少し寂しそうな顔をしてから言った。

「三か月前、アリスという名前の女性が騎士団長になったという話を聞いた。ありふれた名前だし、違うと思いたいが...」

「騎士団の本部はどこだ。」

「待てソラト。騎士団は五位の直轄だぞ。焦りすぎるな。」

「そうよ、無謀すぎるわ。最悪騎士団全員プラス第五位と戦うことになる。」

「オレは一人でも行く。失った三年間を取り戻す。」

「そうか...なら何も言うまい。」

「ちょっと、アルト!?」

「ソラト、そのコートはちょっとみすぼらしいぞ。これを持っていけ。」

軽い笑みを浮かべながら親友は棚を漁る。受け取ったのは、金色の裾と袖の青いコートと、真っ黒な布だった。

「何だ?この襤褸切ボロきれ。」

「襤褸切れだと!?夜の帳だぞ!」

「えっ!本物!?」

夜の帳は魔法学校で習った。極めて薄く軽いのに、冠級炎魔法でも一切燃えることがなく、ドラゴンの爪すらも通らない。おまけに俊敏や技巧に大幅なバフがかかる、チート装備の一つだ。


 受け取ったコートに着替え、夜の帳を上から羽織る。

「来ないのか?ソフィア。」

「......ごめんなさい、ソラト。やっぱりあたしは、あなたを止める。力づくでも。」

「...そうか。なら押し通る。」

 アルトに庭を貸してもらい、距離を取って向かい合う。

「始め!」

その掛け声と同時にソフィアが地面に杖を突き立て、唱える。

空間侵食スペースインヴェイド!」

花畑と星空が広がり、オレが展開しかけた魔術式が割られる。

マジで本気じゃないか。弱い式がキャンセルされる以上、こちらも加減のしようがない。

魁星煌彩剣ルミノスターストライク!!」

「くッ、無詠唱か!女神の護りアイギス!!!」

強力な一撃を受け切る。すかさず反撃を―――

しかし目に映るのは、二撃目を放つソフィアの姿だ。

 五連続もの攻撃を受け、さすがのアイギスにもヒビが入る。次は耐えられないだろう。

「まだまだ!魁星ルミノ...」

こうなったら、使いたくはないが奥の手だ。

ソフィアが掲げていた杖が勢いよく弾かれ、侵食と式句が解除される。

すぐに歩み寄り、不撓の聖剣エクスカリバーを首元に突きつける。

「エクスカリバーで杖を弾く、という結果を先に起こした。」

「...相変わらずの無茶苦茶ね。あたしもついていくわよ。」

「本部は王城だ。王族たちもあそこにいるが、軟禁状態だろう。」

「分かった。行こうソフィア。」


 オレたちの本当の戦いは、これからだ。

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